高性能ブレーキの新たなる地平、ブレンボジャパンの現在と未来。CEO アレクサンダー・グラマティコフ氏インタビュー

クルマ市場は日を追うごとに目まぐるしく劇的に変化し、とても不安定である。ブレーキ市場を一歩リードする存在になるためには今、大きな変化が必要かもしれない。新しいCEOが語るブレンボジャパンの「これから」とは。

イタリアと日本をつなぐハブの役割

「目の前の挑戦が難題であればあるほどワクワクしますね。この異国の地でCEOになったことは、私にとってまさに挑戦です。けっして楽な道のりではないことが分かっているからこそ、楽しい」
38歳という若さでブレンボ・ジャパンの新たなCEOに就任したアレクサンダー・グラマティコフ氏はこう語った。取材中、彼の口からは何度も「挑戦」や「ワクワクする」という言葉が聞こえてきた。
ブレンボジャパンの新しい未来を予感させる力強いエネルギーが体中から溢れていて、私は彼との会話にすっかり魅了された。

株式会社ブレンボ・ジャパン アレクサンダー・グラマティコフ氏/横浜タイヤの海外支社を含む、複数のタイヤメーカーでの勤務経験が豊富。不毛の地を開拓する精神に溢れ、とある会社ではたった1社しかなかった顧客数を2年で40社へと増やすなど目覚ましい実績を残している。初挑戦となる日本での生活も楽しみにしているそう。

クルマやオートバイ好きなら、キャリパーに光るブレンボのロゴに憧れる人も多いだろう。1961年にイタリアで創業して以来、クルマやバイクの高品質なブレーキシステムを製造し、世界の70以上の国に届けてきた。名だたるスーパーカーにも、F1を始めとするレースカーやオートバイにも、ブレンボのブレーキが採用されている。もちろん日本にもファンは大勢いて、それを30年以上にわたって支えてきたのがブレンボジャパンだ。
「イタリア本社でブレーキをつくる職人にとって、個々の製品は我が子と呼べるほどの存在なんです。彼らは世界最高のブレーキを作ることに情熱を傾けている。そんな素晴らしい製品はもっと多くの人に知ってもらうべきだと思います。私は日本の皆さんに、クルマ好きではない方々にもブレンボについて知ってもらいたい。我々の日本市場へのアプローチはこれまでとは違ったものになるでしょう」

インタビューが行なわれた「ル・ボラン カーズ・ミート横浜」ではモノブロックキャリパーを装着した「レクサスLM TOM ’Sコンプリート」が展示された。

これまではアフターマーケットに注力してきた。しかしグラマティコフ氏は今後、OEMマーケットにも狙いを定めることを考えている。それはブレンボのブレーキシステムを単なる「機能部品」としてではなく「ライフスタイルの一部」として日本市場に根付かせるためだと話してくれた。
「これまでブレンボジャパンは、イタリアでつくられた製品を日本で必要とする人に届ける、ハブのような役割を果たしてきました。でもそれではもう不十分だと思います。安全性に対してとりわけ厳しい基準を持つこの国で、真に求められているものは何か? 消費者のリアルボイスを聞いて、それを反映した製品をつくることが必要なのではないか。日本市場を理解できるのは、イタリアの開発チームではなく、ここにいる我々なのだから、日本の自動車メーカーと協業して、皆が本当に必要とする製品を開発しお届けすることが、次の我々の大切な使命だと考えます」

同じくた「ル・ボラン カーズ・ミート横浜」ではレーシングキャリパーを装着した「BMW M4コンペティション3Dデザインデモカー」も展示。コントロール性能を大幅に向上させるブレーキキットである。

市場にも社内にも新改革を起こす

その取り組みの第一歩として、今年の3月に渋谷で大きなイベントを行った。「ブレンボ アクティベーション 東京」と名付けられたこのイベントは渋谷ストリーム前の広場で行なわれ、これまで開催してきたモビリティショーや展示会など、主にクルマ好きが集まるところでのイベントとは一線を画すものとなった。ブレンボを知らない人にブランドについて知ってもらうための工夫が功を奏して、2日間で1万5000人ほどの人が訪れたという。ブレーキシステムについてもより良く理解してもらうため、AIを搭載した新世代インテリジェントブレーキシステム「SENSIFY」の体験エリアなども設けたそうだ。
「これはブレンボ全体としても初の試みでした。ブランドの認知度を高めるだけでなく、市場の声を直接聞くために我々が消費者の元へ自ら出向いていったのです。長年BtoBのビジネスで成功してきた我々が、BtoCに目を向ける。これはずっと居心地の良かった領域を飛び出して、未知の世界に挑むことです。大変勇気が要りますが、結果として一歩を踏み出して良かったというのが今の感想です」

来年もまた同じようなイベントを、さらに規模を拡大して行なうことが既に計画されているようだ。
現在、ブレンボジャパンには30名程のスタッフがいる。だがグラマティコフ氏はここから2〜5年の間に倍以上のスタッフに増員するつもりだと意気込んでいた。新たな挑戦には新たな分野の才能を持つ人材をたくさん迎え入れる必要が出てくる。実際、入念な市場調査に基づいた開発を日本で行なうとなるとエンジニアが必須だ。そのために今後、より積極的な採用活動を行う予定だという。加えて、まだまだ年功序列制度が残る日本の企業体質ではなく、本当に才能のある人が年齢や性別に関係なく活躍できる職場環境をつくっていきたいと考えているそうだ。

「ブレンボジャパンは大きな変革期を迎えました。これまでとは違って、特別なイベントの時だけでなく、いつでもユーザーにとって身近な存在でいられるようになりたいと心から望んでいます。巷で我々の製品が溢れるようになってもけっして驚かないでください。きっとそうなりますから!」
若きCEO率いる新生ブレンボジャパンの見据える未来は明るい。

フォト=中島仁菜 ル・ボラン2024年8月号から転載

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