新型コロナウイルス感染問題が深刻化しているヨーロッパ。その中で市民の生活およびドイツ自動車メーカーの状況はどうなのか? ミュンヘン在住の池ノ内ミドリがリポートする。
工場のラインはストップしているが3Dプリンターを活用して医療器具を生産
世界中で猛威を振るう新型コロナウイルスの影響で、大半の州が3月21日から外出自粛令が出され、実質的にロックダウン状態が続いているドイツ。
私が住むドイツのバイエルン州の罰金は不要不急で自宅から外出した場合は150ユーロ(約18,000円)が科される等、州によって金額は異なるものの、最高25,000ユーロ(約300万円)の他、禁固刑まで用意されているのだ。先日は、バイエルン州在住の男性が、度重なる罰金刑を受けても、懲りずに用もなく外出し続け、遂に収監されるという実刑にまで及ぶ厳しい行動が制限されている。
しかし、スーパーマーケットやパン屋等の食料品店、レストランやファストフード店はテイクアウトのみ営業可能、銀行、郵便局、ガソリンスタンド、薬局、病院は通常通りに営業しているので、日常生活に困る事はない。宅配業者も通常営業をしている為、通販は普段通りに利用できている。さすがに、長期化すると案外この状態に慣れてしまっている。
政府は可能な限りホームオフィスを推奨しているものの、それが難しい業種等には衛生面の注意を十分に促した上で通常の業務を認めている。ドイツで一番の経済を担う自動車産業も、この新型コロナウイルスの影響を多大に受けている。
VWグループ、BMW、ダイムラー、オペル等、代表的な自動車メーカーはドイツをはじめ、欧州の生産ラインを迅速にストップ。従業員の安全確保に努めている。オフィスワークの従業員は在宅勤務に迅速に切り替えたり、オフィス内で従事する者の人数を減らす目的で、班に分けて週替わりで出勤するなど、工夫をしているという。
また、私の自宅近所にあるBMW本社の向いにある第一工場では、ラインはストップしておりひっそりとしているものの、通常通り毎日電気は点いており、設備整備や清掃をしている雰囲気が見受けられる他、研究施設には毎日のようにカモフラージュの車両が出入りしており、研究開発関連に携わる人々は政府が通達したガイドラインを厳守の元で通常業務を行っているようだ。
ドイツ政府は経済安定基金に数千憶ユーロを投資する事を計画し、コロナ危機で倒産危機に陥る企業を救済する処置を取るといい、ファッション業界や旅行業界をはじめ、多くの企業が既にその申請を行い、約20数億ユーロの緊急融資の申請を受け付けたとしている。サプライヤーとしては自動車用ケーブルの大手レオニーは既に申請を済ませているものの、自動車メーカーからの申請は現在のところは見当たらないようだ。
それに関して、ダイムラーグループのCEOオーラ・ケレニウス氏は、「国からの支援は不要。高水準の資金力の流動性に備えてある」としており、同様にVWグループ、BMWも国の支援は不要としている。各自動車メーカーは取引銀行との融資枠を確保してある他、独自の銀行も所有している事から、直ちに経営危機に陥る事はないと言えるだろう。
また、各自動車メーカー共に一部の工場勤務の正社員に関しては、時短勤務要請(実質は勤務ができないので休業)を連邦労働庁へ申請を行っており、月給が削減される多分を、国が補填をして通常の月給の60%の支給を保証するものだ。ただし、工場勤務者の多くは派遣会社から派遣されており、それらの非正規従業員に対しては、自動車メーカーや連邦労働庁の保証とは異なる為、各派遣会社の労働条件や給与形態に従う形となる。
アウディは医療と社会関連施設に合計500万ユーロ(約6億円)の寄付金を支出する事を決定しており、まずはアウディの地元であるインゴルシュタットとネッカーズウルムの病院へ合計60万ユーロ(約7200万円)を既に寄付している他、ポルシェは毎年地元へ行っているフードバンクへ20万ユーロ(約2400万円)に加え、別途500万ユーロの寄付金を支出する予定だ。
オペルは自社の製造ラインで使用しているマスク5万個をドイツ国内の医療関係施設等に、そしてオペルが所属するPSAグループからは、オペルの工場があるリュッセルハイムの病院に15000個のマスクを送っている。また、BMW、VWグループ、ダイムラー等は3Dプリンター技術を生かした人工呼吸器用のマスクを制作し、医療現場へ寄付を続けている。
現在、ドイツの自動車メーカーの全ラインが停止している為、自動車を作成する事は不可能だが、各社共にいま自分たちに出来る事をと、支援の輪が広がる。また、モータースポーツ界でもその支援の輪は広がり、F1では英国を拠点とする7つのチームが、『プロジェクト ピットレーン』と称し、英国政府の要請に常時対応すべく、人工呼吸器の設計・プロトタイプの制作、そして製造までを請け負っている。
一方、ドイツとは直接関係ないが、モータースポーツにおいても、F1はオーストラリアの開幕戦のレースウィーク開始直後に急遽中止が決定。
再開の目途が付かない現状で、F1に関わる数多くのスタッフが立ち上がり、F1で培われた最高峰のエンジニアリングを生かし、新型コロナウイルスへの最新医療へと携わる他、イタリアに本拠地を置き、ニュルブルクリンクで活躍するハリウッド映画監督 グリッケンハウス率いるスクダリア カメロン グリッケンハウスやフォーミュラーマシンのコンストラクターであるダラーラ・アウトモビリ等、数多くのチームも医療機器の設計から製造まで請け負い、日々増え続ける新型コロナウイルス感染患者の治療に多大な尽力を続けている。
この記事を書いた人
武蔵野音楽大学および、オーストリア国立モーツアルテウム音楽院卒業。フリーランスの演奏家を経て、ドイツ国立ミュンヘン大学へ入学。ミュンヘン大学時代にしていた広告代理店でのアルバイトがきっかけでモータースポーツの世界と出会い、異色の転身へ。DTM、ル・マン/スパ/ニュルブルクリンクの欧州三大24hレースを中心に取材・執筆・撮影を行う。趣味は愛車のオープンカーでヨーロッパのアルプスの峠をひたすら走りまくる事。蚤の市散策。
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