創業者である父を超えたカーガイがファミリービジネスを進化させる
ドイツ・アルピナ本社の主催となる、アルピナ・オールラインアップ試乗会がオーストリアのザルツブルクで開催された。そこにはラグジュアリーを極めた最新フラッグシップも登場していたのだ!
5月に行われた試乗会に招待された木村リポーター。40年以上もアルピナ社を取材してきたからこそB7の試乗が可能になったのだ。
リポーターがはじめてアルピナを取材したのは今から40年以上も前のことで、確か自動車メーカーとしてドイツ運輸省から認定を受けた時期と重なっていた。当時は創立者のブルクハルト・ボーフェンジーペン氏が直接対応してくれた記憶がある。彼にはふたりの息子がいて、長男のアンドレアス(通称アンディ)は当時すでにフォーミュラー・フォードなどのドライバーとしてモータースポーツに参戦していた。そして現在はアルピナ社のCEOとして同社を率いているわけだが、このアンディの人となりはこれまであまり伝わってこなかった。世間では「二代目は親の七光り、実力はそれほどでもない」と言われることがある。しかし、アンディに関してはむしろ親を超えるカーガイで、さらには経営手腕でも上回るほどの実力者である。
BMW ALPINA B7
【Specification】■全長×全幅×全高=5268×1902×1491mm■ホイールベース=3210mm■車両重量=2175kg■エンジン種類/排気量=V8DOHC32V+ビターボ/4395cc■最高出力=608ps(447kW)/5500-6500rpm■最大トルク=800Nm(81.6kgm)/2000-5000rpm■トランスミッション=8速AT■サスペンション(F:R)=ダブルウィッシュボーン:マルチリンク■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク■タイヤサイズ(F:R)=255/40ZR20:295/35 ZR20
それをよく物語るのが今回オーストリアのザルツブルグリングで行われたアルピナ・オールラインアップ試乗会であった。まずアンディは、前の晩のディナーに遅れて登場したのだが、その理由が「突然友人のインポーターからアルピーヌA110試乗のオファーがあったのだが、試乗車の到着が遅れて、結局、そのままA110を運転してきてしまいました」というもの。つまりディナーに遅刻してしまうよりも新しいクルマに触れる欲求が強かったわけで、参加者は彼の遅刻を責めるどころか、そのカーガイぶりに拍手を贈ったほどであった。
またビジネスにおいては、ライアビリティ(企業責任)の縛りが強すぎるために、ブルクハルト氏が二の足を踏んでいた北米ビジネスを積極的に行い、今やドイツや日本と並ぶ大きな市場に成長させている。
こうしたアンディの才覚によってアルピナは順調に業績を伸ばし、少々古い数字だが2014年には1,700台を出荷、その総売上高は9,000万ユーロ(約109億円)に達した。そして現在はおよそ250名以上の従業員がそのエクスクルーシブなハイエンド・スポーツモデルをほぼハンドメイドで生産しており、その高い品質と卓越したダイナミック性能はアルピナ・ブランドのコアバリューとして全世界に認知されている。
最後にアンディが父親から受け継いだもうひとつの才能。それはワインに対する造詣の深さである。アルピナの総売り上げのおよそ20%がワインディーラーとしての収益であり、敷地の一角にはなんと約100万本のワインを貯蔵する倉庫を有する。アンディはこのすべてのワインに精通していて、昨年招待を受けたワインテイスティングではクルマに勝るとも劣らない情熱を披露してくれた。
熟練職人が手掛けるハンドメイドのインテリアには上質なナッパレザーを用いたコンフォートシートを備え、ラヴァリナレザー製スポーツステアリングにはブルーとグリンのステッチが施される。ドライビングアシスト機構やフルカラーのヘッドアップディスプレイ、リアビューカメラを備ええた最新世代のインターフェイスに進化。フルデジタルメーターもブルーに彩られた新デザインに。
さて前置きがながくなったが、そんなアンディがザルツブルグリングにて企画した「アルピナ・オールラインアップ試乗会」の報告に入ろう。まず最初にリポーターを待っていたのは、アルピナ最新のモデルとなるB7リムジンである。ベースになったのは2015年に登場し、今年1月に大規模なフェイスリフトを受けたBMW7シリーズ(G11)である。アルピナはそのマイナーチェンジの発表からわずか3カ月後に、スイスで開催されたジュネーブ・オートサロンにおいて、このアルピナB7フェイスリフトバージョンを発表。そして今回、ザルツブルグに持ち込んだのである。