BMWの新しいBEV「iX3」を公道でテスト。新しいアーキテクチャーが採用されたiXと異なり、X3をベースとした仕立てとなるが、後輪駆動であることや、新しいデザインエレメントが随所に取り入れられ、iXともX3とも異なる存在感を放っている。早速、ステアリングを握った第一印象をお届けしよう。
43:53の前後重量配分で軽快な操縦性を実現
BMWは、他メーカーに先駆けて電動化への積極的な取り組みを始めた。2011年にはサブブランドのBMW iを立ち上げ、2013年にはBEV(電気自動車)のi3を投入。そして2020年、BMW iはフラッグシップとなるiXを発表。さらに、2021年にはX3からの派生モデルとなるiX3の販売を開始した。
iX3は、見た目にもX3のラインナップに新たに加わったように思えるが、BMW iのバッジを備え、随所にブルーのエレメントを刺し色として加えることでBEVらしさを主張している。しかも、派生モデルとはいえフロアにはバッテリーが敷き詰められ、モーターへの電力供給以上の役割を果たしていることも見逃せない。
その役割は後で触れるとして、最高出力286ps、最大トルク400Nmを発揮するモーターをリアアクスルの後方に搭載。エンジンであれば、駆動方式はRRということになる。新開発となるモーター、パワーエレクトロニクス、トランスミッションをひとつのハウジングに収めた、第5世代のBMW eDriveテクノロジーがコンパクトだからこそ実現できたレイアウトといえる。
モーターは、400Nmもの最大トルクが瞬時に発揮される一方、パワーの立ち上がりも選択が可能。それだけに、走行モードをエコプロにして市街地を走ると、アクセルを踏むというより指先の力加減を変える程度で周囲の流れに先行。滑らかすぎて力強さが実感しにくいものの、速さは得ているというBEVならではの体験が可能だ。しかも、アクセルを踏み込めば環境性能ウンヌンを置き去りにするほど鋭い加速を示す。
さらに、走行モードがスポーツなら、アクセル操作に即応しつつ、トルクがカタマリになって飛び出すような唐突感なしに刺激的な加速を開始。同時に刺激を増幅する電子音が重なり、エンジン車とは別次元の快感を覚えるのだ。
また、BEVは減速時に運動エネルギーを電力に置き換え、バッテリーに蓄える際に回生ブレーキが働く。i3はそれが強みなので、アクセルの踏み戻しだけで日常の加減速がこなせるワンペダル・フィーリング機能を採用。ただ、慣れないと加減速が繰り返される場面でギクシャクしかねなかった。
iX3は、回生ブレーキの効き具合をアダプティブ、ハイ、ミディアム、ローから選択できる。アダプティブは、先行車との車間などに合わせ自動制御。ローは、回生ブレーキがほとんど効かない。ハイでも、回生ブレーキは強すぎず違和感を抱かずに済む。その一方で、i3のワンペダル・フィーリング機能は採用されなかった。
さて、バッテリーの役割についてだが、低重心化を実現する効果が絶大だ。そのため、走りの基本性能が高くなりサスペンションを引き締める必要がない。iX3は、ダンパーの減衰力を可変制御するアダプティブ・サスペンションを備えることもあり、乗り心地は快適そのもの。しかも、フロントにエンジンがなく前後重量配分は43:53となるだけに、操縦性が軽快だ。ステアリングの手応えも軽めで、切れ味がスッキリしている。
なおかつ、フロアに敷き詰めたバッテリーの役割として遮音効果が大幅に向上することにも注目したい。ザラついた路面を通過する際に聞こえるゴーッというロードノイズは、X3よりも音量が低減している。たとえ聞こえても、フィルターを通しているかのように特定の周波数が突出せず、耳障りではない。静粛性は、ハイエンドサルーンの7シリーズにさえ迫ることもBEVならではの魅力。
なお、フル充電での航続距離はWLTCモードで508kmに達する。家庭などでも使える200V電源により、8時間で0-100%まで充電することが可能だ。
【SPECIFICATION】BMW iX3
■車両本体価格(税込)=8,620,000円
■全長×全幅×全高=4740×1890×1670mm
■ホイールベース=2865mm
■トレッド=(前)1615、(後)1600mm
■車両重量=2200kg
■モーター形式/種類=HA0001N0/交流同期電動機
■モーター最高出力=286ps(210kW)/6000rpm
■モーター最大トルク=400Nm(40.8kg-m)/0-4500rpm
■バッテリー種類=リチウムイオン電池
■総電力量=80.0kWh
■航続距離(WLTP)=508km
■サスペンション形式=(前)マクファーソンストラット、(後)マルチリンク
■ブレーキ=(前後)Vディスク
■タイヤ(ホイール)=(前)245/45R20、(後ろ)275/40R20