【国内試乗】「ポルシェ・タイカン」ポルシェらしさはどう貫かれているのか?

EVスポーツカーのあるべき姿とは?

キーを持っていれば、タイカンのそばに近づくだけで格納式のドアハンドルが自動的に現れ、運転席に座るとスタートボタンを押さなくてもReadyの状態になる。キーレスになっても始動時には“捻る”儀式にこだわってきたポルシェも、タイカンではついにそれと決別したようだ。シフトレバーはもはやセンターコンソールから姿を消し、ステアリングの左側、ドライバーからはステアリングポストに蹴られて見えない位置に鎮座していて、P/N/Dを切り替える。シフトレバーは911と同じものを使用する。

タイカンは電気自動車用の通常400Vではなく、800Vのシステム電圧を備えた初の市販車。自宅での普通充電のほか、ターボSの場合50kWで急速充電の場合、100kmの航続距離に要する時間は31分。

アクセルペダルを少しだけ踏み込んでスルスルと、でも力強く加速する様はいわゆるEVのそれだが、驚いたのは各部の剛性感の高さだった。とにかくガッチガチなのである。フロア下に敷き詰められた800V/93.4kWhのリチウムイオンバッテリーは、ボディの構造部材の一部として桁外れに硬い。これに締結される前後アクスルやステアリング系も相当しっかり作らないと負けてしまうわけで、結果としてべらぼうに剛性感の高いボディが出来上がったと推測できるし、ハイパワーのEVスポーツカーには必要不可欠だとも思った。なにぶんにも1000Nmを超える最大トルクを受け止めなくてはならないし、ドライバーの入力に対して約2.4トンのボディをいっさいの遅れなく動かさなくてはならないのだから、それを支える“体幹”はとても重要なのである。

前後に備わるラゲッジスペースはフロントが81L、リアは366Lの容量を確保。

サスペンションはフロントがダブルウイッシュボーン、リアがマルチリンクで空気ばねと電制ダンパーを組み合わせたエアサス。これにお馴染みのPASMに加えて後輪操舵や電子制御式アクティブスタイビライザーがハンドリングをサポートする。911のGT3よりも低いとされる重心の影響もあって、ターンインではほとんどロールを許さず、曲がるというよりは横に移動するかのようである。前後の重量配分もよいし、前後輪の駆動力配分や可変式の減衰力やバネレート、アクティブスタビライザーと後輪操舵の介入などは、状況に応じて常に最適であり、とにかく瞬速で向きを変える。この“瞬速”は圧倒的な加速力の動力性能の質感ともマッチしているので、総じていわゆる違和感はない。
ところが、である。運転している最中も、返却してから3日が経過したいまでも、どうにもモヤモヤが晴れない。それはおそらく、タイカンの発する言葉が聞こえなかったからだ。これまでのポルシェのような対話がなく、タイカンはドライバーの考えを見透かしたように先手先手でクルマを動かしていくように感じた。でもその動かし方自体は完璧であり、ケチの付けようがないのである。

タイカンターボSには軽量なポルシェセラミックコンポジットブレーキ(PCCB)が標準装備となり、並外れた制動力を実現。

私たちはEVのリアルスポーツカーもポルシェのEVスポーツカーもまったく経験値がない。それでも勝手に想像し期待をする。タイカンはえげつないほど速くとてつもなくよく曲がるけれど、想像や期待とは別次元の処にいた。しかし現時点では比較対象がないので、「これがEVスポーツカーの理想型である」と、自分なんかは断言できる自信が持てないのである。もっとじっくり乗ればもう少し彼の言葉を理解できるようになるかもしれないし、ライバルが出現したらその時にようやく「タイカンやっぱりスゲえ」と腹に落ちるかもしれない。

フロントには縦型のエアインテークが組み込まれ、ホイールに流れ込む空気をカーテンのように導いて気流の乱れを抑え空力特性を向上させるという。

リポート:渡辺慎太郎 フォト:郡 大二郎 ルボラン2021年2月号より転載

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