佐渡の金と養蚕がもたらした宿場の繁栄「北国街道」(長野県/新潟県)【日本の街道を旅する】

信玄と謙信が覇権を競い真田親子が愛した豊かな地

海野宿の道路脇にぽつんと残されていた昔懐かしい消火栓。

北国街道の通る東信地方は古くから実り豊かな土地だった。寒冷な信州のなかにあっては気候が比較的温暖で、千曲川やその支流の水利にも恵まれていた。そのため、平坦地には田畑が拓かれ、周囲の高原には『御牧』(みまき)と呼ばれる官営牧場も数多く点在していた。

別所温泉の安楽寺は、伝承では天平年間(西暦729-749年)の創建。日本で唯一の八角三重塔は国宝に指定されている。

そこに目を付けたのが甲州の武田信玄と越後の上杉謙信である。東信の覇権を争った両雄は、1553年から1564年までの10年あまり、千曲川と犀川の合流点に広がる川中島の平原(現在の長野市南郊)を中心に激戦を繰り広げる。その後、徳川の上田攻めを二度にわたって撃退した真田昌幸・幸村親子の時代を経て、東信地方には平和が戻り、豊かな田園地帯に伸びる北国街道は活気を見せていく。

別所温泉の共同湯・石湯(入浴料150円)は池波正太郎の時代小説『真田太平記』にも登場する。

現在、長野県庁は長野市にあるが、もともと信濃国の国府は国分寺遺跡のある上田市と海野宿の中間あたりに置かれていた。そこから西の美ヶ原山麓に向かって進むと、塩田平の最奥部にあるのが別所温泉である。

観光施設の少ない海野宿。古い家並みの大半は、人々が普通に生活している。

鎌倉幕府の執権、北条氏の直轄地だったことから別所(=別荘)と名付けられた信州最古の温泉地には、国宝の三重塔がある安楽寺をはじめ、鎌倉文化を色濃く伝える名刹が点在する。また、上田市街から別所温泉にかけては、今から100年ほど前に建てられた古い建物や木造橋が数多く残り、映画のロケ地としても利用されている。

千曲川の支流、浦野川にかかる醤油久保橋。映画ロケの受け入れに積極的な上田市ではこうした風景の保存・復元に力を入れている。

こうした古き佳き日本の風景が数多く残されているのは、明治の養蚕ブームを最後に、経済成長の流れから取り残されてしまったからかもしれない。しかし、のんびりと旅するにはじつに気持ちのいい土地なのである。

※掲載データなどは2011年9月末時点のものです。実際におでかけの際は、事前に最新の情報をご確認ください。

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