自動車専門誌ル・ボランと当サイトで好評連載中の【月刊イタフラ】番外編。日本時間の6月13日夜にロンドン郊外に降り立ったモータージャーナリストの嶋田智之氏が、スマホだけでリポートするグランドツーリング紀行の続き(パート3)。日本代表の嶋田・西川組に何があった?
出発から10分で旧車あるある
アストン・マーティンDB4に乗って、美しい「CLIVEDEN HOUSE」を出発してから約10分、いきなりやってきたのは……お待ちかね、「旧車あるある」のトラブルだ。
ロンドン郊外の小さく美しい町の中を快調に流していて、狭い道路の道端におばあちゃんの姿を発見したから軽く減速したときに「……ん?」。それから、なんとなーくクルマの加速が少しずつ鈍くなってきた気がして「……何だこれ?」。その症状が最初はジワジワ、次第に加速度的に強くなってきて、ブレーキが焦げる匂いが微かに漂ってきた瞬間にあーこれはやばいヤツだから次の路側帯でクルマを停めようと思ったら、速度が低くなるに連れてクルマが勝手に停まろうとする。で、信号で停止したら、フルブレーキングしてるみたいな感じで、もう前には進めない……。ブレーキトラブルだ。
西川 淳さんも僕も旧車のトラブル慣れ(?)をしてるので、慌てたりはしない。だって古いクルマって、そういうものだから。どんなに手を入れても、機械は機械、トラブルは生じるものだ。当たり前のことが当たり前に起きただけ。
信号の停止線からビタ1mmも動かなくなっちゃったDB4に乗る僕達に、通行人のお年寄り達が「おー、DB4じゃないか。昔これに憧れたんだよ」「あら、アストン・マーティンだわ。素敵ね」みたいにニコやかに声を掛けていってくれるのだけど、きっとなぜかテレ笑いを浮かべた怪しい東洋人にしか見えなかっただろうなー。
そこでブレーキを引き摺っちゃってるのかな? あっ、でもパーツも工具も何もないし……いやいや、ツアーを運営してるアストン・マーティンのケヴィンさんかソフィーさんに連絡するのが先だな……なんて思ってたら、来てくれた来てくれた、救世主が。実はツアーを走るアストン・マーティンのバックアップ部隊がいて、彼らが路上で停まってる僕達を発見してくれたのだ。
症状を話すと「ああ、そっか。ちょっと待ってて」といって、ものの10分ほどでチャッチャと直してくれた。どうやらロッキード製のバキュームサーボに不具合が出てたらしいのだけど、呆気にとられるくらいの勘の良さとスピーディな手の動きだった。……プロってすげー! アストン・マーティンのヘリテイジカー達は、こうした凄腕メカニック達に支えられてるのだね。
そんな軽いトラブルを除けば、DB4は驚くほど快調。ストレート6は男らしく吠え、滑らかに素早くスピードを上げていくし、ハンドリングも生まれた時代を考えれば望外に正確。走らせていて楽しいことこのうえない。しかも現代のクルマの流れにあっさり乗れるどころか、軽くリードできちゃう速さも持ってる。乗り心地もいいし。素晴らしいグランツーリスモだよなー。
唯一問題があったことといえば、ツアーのルートはすべてコマ地図で指示がなされていること、コマ地図に記されている距離は「マイル」なのにDB4のメーターは「キロ」表示であること、さらに停まっちゃった場所の現在位置がまったくわからなくて、リスタートしてしばらくはルートに悩んだこと……くらい。
まぁクラシックカー・ラリーでのコドライバー慣れしてる西川さんの洞察力と計算の素早さ、ついでにいえば“Google Map”のおかげで、何とか最初のチェックだったドーバー海峡を渡る電車のスタート地点に辿り着けたのだけどね。しかも遙か先を走ってたはずの新型ヴァンテージやDB6にも、しっかりと追いついて……。
Part.04ではいよいよドーバー海峡を渡るか?