あえて特別なことはしない
その作業時間は、実際、とても短いものだった。降ろすといっていたエンジンは、ラジエターグリルやラジエターそのもの、ホース関連やケーブル関連をエンジンから切り離すと、チェーンブロックをガラガラと操作して、アッという間に降ろしてしまう。そのままクラッチのオーバーホールに入って、それが終われば、ヘッドカバー・ガスケットとカムシールの交換、ウォーターホース交換、ディストリビューターの交換とサッサカ進んでいったのである。
(左上)これが装着されていたビルシュのBTSキット。ノーマルは手元になく、抜けていなければこれを使う予定であった。(右上)編集部が用意したセットは、のスプリングが組み合わされたもの。とりあえず暫定で、装着することにする。(下)III用のアッパーマウントを使うには、スプリングのベースプレートなどをIIIのものに交換しなければならないが。
一方では、梅原メカがブレーキ関連、サスペンション関連の交換作業を展開する。ふたりの手にかかったなら、ゴルフを復活させる作業はいうほど難しくもなく、時間がかかるものでもない。
(左上)今回、ブレーキ関連は阪神ブレーキ工業(TEL:06-6426-5925)のスポンサードを受けている。(右上)リアのローター、すべてのパッド、そしてフロント側のスリット加工、コーティングなどだ。(下)リアのハブベアリングの受け側を清掃。リアのローターも交換するが、ということは、ハブベアリングも交換することになるのだ。
コックススピード神戸が、ゴルフに造詣の深い整備工場であることを改めて認識したのは、例のヒーターボックス・空調フラップの修正作業だ。それは、ヤナセがフォルクスワーゲンの輸入元であった頃のやり方そのものだそう。
(左)手慣れた様子で装着作業を進める梅原メカニック。それもそうだろう、ここはコックススピード神戸。何度も何度も繰り返してきた作業なのである。(右)実は、このショック、一時期キムラのゴルフに装着していたもの。キムラのゴルフはフロントの軽いSOHCで、やや乗り心地が硬かった印象があったが……。
ダッシュボードは外すことなく、しかし、ヒーターボックスは取り出して空調フラップにウレタンを貼り直すというものだった。それは、作業時間の少なさ、その完成度からいっても、まったく文句のない、いかにもヤナセ時代からの伝統的な修正方法と思えた。
(左)なぜか、いの一番に、ダッシュボードのグローブボックスを外した。(中央)コンソールを外すのは、ヒーターボックスの位置からしてよく分かるが。(右)コンソールを抜く。これでヒータボックス本体が現れるわけではない。
(左)間にダクトが入っていて、これを外さなければ、ボックスには届かない。(中央)ようやく現れたヒーターボックス本体。フラップにウレタンはない!(右)事前にエンジンルーム側のホースを外し、ボックスを引っ張り出す。
(左)市販のウレタンシートをフラップのサイズに合わせて切る。(中央)それを丁寧に貼りつけていく。ボックスが外れているので、作業は容易。(右)フラップの修復なったヒ-ターボックスを、所定の位置に戻す。
さて、残る外観を整えるという作業は、アッサリと終わった。小林さんがいつかそんな時がくると信じて(?)、長くストックしていたものが陽の目を見たのである。ABTマーク付き2灯グリルは、GTI用の赤枠付き4灯グリルに交換され、欠品があったテールのエンブレムも補充される。塗装面の小さな傷は別にして、外観はなんということもなしに整ってしまった。最後の最後、ホイールがBBSの15インチに換装されると、そこには見事に蘇ったGTIがあった。
(左上)シフトノブはABTマークの入ったものだったが、IIIの純正オプションのものに変更。ゴルフボール形状で、ブーツには赤のステッチが入る。(右上)いわゆるペダルエクステンションが装着されていたが、これを純正のペダルゴムに戻す。不思議だが、これで室内が落ち着いた雰囲気に。(下)ダッシュボードには、実は様々な飾りが付いていたが、なにごともなかったようにスッキリ。フラップの修正で、エアコンはちゃんと効き、ヒーターもちゃんと効くはずだ。
小林さんの、GTIをさりげなく乗るための、あえてなにも特別なことはしない“リフレッシュ大作戦”は、ここに無事終了。
「クルマを速くするチューニングもボクらの仕事やから、もちろんやらしてもらいますけど、ゴルフのGTIやったら、ノーマルのままでも十分楽しめるんとちゃいます? キチンと整備しとったら、それはもう、気持ちよう走れますから」
小林さんのこんな言葉が耳に残った……。
阪神ブレーキ工業で、フロントのローターを研磨、スリット加工、コーティングまでも実施した。パッドは同社自慢の、ブレーキダストを抑えた“ミューメント”。
コックススピード神戸の小林さんは、ウインドーフィルム嫌い。「触りたくもない」ということで、梅原さんが剥がすことに。この場合、剥がして絶対正解。
車検の準備が整い、仮ナンバーをつけて兵庫陸運事務所に。コックススピード神戸は、魚崎浜町のこの車検場にきわめて近い、東灘区住吉南町にある。もちろん、車検は一発でOK。
小林さんの「こうしたい」という情熱にほだされ、本誌は当時にOP設定となっていたBBSをレンタル。「全部は元に戻らんかったけど、どうですか? エエ感じでしょ」。小林さんは、出来映えにご満悦だ。
取材協力=コックススピード神戸 TEL 078-843-2900
ポート:小倉正樹/フォト:柴田幸治