3シリーズのエントリーであり、最もベーシックな一台、318i。ストレート6や特別な足回り設定を備えていなくても”普通に良い走り”を提供してくれる。しかし、その”普通”なチューニングを行えることこそ、BMWの真骨頂と言えるのではないだろうか?
ブランドの信頼感が高まる良価格・良性能な一台
ここで取り上げるのは、シルキースムーズなストレート6を積んでいるワケでもなければ、Mの紋章を授けられたハイパフォーマンスモデルでもない、3シリーズのなかでもっともベーシックな318iである。おかげで車両価格は510万円と、いまどきにしては驚くほどリーズナブル。ところが、この何の変哲もない318iのデキが恐ろしくよかったので、ここでご紹介しよう。
まずは乗り心地が驚くほどいい。G20の3シリーズがデビューして以来、乗り心地であれほど右往左往してきたことがバカバカしく思えるくらい、この318iはしなやかで快適な乗り心地を備えている。タイヤはブリヂストン・トランザT005のランフラット(サイズは225/50R17)とこれまた何の変哲もないが、これがタイヤの周囲にソフトな真綿を何重にも巻き付けたのではないかと思えるほど路面からのショックを優しく受け止めてくれるのだ。しかも、タイヤがバタバタと素早く上下するような、ランフラットタイヤがもっとも苦手とする状況でも強ばった感触を伝えることなく、優れた快適性を維持してくれる。これもまたやや言い尽くされた表現ながら「もはやランフラットの悪影響がまったく感じられない」乗り心地だった。
このしなやかな足回りが生み出すハンドリングにも不満を抱かなかった。ブレーキングや操舵を行えば、318iのボディは適度にピッチングやローリングを起こすが、その振る舞いが実に自然で安心感に溢れている。微舵応答にしても、訳のわからないスパイスを振りかけて強引にアジリティを引き出したモデルとは異なり、ドライバーが期待するとおりの穏やかで落ち着いた反応を示してくれる。しかも、その反応の度合いが車速やコーナーの深さにかかわらず一定に保たれる点も好ましい。
それらとともに改めて特筆したいのがボディ剛性の高さと、その優れた振動特性にある。軽合金を多用してボディを軽量化した最新モデルのなかには、足回りに鋭い衝撃が加わったときに「カーン」と響くような高周波を伝えたり、反対にブッシュ類がブルブルと震えるダンピングの悪さを意識させるものが少なからずあるが、318iのボディはそのいずれにもあてはまらない。強いショックが足回りに加わっても、それをドスッと受け止める剛性感と重厚感が備わっているのだ。これだけでもう、クルマの上質さが格段に変わるといっても過言ではなかろう。
エンジンのスペックは最高出力156ps、最大トルク250Nmと、これまた特筆すべきことはなにもないが、1500〜2500rpmでぐっとトルクが立ち上がる頼もしさがあって、街中でも高速道路でも軽快に走ってくれる。しかも回転数を問わずエンジンノイズは小さく、レッドゾーンが始まる6500rpmまでスムーズさは失われない。実用エンジンとして、何の不満も認められなかった。
装備系にしても、3シリーズだから例のハンズオフが可能なアクティブレーンキーピングが搭載されているし、メルセデスのMBUXほど機能が多彩ではないもののナビの目的地検索だって音声認識で簡単にできる。そもそもCクラスの最廉価版は599万円だが、こちらはそれより90万円近くも安い。好みの違いはあるだろうが、お買い得であることは間違いない。
それよりもなによりも、こういうベーシックモデルが良心的に作られている事実がこのうえもなく嬉しいし、これがブランドへの信頼感にも結びつくことも明らか。
「そうそう、318iって昔からこうだったんだよなあ」と、長年この業界で働く筆者は、そのステアリングを握りながらひとしきり幸せを噛み締めたのである。
【Specification】318i STANDARD
■全長×全幅×全高=4715×1825×1440mm
■ホイールベース=2850mm
■車両重量=1540kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1998cc
■最高出力=156ps(115kW)/4500rpm
■最大トルク=250Nm(25.5㎏-m)/1350-4000rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション(F:R)=ストラット:5リンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=205/60R16:205/60R16
■車両本体価格(税込)=5,100,000円
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