アストンマーティンは、1913年に設立された英国のラグジャリースポーツカーブランド。2013年の創立100周年という節目に、続く第2世代にさらなる成長を遂げるため「セカンドセンチュリープラン」を発表。すでに登場しているDB11、DBSをはじめ、ラピードE、SUVモデルのDBX、ラゴンダの復活を含むニューモデルの導入を予定している。ここでは、フラッグシップモデルDBSのオープンモデルの第一報をお届けしよう。
オープンGTとしても逸品といえる仕上がり
構造的で論理的で物理的な視点はとりあえず置いといて、アストン・マーティンDBSスーパーレッジェーラ・ヴォランテという少々長い名前のこのオープントップモデルは、最近ドライブしたクルマのどれよりも腰が抜けるくらい気分がよかった。それは、オープンカーならどれでももれなく味わえる屋根が開くことによる開放感だけでなく、操縦性や動力性能やサウンドなどがバランスよく融合した結果であり、運転中は終始、余人をもって代えがたい極上のひとときであった。
アストン・マーティンのGTシリーズ(DB11)とリアルスポーツカーシリーズ(ヴァンテージ)の間に位置する3番目の柱がスーパーGTシリーズのDBSスーパーレッジェーラである。ベースはDB11だが、5.2LのV型12気筒ツインターボエンジンは、DB11より117psも上乗せされており、イタリア語の“超軽量”を意味する“スーパーレッジェーラ”の名に恥じぬよう、ボンネットやルーフをCFRP製に、ドアをアルミ製にするなどしてDB11よりも約70kgの軽量化が図られている。
DBSスーパーレッジェーラ・ヴォランテは、そのコンバーチブル仕様である。“超軽量”を名乗りながらもクーペより100kg重くなってしまったそうだが、全長4.7m、全幅1.9mのボディにV12を積んでも1863kgの車両重量は依然としてスーパーだと思う。100kgの内訳は、コンバーチブル化にともなうルーフ関係とボディの強化が主で、サイドシルとリアのバルクヘッド部分はクーペよりも頑強な構造に変更されているという。重量増はクルマにとって決して喜ばしいことではないけれど、ヴォランテには功罪となった。クーペの前後重量配分は51:49で、リアトランスアクスル形式でも12気筒が収まるフロントのほうがわずかに重かったが、ヴォランテでは重量増がボディ中心よりも後方に集中していたため、50:50の理想的配分を実現しているからだ。
リアフェンダーの造形はよく見るとクーペとまったく異なるが、全体の雰囲気はクーペのそれを上手に踏襲している。ボディサイズやパワースペックなどもクーペと大きく変わらないし、運転席に座った時に目の前に広がる景色も同じである。しかし、センターコンソールに手を伸ばしルーフの開閉スイッチに触れば、室内にだんだんと陽光が広がって、ヴォランテでしか見えない光景に移り変わる。
走り出してすぐに思わずにやけてしまうのは、耳に届くサウンドが官能的にして清々しいからだ。前方から吸気音とメカニカルノイズ、後方からエキゾーストノート。これら三者三様の旋律がひとつになって頭の上から降ってきて、エアカーテンのようにふわっと上半身を包み込む。もうこれだけでも堪らないのに、痛快な操縦性と圧倒的な動力性能が気分をさらに高揚させる。
サスペンションの絶妙なセッティング、最適なステアリングギヤ比、理想的な前後重量配分など基本的要素がきちんと整っていることに加えて、ブレーキを使ったトルクベクタリングの巧妙な働きにより、コーナーではステアリングを指1本分くらい動かしただけで車体はきれいな旋回円を描く。わずかなロールを伴って直ちに旋回姿勢を整えるものの、ステアリングゲインが高いわけではなくナーバスでもないから、気持ちよくステアリングが切れるのである。
100kg増えても725ps/900Nmのパワーはまだまだ余りあるほどで、胸をすく加速を体感できるし、右足の動きに合わせてドラマチックな音色がサラウンドで響き渡る。DBSスーパーレッジェーラ・ヴォランテは、オープンGTカーに求められるすべてを見事に揃えた逸品だった。
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