往年のレーシングプロトへのオマージュ
「モータースポーツとフェラーリの黄金期」に誕生したレーシングカーのイメージを、現代の技術で再現するイコナ・シリーズ。その第3弾にあたるデイトナSP3は、1960年代に活躍したレーシングスポーツカーへのオマージュだという。599台の限定販売となるスーパースポーツに大谷達也が試乗した。
【写真9枚】最大9500rpmの超高回転型V12エンジン搭載、フェラーリ・デイトナSP3の詳細を写真で見る
超高回転型V12ユニットは驚異的なほど柔軟性に富む
「1960年代のプロトタイプスポーツカーは、自動車史上、もっとも美しいデザインのひとつだと思いますが、あなたの意見はいかがでしょうか?」
昨年11月、イタリア・フィレンツェでデイトナSP3が公開された日の夜のこと。私は、目の前に腰掛けたフェラーリ・デザイン責任者、フラビオ・マンツォーニにそう問いかけてみた。「ええ、私も当時のクルマは大好きです。なぜなら、それらはとても官能的でロマンティックだからです。今回のデイトナSP3で、そうした時代へのノスタルジーを甦らせたかった。ただし、単なる懐古主義に陥ることなく、モダンで新しいものを作り上げたいと考えていました」
彼がその言葉どおりに実践したことは、デイトナSP3のデザインを見れば明らかだろう。前後のふくよかなフェンダー、そしてジェット戦闘機のキャノピーにも通ずるフロントウィンドーのデザインは、1967年のデイトナ24時間レースを制した330P3/4を彷彿とさせるもの。とりわけ4本のタイヤを覆うフェンダーの曲面は、単なる形状の模倣を超えて、ある種のエロティシズムまで再現しており、もはや芸術品と称していい。それでいながら未来的な感覚もしっかりと採り入れているのだから、マンツォーニが狙ったとおりの仕上がりといえる。
カーボンモノコックに直接固定されたシートのレイアウトも独創的だ。しかも、このシートはその構造ゆえ、スライドやリクラインをさせることができず、ペダル類とステアリングを調整することで適切なドライビングポジションを実現する。これはレーシングカーに近い考え方だが、実際に試すと、実に快適なポジションに設定できて不満を抱かなかった。これもまたデザイナーの勝利だろう。
エンジンは812コンペティツィオーネ由来のV12で、ロードカー用エンジンとしてはフェラーリ史上最高の840psを発生。しかも、その最高回転数は実に9500rpmに達するのだから驚く。
今回は8500rpmまで回してみたが、精緻なメカニカルノイズを中心とするエンジン音は聞く者の魂を激しく掻き立て、熱狂の渦に巻き込まれたかのような感動を味わえた。デイトナSP3の官能性はデザインだけに込められたものではなかったのだ。
しかも、エンジンレスポンスはシャープなうえ、出力特性のリニアリティが抜群に優れているので、840psというスペックが信じられないくらいに扱い易い。とりわけ、タウンスピードでのドライバビリティが優れていることには誰もが舌を巻くことだろう。
ハンドリングは、操舵初期のゲインが私にはやや高すぎるように感じたが、ステアリングを通じて高い接地感が伝わってくるので不安は覚えない。ロールの感覚も自然で、しかもリアのスタビリティが驚くほど高いので、自信を持ってステアリングを握っていられる。このあたりは、10年以上前のフェラーリとはまるで異なる点だ。
試乗車はピレリPゼロ・コルサを装着していたものの乗り心地は良好で、連続で3時間以上ドライブしても肉体的な疲れはどこにも残らなかった。近年のフェラーリは、リミテッドエディションでも積極的にイベントに参加することを顧客に望んでいるので、デイトナSP3は、そうした使い方にもぴったりの1台といえるだろう。
【Specification】フェラーリ・デイトナSP3
■全長×全幅×全高=4686×2050×1142mm
■ホイールベース=2651mm
■車両重量=1485kg
■エンジン種類/排気量=V12DOHC48V/6496cc
■最高出力=840ps(618kW)/9250rpm
■最大トルク=687Nm(71.0kg-m)/7250rpm
■トランスミッション=7速DCT
■サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン:Wウイッシュボーン
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=265/30ZR20(9. 5J):345/30ZR21(12.5J)
■問い合わせ先=フェラーリ・ジャパン ☎0120-6890-6200
※スペックはすべて欧州仕様