大見得を切ってトップタイム!
「一度でも波に乗せると、我々は厄介な存在になりますよ」
前戦の鈴鹿ラウンドで初優勝を成し遂げた直後、インタビューのマイクに向かって僕は、そう大見得を切ってしまった。
もしその鈴鹿凱旋レースを落としたら、タイ・ブリーラムでの惨敗をシーズン後半まで引きずってしまいそうな不安を抱えていたのだが、負の流れをチカラづくに断ち切ったことで自信が芽生えていたからだ。
劣勢のレースで勝利したことは、大いなる自信になった。だから、まるでビッグウェーブに対峙した湘南レジェンドサーファーが華麗なメイクを決めたかのように、波の乗せると手がつけられない存在になるのだろうと確信したのである。
そして迎えた7月21-22日の富士ラウンド……。
「だから言ったでしょ~」
僕はまた、レース後のパルクフェルメで突き出されたマイクに向かって、そんな不遜な態度に出てしまった。というのも、20日の金曜日から始まったプラクティス走行では、まったく納得のいかないドライビングだったにも関わらずトップタイムを記録。
「あれ、ライバルはなにをモタモタしているの?」
あまりにあっけないトップタイムに拍子抜けしたほどである。
確かにBMW M4 GT4は、パワーで勝るから高速コースである富士スピードウェイでは有利かもしれない。だが、ライバルであるポルシェ・ケイマンはさらにBoP(Balance of Performance=性能調整)の恩恵を受けていた。条件としては決して楽観視できるものではなかったのに結果オーライの楽勝ムード。それ以来、繰り返される走行枠のすべてでトップタイムを立て続けに叩き出していたもんだから、ついつい鼻の下が伸びてしまっていた。
その勢いはとどまることを知らず、レース1の予選もレース2の予選でもポールポジションをゲット。挙げ句の果てに、土曜日のレース1決勝でも優勝。まあこれは、前戦鈴鹿ラウンドのレース2のリザルトで15秒のサクセスハンディキャップがあったから有利だとしても、続く日曜日のレース2では逆に15秒のレスアドバンテージを背負わされながらの完勝である。
実は、宿敵AMG GTが15秒のハンディキャップを背負わされたレース1ではなく、逆にM4 GT4に不利な条件となるレース2での成績が、僕らの実力を測るスケールだと認識していた。その2レース目が、スタートから一度も背後を脅かされることなく、気がついたら後続を40秒以上も引き離した独走でのゴールだったのだから、大いなる自信になった!
絶対に諦めないヤツら
もっとも、さらに強い自信が芽生えた出来事がピット裏ではあった。実のところ、はたから見るほどBMW Team Studieのピット裏は安泰ではなかった。というのも、金曜日のファーストアタックも、M4のエンジンパワーが本調子ではなかった。時に日本列島は記録的な猛暑に襲われ、新聞やニュース番組では連日連夜、熱中症で倒れる人数をカウントしていたし、「不要な外出はしないように」と、まるで自然災害であるかのような報道が繰り返される。
そんな猛暑報道が納得できるかのように、マシンには熱に苦しめられた。気温の上昇はつまり空気密度が低くなることを意味する。そのために、3リッター直列6気筒ツインターボエンジンはインタークーラーで冷やしてもパワーダウンが顕著だったのだ。
日曜日の決勝はさらにシリアスな状況だった。レース開始の数時間前にして81号車のエンジンに火が入らないことが発覚。それが燃料系のトラブルであることを探り当てたのは即時なのだが、スペア部品の調達に奔走。結局、エンジンが始動したのはコースイン15分前というギリギリのクロスプレイだったのである。
一時は出走を諦めかけた。土曜日のレースを勝利したことで自らを納得させようと何度も試みた。時間切れによるピットスタートの手順すら反芻していた。弱気になっていたのは事実だ。
だが、チームの精鋭メカニックは諦めなかった。燃料系の修復のために、ロールケージに囲まれた狭い車内に潜り込み、数時間にもおよぶ作業を根気よく続けてくれた。作業できるスペースは狭く、ほかの誰も手を貸すことができない。だが、チームスタッフは皆、作業するメカの身体に扇風機を当てたり、安全のために消火器で身構えたり、いつでも渡せるように冷やしたドリンクとタオルを手にしてマシンを取り囲んでいたのだ。
そんなピット裏での作業が4時間ほど続き、ようやくコースイン直前に戦闘態勢が整った。スタートは僕だ。シグナルが青に変わった瞬間に、僕らの2連勝は決まったといっていいだろう。不安が一気に霧散し、灼熱の晴れ間の向こうに栄光のチェッカーフラッグが見えた瞬間である。
だから言ったでしょ。
「チームスタディを波に乗せたら手がつけられないよ」ってね(笑)
BMW Team Studie公式サイト http://TeamStudie.jp/
【木下隆之】Takayuki Kinoshita
出版社編集部勤務を経てレーシングドライバーとしての活動を開始。全日本ツーリングカー選手権、全日本F3選手権、スーパーGT500/GT300等で優勝多数。スパ・フランコルシャン24時間、シャモニー24時間等々、数多くの海外経験を持ち、特にニュル24時間レースへの参戦は日本人最多出場記録および最高位記録を保持。一方で、数々の雑誌に寄稿するモータージャーナリストであり、ドライビングディレクター、イベントプロデュース/ディレクションをこなす。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本ボート・オブ・ザ・イヤー選考委員。
【Blancpain GT Series Asia】 ブランパンGTシリーズ・アジア
FIA規定GT3マシンとGT4マシンによりポイントを争うGT選手権シリーズ。土日開催の各ラウンドを2名のドライバーが1台のマシンを駆り闘う展開の速い1時間のレースである。6ラウンド全12戦となる今季は、マレーシア・セパン(4/14-15)で開幕。タイのチャン国際サーキット(5/12-13)から鈴鹿サーキット(6/30-7/1)、富士スピードウェイ(7/21-22)、上海国際サーキット(9/22-23)をラウンドして中国の寧波国際サーキット(10/13-14)が最終戦となる。http://www.blancpain-gt-series-asia.com/
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