BMWのスペシャリストであるBMW M社が手掛けた、X5MおよびX6Mが待望の日本上陸を果たした。SUVでありながらサーキット走行を想定し開発したというこの2台。いったいどんなパフォーマンスを見せてくれるのだろうか?
しっかり分けられている2台のキャラクター
試乗の前に、ついつい思い出していたのは初代X5M/X6Mのことである。当時のMモデルで初のSUV、初のターボエンジン+トルコンAT、初の4WDとして登場したX5M/X6Mは、事前に抱いていた「それでもMの名に相応しい走りが出来るのか」という疑念を見事に晴らす素晴らしいドライバーズカーに仕上がっていて、思わず惚れ込んでしまったのを今も鮮明に覚えている。
それから数えて3世代目となる最新のX5M/X6Mは、両車コンペティション仕様での導入となった。最高出力が標準の25ps増しとなる625psに高められ、前21インチ/後22インチの前後異サイズタイヤが与えられるなどした、サーキットまで見据えたと謳われる仕様だ。“M”のレターに強い思い入れを持つ日本のユーザーには、究極のモデルじゃないと許されないのだろうか。
ベース車が派手になっていることもあり、デザインもさらにアグレッシブになっている。特にX6Mの隈取りのようにエアインテークから繋がったスポイラーの迫力は瞠目モノだ。実はディテールには両車結構違いがあり、アイテム的にもX6Mにはルーフレールがなく、一方でリップスポイラーが追加されていたりもする。
インテリアの仕立てもMの流儀で、赤いふたつのMボタンを備えた専用ステアリングホイール、Mマルチファンクションシートなどが備わる。
まず乗り込んだのはX5M。こちらも赤いスタートスイッチを押してエンジンを始動させると、周囲の空気が震えるのが解った。エンジンの圧倒的な存在感を、否応なしに意識させられる。実際、都内の道を少し転がすだけでも、特別な何かを操っているんだと強く意識させられるのは、やはりこのエンジンに拠るところが大きい。
首都高速では、路面の継ぎ目で結構鋭い入力がある。揺すられ感は強く、落ち着いて乗ってはいられない。有り難いのは、見た目通りホールド感の高いシートがクッション性にも優れていることだ。
最高出力625psのV型8気筒4.4Lツインターボエンジンは、右足にわずかに力を入れるだけで、欲しいだけのトルクを瞬時にもたらす。最大トルクは750Nmもあるが特性はフラット。抑揚のある回り方ではないが、速度が上がるほどに車体が路面に吸い付いていくかのような安心感も相まって、それがかえって凄味にも感じる。8速ATの変速も速くはないが、ガツンと来るような刺激性が薄いというだけで、走りに不満はない。
エンジン、ステアリング、サスペンション、ブレーキ等々、セッティングを色々変更できるのはいいが、さすがに短時間の試乗で全部試すことはできなかった。シャシーはSPORTにセットした方が上屋の動きが収まると解ったところで乗り換えの時間だ。
X5Mでは迷わず一番低くしていた運転席のハイトアジャスターだが、X6Mではシート位置を一段高めにセットした。SAC(スポーツ・アクティビティ・クーペ)と謳うだけあって、全高が低いだけでなくドアトリムの形状なども異なっていて、より囲まれ感が強まっているからである。
走りっぷりも、すぐに違いが感じられた。一般道を普通に走っていても挙動が明らかに軽快なのだ。X6Mは全高が80mm低く、車重も30kg軽いだけに違いが出るのは当然。しかし、それだけでなく両車はおそらくサスペンションのセッティングも異なるようだ。
ワインディングロードでのX6Mは、余計な姿勢変化を意識させることなくステアリングを切った分だけ素直にノーズがインに入っていく。実際にはロールもピッチングもしているのだが、その進行度合いが穏やかなので、まったく気にならないのである。
ハンドリングはFR風の味付けで、アクセルで曲げていく感覚を味わえる。思わずペースが上がるが、そうなると徐々にフロントの接地感が甘くなってくる。あるいはステアリングの手応えが足りないだけかもしれないが、ここはもう少し落ち着きが欲しい。
実はX5M/X6M、車体のフロント部分には頑強なブレースが追加されている。構造はM8のものと同様のようだが、車重はM8クーペに対して400kg以上も重いだけに、それでもまだ足りないのかもしれない。
改めてX5Mに乗り換える。フル加速を試みると、室内で聞こえるサウンドはX6Mより若干大人しいようだ。スポーツエキゾーストのスイッチを押してあっても、重低音はそこまで響かない。
そこそこのペースまでなら、コーナリングにX6Mとの違いはほとんどない。しかし、よく観察すれば姿勢変化はやはり大きめで、ステアリングを戻すタイミングもワンテンポ遅く感じられる。
一方で足まわりはよく動いていて、その意味では安心感は高い。X6Mのようにスパッとは曲がらないし旋回スピードも低いが、限界が高い分、行き過ぎるとヒヤッとさせられがちなX6Mより、このぐらいの方が誰にとっても扱いやすいのは間違いない。
心地良い汗をかいたあとは、ACCをセットして都内へ。高速道路では一定条件下でハンズオフ機能が使えるから、リラックスして戻ることができた。
Mのハイパフォーマンスな走りの魅力を存分に楽しみたいというのなら、選ぶべきはスポーツクーペのX6Mだろう。一方、SUVとしての快適性、特に乗員全員のそれにも配慮するなら、X5Mの方がいい。最終的には好みの問題だが、嬉しいのは2台の味付けがしっかり分けられていることである。初代モデルからの良き伝統と言っていい。
ただし、個人的にはコンペティション仕様ではないレギュラーモデルも欲しい気はした。実際に試してはいないので断言はできないが、ホイールサイズが小さければ、乗り心地はもう少し穏やかになるだろうし、動力性能の差だって、0→100km/h加速が3.9秒から3.8秒に、わずか0.1秒縮まるだけの話なのだから。
こうした細かいことまで言及したくなるのは、初代モデルのそれにも劣らないインパクトのある存在感に大いに気持ちを揺さぶられたからこそである。“M”の名を戴くクルマは、やはりそうでなくては。その意味では今回も、期待が裏切られることはなかったのだ。
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