【国内試乗】待望の上陸を果たしたフェラーリの4ドア・4シータークロスオーバー「プロサングエ」こいつはSUVではなく4ドアGTだ!

2022年9月に国内発表されて以来約2年弱、ようやくフェラーリの4ドア4シーターのプロサングエが上陸した。見た目はSUVライクなフォルムだが、フェラーリ曰く、あくまでもSUVではないと主張するプロサングエは、果たしてどんな世界観を披露してくれたのか──。

フェラーリの狙いは“使える4ドアGT”

創業当時からスポーツカー一本で勝負してきたフェラーリも、さすがに時代の流れには逆らえないのか、遂に4ドアモデルまで用意することになったのかと思うと感慨深いものがある。もっとも、FF(フェラーリ・フォー)やルッソシリーズがラインナップに加わった時点で、こうなるのは予想できたのは確か。GTC4ルッソがデビューした頃、当時の広報担当と議論になったことを今回、プロサングエに乗りながら思い出した。その時、広報曰く「フェラーリは絶対にSUVなんて出しませんよ!」と熱弁していたが、筆者は全否定。「この流れなら絶対にSUVを造りますよ」と当時やりとりしたものだ

前後重量配分が49:51%というのもプロサングエがGTである証し。都市部で最も扱いやすい跳ね馬とも言える。

が、今となってはどちらが正しかったのだろうか? と正直、戸惑っている。無論、フェラーリ自身、プロサングエに対して“SUV”とは謳っていない。とはいえ、多くは「フェラーリってSUV出したんでしょ?」と当たり前のように思い込んでいる。筆者もそのひとりだった。しかし、実際にプロサングエの走りを味わってしまうと、とてもSUVと思えないし、正真正銘のフェラーリだと断言できてしまうから、やはりマラネロの連中はユニークだとあらためて痛感させられる。

背が高く、全体的に筋肉質であるにもかかわらず、常にエレガントさを匂わせるのはフェラーリだから成せる技。ルッソよりも高級感が増している。

そう思わせる要因こそ、フロントに搭載される、6.5L・V型12気筒“自然吸気”エンジンと、フロントノーズの長さ。本気でSUVを造るならV8やV6エンジンにして、可能な限りノーズを短く収めたいというのが定義。クロスオーバーSUVでもこれほど長いボンネットをもつモデルはない。では、フェラーリはこのプロサングエで何を狙っているのか? というと、“使える4ドアGT”。しかもフェラーリの流儀に沿って、というのが大前提で造られている。

フロントにミッドシップマウントされる65度V型12気筒エンジン。低回転域の扱いやすさは歴代最高の完成度。その一方、8250rpmまで許すところが如何にもフェラーリ。

さらに端的にいえば、GTC4ルッソの新型が4ドアになったものだと解釈すれば、素直に受け入れられるだろう(ちなみにGTCルッソシリーズはすでに終了)。とはいうものの、実車は想像していたよりもはるかにボリューミーだから誤解を招いても仕方がない。GTC4ルッソよりもボディサイズはわずかに大きいが、それよりも1589mmという全高からくる迫力に圧倒されてしまう。ホイールベースも3mを超え、デザイン自体もマッチョ感があるうえ、ブラックに縁取られたホイールアーチが目を引くこともあってSUVのように映るのだろう。しかし、そのホイールアーチはカーボン製、フロントバンパーからの流れでエアカーテンを作り出し、横に広がる乱気流の発生を抑える効果を生み出すなど、徹底してエアロダイナミクスにこだわるところが単なる飾りではない、如何にもフェラーリらしいアプローチだ。

最大のウリとなるV12エンジンは、F140IA型と呼ばれる、812コンペティツィオーネ譲りのユニット。それと同時に、その源流がフェラーリ・エンツォだと聞けば、ほとんどのフェラリスタなら期待して当然だろう。世のスーパースポーツカーファンにとっても憧れのエンジンと言って過言ではないほど、12気筒自然吸気ならではのフィーリングを、4ドアモデルで味わえるのだから文句なし。しかも巧みなのは、そのセッティング。725ps&716Nmを発揮するものの、812のようなパンチが効いた瞬発力を活かして楽しませるのではなく、意図的に抑えて日常でも扱いやすく仕上げているのが特長。

フロントシートは適度なホールド性をもつラグジュアリー仕立てでマッサージ機能を装備。

例え、スポーツモードに切り替えて一般道を走行しても実によく調教されていて、50〜60km/h程度の速度でも“楽しく快適に”を前提に仕上げられているのがわかる。それに812などと決定的に違うのは、「レース」モードを備えないこと。デフォルトは「コンフォート」、その上に「スポーツ」、あとは「ウエット」と「アイス」というようにサーキット走行を促さない点がGTである証しだろう。

左右完全セパレート式のリアシートは、わずかながらリクライニングが可能。ラゲッジルームから電動で可倒&起こすことができ、シートヒーターも備わる。

ハンドリングもGT色が強いセッティング

今回の試乗車はまだ下ろし立ての新車だったこともあり、足まわりに関してはやや硬さが残るものの、新開発されたフロントサスペンションや、電気モーターとスプールバルブ油圧式ダンパーを統合させた新しいアクティブサスペンションシステムによる乗り心地は快適かつスポーティという、綿密に計算された知的さを思わせる。コンパクト設計とはいえ、フロントミッドに搭載されるV12エンジンは他のフェラーリと比較すれば、かなり高い位置に重心があるにもかかわらず、ロールを適度に抑え、優れた安定感を示すどころか、巨大極太扁平リアタイヤ(315/30R23)を思わせないほど、路面の凹凸なども上手くいなしていくところを体感してしまうと、もはや他に選択肢がない、唯一無二の存在ということに今一度フェラーリの狙いが正しいと認識させる。ハンドリングに関してもゲインを抑えているあたり、スポーツ色よりもGTに重点をおいているのは明白。他の跳ね馬とは、若干キャラクターが違うと思わせる。

。計器類は最新のフェラーリらしく完全デジタル化され認識しやすい一方、ドライブモード以外、ほとんどがタッチパネルで操作するが、その反応はイマイチ。要改善を望みたい。

4WDシステムは、GTC4ルッソの7速DCTからプロサングエでは8速になったことから、駆動システムや後輪操舵などの統合システム「4RM」も変わったのだろうと思っていたが、車格に見合うよう制御ロジックなどに確実な進化は見られるものの、4WDとなるのは、相変わらず1〜4速時のみ。その名称も「4RM-S」に改められ、4WD時のフロントアクスルにはトルクベクタリングが働き、Eデフによるリアタイヤへのトルク配分とリアステアの制御も改善されているはずだが、今回はそこまで試すことができなかったのは残念。もっとも、この効果を本気で実感するにはクローズドコースでもなければ不可能だから、日常ではごく自然にその恩恵は受けているのは間違いない。

助手側のインフォメーションディスプレイはGTC4ルッソから大きく進化。サイズは大型化され、機能も増加している。

とはいえ、あえて言うなら、基本的にプロサングエは、フロントエンジン+リア駆動のFRスポーツをGTの名にふさわしく仕上げ、雨天や雪上などでは前足がサポートに入ると受け止めておいたほうがいいだろう。即ち、ここにもフェラーリの姿勢が表れ、断じてAWDを基本に考えたSUVではない、ということを主張している。あくまでも4ドアのフェラーリ。後部座席のレッグスペースはルッソシリーズよりも拡大され、実用的になっている一方、ラゲッジスペースは欲張らずに運動性能を優先しているのは明らか。それでいて、リア側のドアは後ろヒンジにして前後で観音開きにするなど、粋な演出は健在だから、やはりフェラーリは憎めない。SUVだと思われるのは、他のラグジュアリーブランドが定番化させているからフェラーリも当然と思われてしまうのだろう。

それに、4ドアGTで、ここまで攻めたモデルが他にないことも最後に強調しておきたい。クセがスゴイ! ならぬ、個性が強い! のである。どうやら生産台数は少ないようだから、現在ハイエンドSUVを検討中の方がいれば、一度試してから検討してみる価値はあると思う。

リアシートを可倒させれば、それなりの長尺物は詰めるものの、4ドアGTとしては実用最小サイズのラゲッジスペース。

タイヤは、フロント255/35R22、リア315/30R23を装着。

【SPECIFICATION】フェラーリ プロサングエ
■車両本体価格(税込)=47,660,000円
■全長×全幅×全高=4793×2028×1589mm
■ホイールベース=3018mm
■トレッド=前1737、後1720mm
■車両重量=2033kg
■エンジン型式/種類=F14IA/V12DOHC48V
■内径×工程=94.0×78.0mm
■圧縮比=13.6
■総排気量=6496cc
■最高出力=725ps(533kW)/7750rpm
■最大トルク=716Nm(73.0kg-m)/6250rpm
■燃料タンク容量=100L(プレミアム)
■トランスミッション形式=8速DCT
■サスペンション形式=前後:Wウイッシュボーン/コイル
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤ=前:255/35R22、後:315/30R23

問い合わせ先=フェラーリ・ジャパン TEL︎ 03-6890-6200

フォト=篠原晃一 ルボラン2024年7月号より転載

この記事を書いた人

野口優

1967年生まれ。東京都出身。小学生の頃に経験した70年代のスーパーカーブームをきっかけにクルマが好きになり、いつかは自動車雑誌に携わりたいと想い、1993年に輸入車専門誌の編集者としてキャリアをスタート。経験を重ねて1999年には三栄書房に転職、GENROQ編集部に勤務。2008年から同誌の編集長に就任し、2018年にはGENROQ Webを立ち上げた。その後、2020年に独立。フリーランスとしてモータージャーナリスト及びプロデューサーとして活動している。

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野口優
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2024/06/11 17:30

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