2021年7月9日に、バス専門誌の老舗であるぽると出版主催の「2021バステクフォーラム」が大阪・舞洲スポーツアイランド空の広場で開催されました。バス事業者をはじめ関連業界関係者向けの本フォーラムには、バス実車、特装車、関連用品の計22ブース30社の展示がありました。
このフォーラムのトピックはなんと言っても運転試乗ができること。これが好きなために毎回訪れています。さてここでは気になった展示や見つけた“トレたま”を中心にお届けいたします。
顧客の強い要望を受けて追加されたエアロスター・ワンステップ前扉仕様車(2PG-MP35FP)
着席定員が多い送迎用途は根強いようです。中扉がないことにより49人+補助席10人分の座席を確保(一般路線仕様は最多でも34人)しています。前扉直後にワンステップ、一列目の先にもうワンステップあり以降ずっとフラットなのが、後輪直前までノンステップの日野ブルーリボン/いすゞエルガの同タイプ車との違い。用途を考えるとエアロスター式の方が乗客のためにはいいのではないでしょうか。路線バスをイメージしてもらうとわかりやすいと思いますが、通路と同じ高さにある座席にすっと座るのと、もうワンステップの上にある座席によじ登るように座るのとではどちらが楽かということです。
ここにツーステップ車があるんだから路線バスもツーステップ前後扉車にすればいいのにと思います。そうすれば乗った後は前から後にしても後から前にしても動線は一方通行だし、着席定員は多くなるし、いいことしかありません。特に動線に関してはインバウンド絶頂期の京都市バスに乗った時に確信しました。残念ながら現在の法規制下では無理ですけれど。バリアフリーのためにというノンステップバスは、乗ったあとにややこしいバリアが多いので、トータルではツーステップ車の方がバリアフリーと言えると思いませんか? 車いすだけが課題ではありますがそれもリフトを装備することで解決できます。
奈良交通のプレミアムカー
特別車両”四神シリーズ”の一台である”白虎”を展示していました。車両はガーラSHD(2RG-RU1ESDJ)。2020年9月というとても悪いタイミングでデビューした車両です。プレミアムホワイトパールのボディに明るいインテリアは曇天下でも車内が明るく、どんな天候でも楽しくバス旅ができそうです。
一人で車窓の景色を楽しむもよし、友人としゃべりながらもよし。バス旅は友人であっても他人であっても若干タイトなのが気になる人も多いと思いますが(私も)この車両ならゆったりと楽しめるでしょう。修学流行のように満席ぎゅーぎゅーも楽しいでしょうけれど、今の私には大人のこのゆったり感が合っています。トイレも温水洗浄付きだし広くて優雅なのもいい。これならいつまでも入っていられます。
同社の人気広報部員である大川真由子さんにベストだと思う座席を紹介してもらいました。このあたりの席が車窓の景色もよく見えるし、夕暮れ以降はピラーの白虎や車内照明がムーディーでいいとのことでした。ちなみに担当運転者はこの車両が所属する京都営業所の慶山泰伸さん。2020年1月開催の第69回奈良交通安全運転研修会で歴代最高得点の999点で優勝された方です。出展事業者では主催者と奈良交通だけが物販も行っていたので買い物を楽しむ来場者も多く見かけました。
中京車体工業の貨客混載バス
日野リエッセIIスーパーロング7.73メートル車の二次架装車。これまではショートかロングでしかできなかった貨物(1ナンバー)登録がスーパーロングでもできるようになったことがトピックだそうです。スーパーロングのボディは横から見てバスっぽくてカッコいいですね。
乗客減に悩むタクシー事業者、タレントと一緒に山盛りの撮影機材も搭載したいロケバス業者、レース参戦者などからの引きがあり、納入も決まっているとのこと。荷室長が3,190mmあるので、ボケバイ、レーシングカート、モトクロスならこの一台に全部詰めこんでチームメンバーも一緒に移動できるし休息スペースも取れるでしょう。
荷室部分に何を詰め込むか? どんな追架装を施すか? いろいろなことが考えられるからあれこれ想像しているだけでも楽しいですね。特に使い道はないものの何やら欲しくなってきました。
この会社は様々な車種に多様な架装を施すのが得意なようなので、楽しげなクルマを作ってそれで何か商売を始めるとか遊びに行くことを考えるという車両ありきの発想もいいと思います。いろんなバスを作ってみたいと思う楽しさがあります。
そう、後ろに折戸を追加してもらうのも良さそう。先代ローザの海外仕様では2ドア車がポピュラーだったし。路線車としての使い勝手も上がるので狭隘路線、地方、ハイエースでは小さいけどポンチョでは大きすぎるという用途はあるのでいいと思います。昔よりはるかに減ってしまったバスボディの選択肢がまた増えることにもなるし、と妄想が膨らみます。中後2枚折戸のバス作ってもらおうかな。
何せこの会社のカタログキャッチフレーズは「こんな車があったら……そんな夢を現実にします」ですから。
三井物産系のテントで出会った”トレたま”3つ
ポスターとカタログしかなく、実車導入も未定でしたがこれがなかなか興味深かった。
1.三井物産株式会社モビリティ第一本部が扱う”COBUS”
海外で飛行機を利用する際に一度は乗ったことがあると思います。ターミナルと航空機の間を結ぶランプバスです。いわゆる”沖止め”の航空機へのアクセスバス。スペインで製造されるメルセデス・ベンツ製エンジンとシャシーをポルトガルCAETANO BUS社に運んでボディを架装しています。EVタイプもあり将来的にはFCタイプも計画されているとのこと。ちなみにCOBUS社はトヨタ自動車の玄孫(やしゃご)会社、メルセデス・ベンツの孫会社です。世界108カ国337の空港で4,200台が稼働しているとのことですが、日本にはまだ一台もありません。早く導入したいようですがこのご時世いつになるかわかりません。COBUSの親会社であるCAETANO BUS社ではEVバスやFCバスも製造しているので、そちらの方も日本に導入されればおもしろそうです。
私は三扉車に次いでこのランプバスが好きで、「一本羊羹バス」と名付けて愛しています。初めて乗ったのは香港の啓徳空港で独ネオプラン製のものでした。両運転台で、後側には電車なら貫通扉の位置に出入りドアがあるという機能にも感激したことを覚えています。昨年までに全車退役してしまったようなのが残念ですが。COBUSは日本にはまだ一台もないと述べましたが、ネオプラン製の片運転台タイプの方ですが過去に成田空港で東京空港交通が運行していました。1988年に導入されたN912(全長12m・全幅2.5m)とN922(全長13.48m・全幅3.15m)の2タイプです。この車両については1991年1月発行のバスラマインターナショナル誌NO.3に紹介されていますので興味のある方はそちらをご参照下さい。
一本羊羹バス、COBUSをはじめ世界の空港で活躍するランプバスを何台か写真でご紹介いたします。私はランプバスに乗って間近の航空機を下から見上げながら機体とターミナル間を移動するのが好き。これも旅の大きな楽しみの一つです。なんでバスなん? と、めんどくさがる人が多いと思いますが、バスを降りてタラップをカンカン上がる、機外に出てまず外国の風と匂いを感じタラップを降り、機体を見上げながらバスでターミナルに向かう……旅情です。せっかくなので楽しんでいただければ。ということで一本羊羹バス、COBUSを始めとする各国の空港で活躍するランプバスをいくつか写真でご紹介いたします。
2.三井物産オートモーティブ株式会社からメルセデス・ベンツTURAS900
7メートル、乗客25席のミニバス。ベンツならスプリンター・シティという低床バスシリーズ(写真のバス。EUROBUS EXPOにて)があるのになんでこれ? とは思いましたが選択肢が多いのはいいことです。
3.株式会社エビスソルーションズが導入を計画しているMETROCITY EVバス
英Switch Mobility社製10メートル級大型EVバスを導入する計画です。初期導入費用を抑え定額で利用できるサブスクサービスで展開する予定だそうなのですがそこも興味深い。車両も日本向けに開発しているとのことです。
同社は英Operate社と印Ashok Leyland社のEV事業を統合して2020年に発足した会社ですが、興味深いのは同社副会長兼CEOに元日産のアンディ・パーマー氏が就いていること。エビス社もX-TRAIL開発メンバーだった日産OBが経営しており、日本代理店になったのも、アンディ氏から「日本でやらない?」と声をかけられたからだとのことでした。何かおもしろいことが起こりそうな予感がするのでこちらも楽しみです。
ユニバースを複数台保有している鹿児島交通のヒュンダイ・ユニバース・ベーシック
フロント2ピースガラス、スチールホイール、その他必要な装備をセレクトして価格を抑えたベースモデルがベーシックです。これをいち早く導入し、空港路線に投入しています。インク印字式整理券発行機と運賃箱が路線バス好きにはたまりません。ワイパーもこれでなくては好きなバスっぽくない。シフトもレバー式です。
鹿児島交通では多数の三扉車を運行していることもあり、三扉車好きの私としては「乗って撮って訊いて」みたいと常々思っています。屋久島、桜島、種子島など見所も多く、陸海空の乗り物を楽しむ旅もできる。鹿児島に早く行きたいと思っています。
表示器系も欠かせない
京都市交通局がカラーLED方向幕を導入したため、いわゆる“幕式”の方向幕を新車に装着する事業者はなくなりましたので“幕式”が好きな私はかなり残念に思っています。聞くと驚く幕のコストや運用面での利便性を聞くとそれもやむなしですか。しかし、LED式の方もカラーLEDの登場によって、“幕式”時代と同じデザインにできる(京都市交通局がカラーLED化を進めるのはこのため)ためパッと見て単色よりわかりやすい表示ができます。余談ですが単色LED幕より写真に写しやすいので“撮りバス”な趣味人にも嬉しい。今後各事業者がどんな工夫をしてくるのかが楽しみです。
また、選択するフォント(書体)の違いなどメーカーの考え方が表われる部分でもあるので、そこを突っ込んで見るのも楽しいと思います。
業界人でなくても楽しめます
バステクフォーラムにはバス好きも多く来場し楽しんでいました。趣味と取材を兼ねている私としては、試乗やブースを見ている時に業界人たちが囁く会話を横から聞くのも貴重なナマ情報源でもあり大きな楽しみです。耳をそばだてながら展示を見ると理解も深まっていい。あまり褒められたことではないかもしれませんが。
参考までに各社のウェブサイトを紹介しておきます。
三菱ふそうトラック・バス株式会社
https://www.mitsubishi-fuso.com/ja/products/
奈良交通観光バス四神シリーズ
https://www.narakotsu.co.jp/kashikiri/pdf/catalog-shijin.pdf
中京車体工業
https://syatai.jp/
COBUSインダストリーズ
https://www.cobus-industries.de/
三井物産オートモーティブ株式会社
https://www.mitsuibussan-automotive.jp/
株式会社エビスソルーションズ
https://avis11.webnode.jp/
英スイッチモビリティー社
https://www.switchmobility.tech/en
鹿児島交通株式会社
https://www.iwasaki-corp.com/bus/
クラリオン
https://www.clarion.com/jp/ja/products-business/route-bus/
株式会社レゾナント・システムズ
https://www.resonant-systems.com/
(取材・写真・文:大田中秀一)
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