キドニーグリルの面積が縦方向に拡大したことでフロントビューにより存在感を際立たせた7シリーズと新生X7。それでいて精悍さを守るBMWのハイエンドモデルたち。その真価を問うために東京日本橋から静岡は南伊豆までのロングランを試みた。
旗艦7シリーズが放つカリスマ的な存在感
2019年6月、7シリーズのLCIモデルと新生X7が日本市場で発表された。その発表会場で入手したカタログは、表紙がそれぞれゴールドとシルバーの布張り装丁で、箔押しで「BAYERIRISCHE MOTORENWERKE」と記されていた。この豪華版カタログは入手が難しいかもしれないが、BMWの公式サイトでカタログをダウンロードすればイメージは伝わると思う。ちなみに他のシリーズは走行シーンと「駆けぬける歓び」のキャッチを組み合わせている。
実は、8シリーズを含む7シリーズとX7は、BMWのラインアップでも特別な位置づけとなる。これらハイエンドモデルを訴求をするために、装丁に凝りBMW創業当時からの正式名称が記載されているのだ。
では、ハイエンドモデルの真価はどこにあるのだろうか。まずは、日本国道路元標が設置されている東京日本橋を走らせてみた。740dと745eは、重厚感ある街並を背景にしても溶け込んでしまうことのない存在感を放つ。それでいて華美に装うわけではなく、その立ち居振る舞いはサルーン界のカリスマといえる風格がある。
しかも、両モデルともに社会的責任が重いポジションのオーナーにふさわしく環境面への配慮も行き届いている。740dは燃料消費率(WLTCモード)で13.1km/Lと523i(直列4気筒)の12.8km/Lより優れている。ディーゼルとガソリンの違いはあるが、搭載する3L直6ツーステージターボディーゼルが発揮する680Nmもの最大トルクを考えれば高効率ぶりに驚かされる。
一方の745eは、モーターによるゼロエミッション走行が可能だ。航続距離はWLTCモードで50.4kmだが、別の機会に計測した際にはフル充電状態から混雑した都内の幹線道路を20km以上走り、高速道路に入って33.8kmに達したときに3L直6ターボエンジンが始動した。交通量が少なく流れが整った区間が含まれていれば40kmを超えた可能性もある。保管場所に充電設備があれば、BMWのハイエンドモデルでも日常的な走行でクルマに起因する環境負荷は限りなくゼロに近くなるわけだ。
こうした特徴は、精神的な負荷を軽減する。もちろん、両モデルともに身体的な負荷もゼロに近い。740dはM Sportだったが、4輪エアサスペンションはカメラによる路面検出機能を含むエグゼクティブ・ドライブ・プロを装備する。従来型の7シリーズは、荒れた路面でわずかにボディに振動が残ることもあったが、新型はまったく気にならない。745eはカメラこそ用いていないが、ダンパーの減衰力は可変制御されるので乗り心地は極めてしなやかだ。リチウムイオンバッテリーの搭載によりそれがマスダンパーの代わりを果たすのか、乗り味のスッキリ感は740dに勝る。
同行したX7は、BMWでは初となるフルサイズのSUVだ。CFRP(カーボン繊維強化樹脂)こそ組み合わせていないが、プラットフォームは7シリーズ譲りだ。ボディによる振動の減衰性は感動を覚えるほどで、ザラついた路面を通過してもロードノイズがキャビンに響くことがない。路面段差のようなピーキーな衝撃が入ると、ビシッという振動がボディに残ることはあるがそれも一瞬で収まる。
しかし、X7の威風堂々ぶりは7シリーズ以上であり、周囲の熱い視線を感じる頻度が高い。走らせ方によっては、それが羨望ではなく威圧になりかねない。だが、7シリーズを含めアシステッド・ドライビング・プラスが用意されているのでハンズ・オフ機能付き渋滞運転支援機能を介入させることができる。高速道路に限られるが、威圧的でない車間距離を保ちながらステアリングから手を放した状態での特定条件下自動運転(レベル2)が実行される。
実際に試しても、走りの楽しさとは無縁の場面では運転がラクになり先行車からのミラー越しの視線も意識せずに済む。渋滞区間を通過しても、レーンチェンジのステアリング操作はクルマ任せ(手を添える必要はある)となり、アクティブ・クルーズ・コントロールの機能は維持されるのでペダル操作による速度調整は不要だ。特定条件から外れれば解除されてしまうが、不測の事態を回避できる可能性も高くなるだけに、BMWのハイエンドモデルだからこそ必要不可欠な機能といえる。