扱いやすそうで実は猛獣NSXの本質は二面性
「僕らはあの日を忘れない。GT-RとNSXを夢見て育った子供たちは多かったはずだし、オジさんたちも歓喜した。私は幸運にもGT-RともNSXとも深く関わり、その時の経験がその後の自動車人生に大きな影響を与えてくれた。だから、決して忘れない。でも、今から思うとあの時の君たちはとても可愛かった。パワーよりもシャシー性能が勝っていたから」。こんな抒情詩が思い浮かぶ。
今回のDSTでは、ともに2016年にリリースされたGT-RとNSXのダイナミクスを徹底的にテストした。点数ではGT-Rがわずかに上回ったものの、お互いに課題は残った。テストを振り返りながらそこを明確にしておきたい。
まずGT-Rだが、チーフエンジニアの水野氏が去った後、ロードカーとして乗りやすい性能を追求した。さらにホットなニスモ仕様もあるが、ベースモデルのGT-Rは一般道の乗り心地を改善している。フラットな路面は快適に走るが、荒れた路面では快適性と安定性のバランスが乱れやすい。ダンパーがノーマルではうねった路面でボディが揺れ動くし、ロールダンピングが足りないと感じる。スポーツモードに切り替えると、ボディのダンピングは高まるが、乗り心地が悪くなる。このあたりのサスペンションチューンは、まだ改善の余地があるだろう。
一方21世紀のNSXは、宇宙人が開発したようなエポックメイキングなスポーツカーだ。ミッドシップとハイブリッドという組み合 わせはポルシェ918など一億円級のスーパーカーの定番だが、NSXは2400万円でそれを実現した。ただ、スペックを見るとスーパーカーなのだが、車両コンセプトは理解しにくいところもある。
ひとつは一般道路の乗り心地や快適性を高めることで、誰にでも乗りやすいスポーツカーを目指したこと。これは初代NSXのコン セプトに通じるものだ。
実際に高速道路を走るとロードノイズも静かで乗り心地は良い。スーパーカーとしては素晴らしい快適性で、先代のNSXを超える 価値だ。ステアリングの動きが穏やかなので、新型NSXが売りにしているベクタリング効果は感じられない。だが、ワインディング でステアリングを切り込むとNSXは変貌する。一気にインサイドに引き込まれるようなヨーイングモーメントが発生し、ステアリン グを2倍も操舵した感じだ。
そしてもっとスピードを高めてスロットルを踏み込むと「誰でも乗れる」というコンセプトとはほど遠く、まるで腹を減らした猛獣が檻の中から飛び出してくるような勇ましさだ。プロドライバーでも油断は禁物。そんなモンスターマシンだということをしっかりと伝えておきたい。つまり、ジキルとハイドのような二重人格こそがNSXの本質なのだ。こんなヤンチャなスポーツカーは珍しい。だからこそ、NSXは孤高な存在だと感じる。なにせあのGT-Rが良い子に思えるのだから。