ベースのデザインを活かしつつネクストレベルに昇華
ヴィットリオ・シュトロゼック率いるシュトロゼック・オートデザインは、1980年代から、ポルシェのボディカスタマイズ・キットをデザイン、販売してきた。オリジナルモデルの持つ美しさをさらに昇華させる造形は、ポルシェ本社への影響力も多分に持っていたようで、シュトロゼック・デザインで採用された要素が次世代のモデルで本格的に採り入れられている、といったケースも少なくない。
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そしてその才能はポルシェに留まることなく、ランボルギーニ・ディアブロや日産フェアレディZなどへも、新しく美しい造形を与えてきた。さらに他のチューニングメーカーからデザインを外注されることも多く、有名なところではケーニッヒの512BBやテスタロッサなどに、その才能が発揮されているのを見ることができる。
今回制作させて頂いたのは、最後の空冷911となるタイプ993のシュトロゼックモデルだ。“バイオデザイン”と呼ばれるシュトロゼックの造形は円形をモチーフにしたものであり、993のオリジナル・デザインとも非常に良い相性を見せる。作例のベースとしたのはイタレリ1/24スケール・プラモデルの993。前後フェンダーのボリューム感とバンパー形状が大きく異なるので、プラ板をガイドにパテやゼリー状の瞬着を盛り、造形していった。
巧みなパーツ流用と緻密な工作で、豊満ボディだけでなくディテールも再現!
顔面の最大の特徴となる小さなアシストランプと楕円形のウィンカーは、市販の丸いモールド材を予め埋め込み、それをガイドにして形を作ると位置が狂いにくい。ちなみに実車では、このアシストランプはホンダCR-Xデルソル(前期)から、ウィンカーはマツダMX-3(ユーノス・プレッソ/オートザムAZ-3の輸出仕様。欧州仕様はクリアーレンズ)からそれぞれ流用されているとのこと。ボディ各部は左右対称に留意しながら盛っては削りを繰り返し、パテ盛りによって歪んだ面を、硬質で張りのある曲面へと育て上げていく。
別体式のリアウィングはジャンク部品からの改造。先述のケーニッヒ・シリーズとよく似たウィングには、シュトロゼック・デザインに共通のアイデンティティを感じる。再現力に乏しいイタレリのヘッドライトはタミヤのGT2のパーツに置き換えた。しかしそのままでは、“おはじき”を乗せただけのような緩い表情となってしまうので、レンズの縁に色を乗せ、実車の雰囲気に近づけた。タミヤのGT2を作る際にも参考にされたい。
特徴的なホイールも手作り。既成ホイールに市販の丸いモールド材を埋め込み、それをガイドにパテ盛り成形。ホイールキャップ状態として複製し、タミヤGT2のBBSのリムに嵌め込んだ。メッキシルバーで塗装するが、下地を定番の黒ではなく、クリアーコートしたシルバーにすると、ポリッシュド・アルミの軽い感じの金属色になる。内装は、イタレリのキットでは964のままであるため、フロントシートのみ簡易的に993のデザインに変更して対処した。窓はサイドが省略されていたので、0.5mmの透明PET板で作り直し、前後ウィンドウのみキットの物を使用した。元々の歪みが酷く、磨いてもそれを取りきれなかったのが悔やまれる。
こうして何とか完成した993シュトロゼック。派手さはないが独特の佇まいを見せる実車の雰囲気を、どうにか表現できたのではないだろうか。