【国内試乗】「メルセデスAMG GT R」公道も走れるレーシングカーとは?

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F1マシンを引き連れるスーパーカー

「公道走行が許されたレーシングカー」
こんな言葉で表現されるメルセデスAMG GT R。
近年、F1グランプリのセーフティーカーとしても有名だが、フォーミュラの最高峰マシンたちを引き連れてサーキットを駆ける紛れもないスーパーカーにはどれほどのパフォーマンスが備わり、またどんな多面性を持つのだろう? 今回は多彩なシチュエーションでの試乗を通じて、その真髄に迫ってみよう。

この「メルセデスAMG GT R」のベースは、往年の300SLを彷彿とさせる「SLS AMG」の後継として2015年に国内発表されたAMG GTであり、限りなく車体の中心に設定されたドライビングポジションをはじめ、フロントミッドシップにレイアウトされたV8エンジンやリアアクスルにトランスミッションを搭載するなど、レースカーの素性を隠そうともしていない。

これこそが機能美と言えるほど、エアロダイナミクスを追求したフォルムは、まるで走行中の空気の流れが可視化されたかのよう。加えて、新開発の「アクティブ・エアロダイナミクス・システム」が、高速域に達するとフロントのアンダーボディ部分が自動で40mmダウンして路面とのクリアランスを縮める。これによって発生するベンチュリ効果が、250km/hで走行時に車体を浮き上がらせる揚力を約40kg低減させるのだ。

サーキット専用マシンであれば、最初からアンダーボディを地面スレスレにすればいいだけだが、”公道走行が許された”マシンであるが故の自動可変機構といえる。ちなみに前後重量バランスは48:52と若干リアヘビーな設定だ。

また、コクピットまわりがブラッシュアップされた2020年モデルのAMG GTには、フルデジタル液晶メーターをはじめ、ステアリングにもTFT液晶内蔵のドライブモード切り替えダイヤルや、ESP、AMGダイナミクスのセレクターが並ぶ。走行モードはコンソール部分のスイッチでも切り替えできるが、ハードな走行中はなるべく無駄な視線移動や操作を減らすための配慮だろう。そして、この刷新されたコクピットで異彩を放つのが、センターコンソールの中央部分のまさに特等席とも言える位置に配置された「トラクションコントロール(TC)ダイアル」だ。エンジンスタートと共にLEDランプが点灯しその存在感をアピールする。

 

許容範囲はサーキットから一般公道まで

まず一般公道での乗り味は、年次改良でかなり洗練されたようで、覚悟していたほどのハードさは感じられなかった。舗装状態によっては路面の凹凸を拾った突き上げ感をダイレクトに伝えてくるが、高速道路などの比較的スムーズな路面であれば十分に快適といえるレベル。むしろ、路面のうねりなどへの追従性の方が印象的で、起伏を伴うコーナーを通過しても、4輪が完璧に路面を捉え続ける、「地面に吸い付く」ような感覚はお見事。

 

とはいえ、最高出力585ps、0-100km/h加速3.6秒のポテンシャルを一般公道で解放することは事実上不可能である。ということで、いよいよクローズドコースでの試乗だ。ステアリング上のダイヤルで走行モード「RACE」を選択すると、センターコンソールの”特等席”に陣取るTC調整ダイヤルのLEDが灯り、エンジンサウンドとエキゾーストノートも一変。突如として現れたレーシングカーとしての本性に対して、本能的に身構えてしまう。そこからアクセルを踏み込めば、リアタイヤが路面を激しく蹴り出す感覚がシートバックのすぐ後ろから伝わり、野太いエキゾーストノートと共に一気に加速していくのだ。

コーナーでステアリングを切り込むと、フロントタイヤのインフォメーションが想像以上に掌に伝わってくる。ロングノーズの先にあるフロントタイヤが不思議なほどに近い存在に感じられ、前後左右それぞれのタイヤの位置が把握しやすい。優れたバランスのクルマほど、攻めた走りをした時に4つのタイヤの存在が掴みやすいものだが、このAMG GT Rではたしかにそれが実感できたのだ。

9段階調整が可能なトラクションコントロールのダイヤルに手を伸ばす。一番効きの強い状態から左に回して5段階目にあわせると、アクセルペダルを踏んだ際のスライド量に変化が現れた。アクセルオンによるパワースライドと若干のテールスライドをある程度許容するのだ。おそらく、サーキットアタックなどクルマを振り回してタイムを削るようなシーンであれば、このくらいの設定がベストではないだろうか。

そしていよいよ、禁断のトラクションコントロール完全オフに挑戦だ。最近のスーパーカーは、車体の姿勢制御機能をオフにしてもある程度の電子制御が介入する場合が多い。しかし、このAMG GT Rでは完全に制御を外し、その猛然たるパフォーマンスを完全にドライバーの手に委ねてくれる。
コーナー出口でステア舵角を残してアクセルを踏み込めば、瞬時にテールがスライドしてドリフト状態となる。カウンターステアとアクセル操作でスライドをコントロールしなくては簡単にスピンしてしまう。その感覚はまさに野獣が牙をむく瞬間だ。暴れるマシンをねじ伏せて走るこの感覚は、ラップタイムや限界性能を超越した走りを楽しませてくれる、まさにレーシングカーだ。それでも、走行モードを「コンフォート」に戻しさえすれば、そのまま問題なく帰路につき日常生活に戻ることができるのだ。
もしあなたがこのマシンを手に入れたのなら、是非サーキットでこのクルマの本性と存分に向き合い、そのまま公道を走って普通に帰宅するという、驚異的な”幅”を楽しんでいただきたい。

【SPECIFICATION】メルセデスAMG GT R
■全長×全幅×全高=4550×2005×1285mm
■ホイールベース=2630mm
■エンジン型式/種類=178/V8DOHC32V+ツインターボ
■内径/行径=83.0×92.0mm
■総排気量=3982cc
■最高出力=585ps(430kw)/6250rpm
■最大トルク=700Nm(71.4kg-m)/2100-5500rpm
■燃料タンク容量=75L(プレミアム)
■トランスミッション形式=7速DCT
■サスペンション形式=前ダブルウィッシュボーン/コイル、後ダブルウィッシュボーン/コイル
■ブレーキ=前Vディスク、後Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前275/35R19(9.5J)、後325/30R20(11.5J)
■車両本体価格(税込)=24,530,000円(受注生産)

【問い合わせ先】
メルセデス・ベンツ日本 http://www.mercedes-amg.jp 

フォト:カーズミートウェブ ムービー:Primo Network

この記事を書いた人

山口礼

1983年生まれ。16歳よりモータースポーツ活動を開始し、英国でフォーミュラカーレースに参戦しながら本場のドライビング理論を学ぶ。帰国後は活動の幅を広げ、豊富な経験を活かして自動車ライターとしても活動を開始。そのドライビング技術を活かしてクルマの素性を引き出すリポートを得意としている。

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山口礼
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2020/08/10 17:00

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