地道な努力の積み重ねがGT-Rから感じ取れる
今回は2020年モデルのGT-Rをワインディングに連れ出し、最新のポルシェ911カレラ、アストンマーティン・ヴァンテージと乗り比べてみた。いまでも一線級の戦闘力を保っているかどうかを試してみたのだ。
当日は気温が低く、雨が降ったり止んだりの悪コンディション。走る場所によって路面はウェットだったりドライだったりした。まずはモノサシになってくれそうな911から走り出す。新型の992型はカレラ4SなどAWDに比べると、RRのモデルはハンドリングの軽快感が強調されている。コーナー入り口でステアリングを切り込むとスッと外側のフロントタイヤに荷重がのってシャープに回頭。AWDも思い通りに走ってくれるが、安定感重視といったところで、腕のたつドライバーならばRRのほうが面白いと感じるだろう。
それにしても最新のポルシェはすごい。引き締まっていながらも、絶妙なしなやかさを持つサスペンションがこの日の路面状態などものともせず、最大限のグリップを提供し、ドライバーに自信を与えてくれる。RRの悪癖もほとんど感じさせず、可能な限り速く走ろうという気にさせてくれるのだ。
それに比べるとヴァンテージはドライコンディションで最大限の威力を発揮するマシンに仕立てられていると感じた。というのも、走り始めがウェット路面で、極太のタイヤがなかなか暖まらなかったからだ。冷えているうちは無理は禁物だぞ、と直感させられたのだから確かなインフォメーションがあるとも言えるが、試しにアクセルをグイッと踏みつけてみると、やはりヌルッとタイヤが横滑りする。
だが、しばらく走っているうちに雨雲が消え、ドライ路面になると途端に生き生きとしてきた。フロントミッドシップで比較的に短いホイールベースを持つヴァンテージは、911カレラ以上に軽快なハンドリングが魅力だ。ズバッと回り込みつつ、コーナー出口でアクセルを踏み込めばデフの効いた感触とともに強力に地面を蹴って立ち上がっていく。英国のライトウエイトスポーツの延長線上といった感じで自在なハンドリングが気持ちいい。
GT-Rには雪道でも乗ったことがある。重量級のボディが仇となるかと思いきや、タイヤを路面に押しつけるコンセプトが活きていて、存外に乗りやすいことに驚いた。さすがはマルチパフォーマンスなのだ。だから今回のウェットコンディションでもガンガンに攻めていけるかと思いきや、少し合わないところもあった。20インチのランフラットタイヤは全体的に硬いため、荒れたワインディングの轍でワンダリングが出やすく、なおかつ最新の優れた電子制御パワーステアリングに慣れた身からすると、GT-Rの電動油圧パワーステアリングはタイヤと路面のコンタクト状況を把握するのがわずかに遅れ気味になって進路を乱されがちになる。そこさえ克服してしまえば、GT-Rは怒濤のパフォーマンスが引き出しやすく、安心してドライビングを楽しめた。
2014年に開発責任者が水野和敏氏から田村宏志氏にバトンタッチとなってから、GT-Rもパフォーマンスアップとともに快適性や情緒的なフィーリングに力が入れられた。2017年モデルではボディにも手が入り大きく進化。2020年モデルは快適性とパフォーマンスの絶妙なバランスが取られたとともにパワートレインもハンドリングもレスポンスが煮詰められ、まさに熟成の域に達している。13年経っても色褪せていないのは地道に改良を重ねてきた賜物だ。最新の欧州スポーツカーとまともに比べてしまうと、電子制御のハイテクシャシーなどでかなわない面もあり、もうそろそろ次世代を望みたいところではあるが、日産GT-Rが日本車のひとつの金字塔であることは間違いないのである。