スマートEQの国際試乗会が行われたのは、スペインのバレンシア。温暖な気候のリゾート地として有名なこの都市の中心部は渋滞が多く、走るクルマの多くがA、Bセグメントのコンパクトカーだ。そんな場所にこそふさわしいBEV版スマートを試してみた。
BEVでこそスマートの本領発揮
スマートはこれまでも電動化に積極的に取り組んできたブランドだ。日本でも2012年から2代目をベースにしたBEVが販売されていたし、欧州ではすでに3代目をベースにしたスマートED(エレクトリックドライブ)が走っていた。ブランド誕生から20周年を迎えた2018年、内燃エンジンモデルの生産を終了し、電気自動車(BEV)へ一本化する方針を発表。ダイムラーの電動車ブランド“EQ”ファミリーの一員として生まれ変わった。
新型スマート電気自動車は最大トルクの160Nmを瞬時に発生。リアに搭載された同期モーターの最高出力82psから想像されるよりはるかに強力な加速を手にすることができる。
スマートEQはハードウェアとしてはEDのマイナーチェンジ版ということになる。フォーツー、フォーフォーともに容量17.6kWhのダイムラーの小会社アキュモーティブ社製リチウムイオンバッテリーを搭載。最高出力は60kW、最大トルクは160Nm。一充電航続距離はフォーツーが159km、フォーツーカブリオが157km、フォーフォーが153kmとなっている。
見切りのよさと他にはない取り回しのよさもこの超コンパクトシティーカーの大きな強み。室内はこれまでどおりゆったりとしており、シフトレバー手前には、スマートフォンなどが入る収納スペースが設けられた。
フロントマスクはBEVモデルらしくグリルを廃してエンブレムも取り除き、シンプルに“smart”のロゴのみが配された。インテリアの基本的な造形は従来モデルと変わらない。ダッシュボード中央には、8インチのタッチスクリーンが配置されており、ナビゲーション機能のほか、Apple CarPlayにも対応する。これまで日本仕様ではナビは後付けのものだったが、スマートEQ導入時にはこの純正モニターが採用されるという。
新型のハイライトは、CASE戦略にのっとったデジタル化、コネクティビティの強化にある。アプリを活用し、駐車位置の確認やドアロックの施錠、解錠を遠隔地から行えるほか、友人や知人を無料グループと有料グループに分け、スマートフォンを使ってドアロックの解除から支払いまでを簡単に行なえる「ready toshare」や、駐車場のリアルタイムの空き状況を確認し予約することができる「ready to park」など、シティコミューターとしての使い勝手が向上している。ただ残念ながらこうした機能が使えるのはスペインをはじめ、ドイツ、フランス、イタリアなど欧州の一部に限られており、法整備の課題もあって日本への導入予定はないという。
日本仕様の充電に関してはCHAdeMOには対応しておらず、また欧州仕様にオプション設定されている22kWの車載充電器も設定がない。100V/15Aの普通充電で80%充電までの所要時間が約9.5時間、200Vではおよそその半分になる。
BEVにはなってもイグニッションにキーを差して捻ってスタートという作法は変わらない。アクセルを踏みこむといきなりトルクが立ち上がるような過激なセッティングではなく、スムーズに速度が高まっていく。加速感は内燃エンジンのターボ仕様にも勝るとも劣らない。フロア剛性も高く、乗り心地も良好だ。特にフォーツーは後輪駆動ならではの後ろから蹴り出されるような感覚が味わえて楽しい。ただ、いわゆる“ワンペダル”走行はしない。これは「できるだけガソリンエンジンモデルと変わらないドライブフィールを」というエンジニアのこだわりによるものだ。通常モードではレーダーセンサーを使用して、前走車との車間距離や坂の勾配などを測定し自動的に回生の度合いを調整。ECOモードではアクセルオフに対してより積極的に回生を行なう。
家庭に充電設備があれば、通勤や買い物など片道約60km圏内の往復のアシとしては十分に使える。BEVでこそスマートの本領発揮、だと思うのだ。