【国内試乗】「アウディ S8」突き抜けたフラッグシップサルーン

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2020/11/21 15:00

本来はA8のハイパフォーマンス版に位置付けられるS8。しかしその走りは、高速域やワインディング路だけでなく、あらゆるシーンで質感が高められている印象だ。ライバルたちとは全く異なるキャラクターのフラッグシップサルーンといえるだろう。

高性能なだけでなく独創的な新しさを感じる

タイヤがひと転がりしただけで通常のA8とはまったくの別物であることに気づいた。なにしろ、目の前に見えていた路面の凹凸がまるでなかったかのように、S8はボディを揺さぶることなく滑らかに走りぬけたのだ。

アウディの類稀なプレス技術と車体を取り囲むシルバーのアンダーモールが端正さと堂々とした存在感を演出している。

プレディクティブアクティブサスペンション。これが、S8に驚くべき乗り心地をもたらしたものの正体である。カメラで読み込んだ情報をもとに、路面の凹凸をャンセルするように4本のサスペンションを自在に伸縮させる仕組みは、A8の国際試乗会ですでに紹介されていたし、日本仕様のA8にもオプションで選べるようになっている。けれどもS8の乗り心地は、プレディクティブアクティブサスペンション装着のA8さえ軽々と凌ぐほど快適。おそらくセッティングがさらに熟成されたのだろうが、スポーティなS8にこれほどソフトな足回りが与えられたことが私には意外だった。

4L・V8エンジンは、最高出力571ps、最大トルク800Nmを発揮。ここに、48Vマイルドハイブリッドのドライブシステムを組み合わせることで、さらなる高効率と快適性を実現している。

もっとも、さらなる驚きはその直後に訪れた。私が意外なほどソフトと感じたその乗り心地は、実はダイナミックモードで体験したものだったのだ。「このS8、いったいどうなっているんだろう?」。私はそんな疑問を抱いたまま、雨の東名高速を西に向けて走り続けた。

少し落ち着いたところで、改めてドライブセレクトを切り替えてみる。もっとも快適性が高いのはショーファーモード。なるほど、こちらを選ぶと足回りの動きはさらにしなやかになり、目地段差のショックもほぼ完全に消え去る。だからといってダンピング不足と感じることもない。なかなか巧妙なセッティングだ。

水平ラインを基調としたインテリアは、スイッチ類を極力減らし、タッチクスリーン式の大型ディスプレイを上下2段に並べるデザインを採用。このあたりはA8と共通のディテールとなる。

いっぽうのオート・モードでは、路面の継ぎ目を乗り越える際に足回りからブルブルという軽い振動が伝わってくる。まるで、ブッシュとエアサスペンションの共振点が重なっているかのようなバイブレーションで、正直、あまり心地よくない。そこで試しにダイナミッ・モードに戻すと、このブルブルはきれいに消え去った。おまけにハーシュネスの処理も良好で、快適性は極めて高い。私はダイナミ・モードのまま箱根を目指すことにした。

運転席/助手席の座面、シートサイドボルスターとバックレストサイドボルスターなどは3段階で調整可能なベンチレーション機能を備え、快適なシート環境が提供される。

571psと800Nm(!)を発生させる4L・V8ツインターボエンジンは、巡航時にはそんなモンスター級のパワーを“ほのめかす”こともなく、自らの存在を完全に隠したまま粛々と仕事をこなしている。その流れるような走りからこれがスポーツセダンであることを想像するのは不可能に近い。

ようやく辿り着いたワインディングロードで、S8は鮮やかにその翼を広げて見せた。ハードコーナリングを試してもロールはしっかりと抑え込まれており、内輪がつま先立ったような感触を伝えることは皆無。さすがにスーパースポーツカーに比べれば挙動は大きめだが、それによってステアリングレスポンスが鈍ったりスタビリティが低下することもない。ドライバーは、限りない安心感に包まれながら、コーナーを駆けぬける歓びだけを享受できる。それも豪華極まりないキャビンでゆったりと寛ぎながら……。これほど未来感覚に溢れたスポーツドライビングもほかにないだろう。

もともとアウディのSモデルはパフォーマンスでAモデルを凌ぐだけでなく、快適性でも上回るのがある種の伝統だった。最新のS8もその伝統にならった格好だが、ただ快適なだけでもなければスポーティなだけでもない。なにかもっと独創的で先進的な世界観が味わえる点が強く印象に残った。そういえば、最新のA6からもある種の未来性は感じられる。どうやらアウディ、アッパークラスのクルマづくりに新たな手がかりを掴んだようである。

スポーティで先進的なデザインのHDマトリクスLEDライトをフロントとリアに搭載。Sモデル専用となる21インチアルミホイールとレッドブレーキキャリパーは標準装備。

フォト=篠原晃一/K.Shinohara ルボラン2020年12月号より転載

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