【大矢アキオの イタリアでcosì così でいこう!】「EVですが、なにか?」 究極の初代パンダ4×4爆誕!

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Così così(コジコジ)とはイタリア語で「まあまあ」のこと。この国の人々がよく口にする表現である。毎日のなかで出会ったもの・シアワセに感じたもの・マジメに考えたことを、在住25年の筆者の視点で綴ってゆく。

話題のカスタム工房による最新作

初代「フィアット・パンダ4×4」がEVで“復活”した。
この大胆な企画を実現したのは、ミラノを本拠とするカスタマイズのスペシャリスト「ガレージ・イタリア・ハブ」である。2021年4月8日のことだ。車名は「パンダ・インテグラーレPanda INTEGRAL-E」で、実際に初代パンダのユーズドカーをベースにしている。

ガレージ・イタリア・ハブによる「パンダ・インテグラーレ」は、初代パンダをベースに前後2基のモーターを搭載した4WDのEVである。

1983年に登場したオリジナルのパンダ4×4は、横置きFWDをベースに5段ギアボックス、プロペラシャフト、そしてリア・ディファレンシャルを追加して4WD化していた。対してパンダ・インテグラーレでは、前後2基にモーターを備えて4×4にしている。バッテリー容量は14kW。運転モードは2段階が設定されており、「エコ」では動力配分が前:80% 後:20%、「スポーツ」は前後均等となる。スペック上の最高速はエコで60km/h、スポーツで100km/hである。

フューエルリッド位置はオリジナルと同一だが、開けると中にあるのは充電ポートだ。

満充電からの航続可能距離は100km(WLTP)以下と控えめだ。0-60km/h加速も8秒未満と、スマートEQフォーツー(5.2秒)には及ばない。ただしEV化と同時に強くアピールされているのは、ヴィンティッジ感とコンテンポラリーな実用性を両立するためのしつらえである。ステアリングはナルディ、シートおよび内張りはアルカンターラを選んでいる。オーディオはJBLで、「Club4020」スピーカー4基+「Basspro SLアクティヴ」1基が奢られている。

アルカンターラを用いて、内装も完全にリファインされている。

初代パンダのダッシュボードを象徴する大型ラックも、アルカンターラで包まれている。

オリジナルのアナログメーターの代わりにディスプレイが。

センターに配置されたセレクターボタン。

プロデュースしたガレージ・イタリア・ハブは、カスタムメイドのスペシャリスト「ガレージ・イタリア・カスタムズ」の1部門である。主宰は、前回紹介したジョヴァンニ・アニェッリ元名誉会長の孫ラポ・エルカンだ。2015年の創立で、2017年11月には、ミラノ市内アクルジオ広場にある1950年代初頭のガソリンスタンドをリニューアルして新本社をオープンした。奇抜なカスタムメイドで知られ、2020年には葛飾北斎の版画をモティーフにした「アルファ・ロメオ4C HOKUSAI」を公開して話題を呼んだ。

パンダ・インテグラーレの価格は、イタリアの伝統的テイラーメイド工房の流儀にしたがい、商談に臨む人にのみ示される。

「ガレージ・イタリア・ハブ」のロゴとmade in Italyの文字が誇らしげに刻まれる。

フロントシート下にはJBL製サブウーファー「Basspro SLアクティヴ」を設置。

こちらはガレージ・イタリア・ハブによる「アルファ・ロメオ4C HOKUSAI」。2020年。

“どんぴしゃ”な選択

歴史をひもとくと、EV仕様の初代パンダは、けっして初めてではない。「パンダ・エレットラ」はフィアット自らが1990年に製造した、モーター出力14kWのEVだ。後部は12個の鉛電池に占領されていたため、乗車定員は2名に限られた。このパンダ史上初のEVは一般にも販売された。だが価格が2560万リラ(約13,221ユーロ)と、パンダ・ガソリン仕様の3倍近かったことや、急速充電がなく満充電までの所要時間が8〜10時間を要したことで、実用には程遠かった。

リアシートのつくりも手を抜いていない。

1992年にはニッケル・カドミウム電池に換装したシリーズ2に発展したが、初期型同様一般ユーザーの関心を得るには至らなかった。最大のユーザーはというと、地方自治体だった。彼らは環境行政のシンボルとしてシェアリングや公用車用に高額な金額でフリート購入してくれた。だがこちらも効率的運用からは程遠く、最終的にバックヤードに放置したり、最終的に二束三文で売却したことで大きな社会問題になってしまった。

オリジナルでは殺風景なラゲッジスペースも、手の込んだ仕上げが施されている。

そうしたなかパンダ・エレットラは1998年に生産を終了した。官公庁頼みだと、EVはうまくいかないのは、いずこも同じである。
話は変わるが、2020年に発表された新型「フィアット500(500エレットリカもしくは500e)」は、とりあえず好調だ。2021年第1四半期のイタリアEV登録台数で堂々第1位に躍り出た。対してイタリアでも根強い人気を誇るルノーからは、EVである新生「ルノー5」が2023年にリリースされる予定だ。シティユースのEVは、レトロルックがキーワードになりそうな気配である。

「フィアット・パンダ・エレットラ」は、大半が自治体主導のカーシェアや公用車向けに納入された。2003年トリノ市街で。

しかし、レトロルックではなくリアルなスタイルで走りたいという正統派には、パンダ・インテグラーレのような企画が訴求力をもつことだろう。オリジナルの初代フィアット・パンダ4×4は、実用性の高さや全天候性から生産終了18年後の今も人気が衰えていない。
本稿執筆時点でも、欧州最大級の中古車検索サイト「アウトスカウト24」には、20年落ち・走行13万km以上にもかかわらず、5900ユーロ(約77万円)の値札とともに売り出されている。我が家の近所の中古車店にも初代パンダ4×4が展示されることがあるが、あっという間に売約済となって飛ぶように消えてゆく。
そうした意味ではEV化に最適、言い換えれば“どんぴしゃ”な素材といえよう。

デザイナーも乗り手も嬉しい?

ガレージ・イタリア・ハブによると、今回のパンダ・インテグラーレは、シチリアのメッシナを本拠とするEモビリティ企業「ニュートン・グループ」の協力を得て開発されている。入念なハンドメイドである。

「フィアット・パンダ4×4トレッキング」。1992年。

EV化してでも乗ることを渇望する人がいて、それを手掛けるスペシャリストが活躍する。
かつてオリジナルを手掛けたクリエイターーパンダ・インテグラーレの場合は、いうまでもなくジョルジェット・ジウジアーロであるーにとっては名誉といえまいか?

同時にオーナーにとっては、大きなメリットがある。イタリアの歴史的旧市街では古い排ガス対策レベルの進入禁止措置を年々厳しくしている。取り締まりの基準は、欧州排出ガス基準「ユーロ」による区分だ。オリジナルのフィアット・パンダ4×4は「ユーロ0」もしくは「ユーロ1」である。もはや2000年代前後に販売された「ユーロ4」でさえ入れない地域があることを考えると絶望的だ。いっぽう、EVは最も規制が緩い。

パンダ・インテグラーレで想定されるのは「ユーロ0禁止」のエリアに入った途端、警察官に制止されることである。その瞬間、涼しい顔で言ってみたいものだ。
「EVですが、なにか?」

文 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA
写真 Garage Italia /Stellantis

この記事を書いた人

大矢アキオ

イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを学び、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。NHK「ラジオ深夜便」の現地リポーターも今日まで21年にわたり務めている。著書・訳書多数。近著は『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)。

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