電動RCカーを再現した実車をプラモで再現
フォルクスワーゲン・タイプⅠ――ビートルの愛称で親しまれた、20世紀を代表する大衆車である。ドイツで「国民車」として生まれたビートルは、アメリカに渡って「経済車」「小型車」としてのみならず、遊びの道具としても受け入れられた。この「オモチャ感覚」こそが、ビートルを全世界へと普及させた原動力であったかもしれない。
そうしたオモチャとしてのビートルの代表格とも言えるのが、ここでご紹介しているバハバグであろう。オフロードレースで使用するために大幅な改造を施したカスタマイズド・ビートルの総称がバハバグである。カスタム・スタイルの名称であるため厳密な定義はないが、特徴としては次のようなポイントが挙げられるだろう。
●大型のオフロードタイヤと高い車高
●切り詰められた前後フェンダー
●縮められたフロントノーズ
●半分ほどにカットされたリアフードと露出したエンジン
●パイプで組まれたエンジンガード
●上方へ向けた排気管(メガホンエキゾースト)
短縮したノーズに合わせてヘッドライトをフロント中央に寄せたもの(ナローアイ)と、フェンダーにそのまま残したスタイル(ワイドアイ)に分かれるほか、本気の車両の場合にはフレームをパイプで組み直すこともあるようだ。
ビートルのプラモデルは数多いが、バハバグそのものを再現したキットは、バンダイ1/20やミツワ1/24、レベル1/25、同じくレベルのデフォルメモデルであるディールスホイールなどが存在する。余談ながら、ディールスホイールを手掛けたカートゥニスト、デイブ・ディールこそバハバグの基本形を作り上げたひとりであるとも言われている。それはさておき、ここでお見せしている作例は、タミヤ1/24の1966年型ビートルをベースにバハバグへと改造したものだ。
タミヤをベースとしたのは、プロポーションの良さやエンジン再現があること、だけが理由ではない。タミヤとバハバグは非常に縁が深いのである。……海の向こうの「クルマ遊び」であるバハバグが日本においてもよく知られた存在となった理由、それはタミヤが1979年にバハバグを電動RCカーとしてリリースしたからでもあるのだ。このRCカーは「ワーゲンオフローダー」という名称であったが、2010年にこのRCが復刻された際には、その仕様を細かく再現した1/1のレプリカがドイツで製作された。この作例は、この1/1ワーゲンオフローダーを1/24スケールで再現したものなのである。
実車のカスタム手法をそのままプラモに施す
前述の通り作例はタミヤ製キットをベースに、実車のバハバグ改造用キットの内容を反映させる形で制作された。ボディはまず前後フードをボディに仮止めしカットラインを描き込んで切断。リアフェンダーは幅を拡げるため切り込みを入れ、プラ板を挟んでシアノンを盛って成形する。前後ともフードはプレスラインが変わるので、0.2mmプラ板を貼り付けて新造。フロントマスクはプラ板の箱組みを基本に、シアノンDWを盛り付けて造形した。
フロントとリアのガードバーは、アルミ自在ワイヤー2mm(ダイソーにて購入)で自作、接合には瞬間接着剤を使った。ホイールはディスク面をプラ板で自作し、前輪用はモノグラムの‘78トランザム付属のホイールに、後輪用はアオシマ1/20三菱ジープのホイールに、それぞれハメ込んで使用。後輪のタイヤはホイールと同じジープのものを装着、前輪タイヤはトランザムのものを削り込んで自作している。
最後に作者・吉田氏からのひと言。
「こうして完成した今回の作例、『RCカーを再現した実車をプラモで再現した』ということになり、文章にすると少々難解であるが、対象物をスケールダウンして手元に再現するという行為はプラモデルの醍醐味みたいなもので、やはり楽しい。いや、待てよ!? ひょっとするとタミヤのRCカーの元になった実車が存在したのでは? そうなると、『実車を再現したRCカーを再現した実車をプラモで再現した』ってことになるのか?? なんとも複雑な話で訳が分からなくなってくるが、今回完成した1/24ワーゲン・オフローダーは、そんな私の頭の中のモヤモヤを、吹き飛ばす程の満足感と達成感でいっぱいだ」