【比較試乗】旗艦ラグジャリーサルーンに相応しいのは、洗練されたドライビングフィールか最先端のインフォテイメントか「ポルシェ・パナメーラ vs BMW・7シリーズ」

電動化の要求が幅を利かせ、それがプロダクションカーの仕様に影響を与えている昨今。一方でポルシェやBMWを望むファンが求めているものは、今も昔もブランドの個性に他ならない。電動化を含んだ両者の旗艦を試してみた。

そのドライブフィールは5ドア版911カレラ

ポルシェとBMWといえば、ともに走りに強いこだわりを持つブランド。かつてはRSR対CSL、今年からはル・マン・ハイパーカーのようにたびたびサーキットで兵刃を交える間柄でもある。ところがレスリングとボクシングではないけれど、両者はいくぶん「カタ」が異なる印象がある。つまり「スポーツカー対ハコ」という構図である。ところが21世紀のポルシェはドアの数や背の高さなどあらゆる面に柔軟であり、BMWをはじめとする実用的かつプレミアムな市場にぐいぐいと食い込んできている。

PORSCHE PANAMERA 4 E-HYBRID PLATINUM EDITION

今回連れ出したポルシェ・パナメーラ4Eハイブリッド・プラチナエディションとBMW740i Mスポーツもフラッグシップサルーンという意味ではがっぷり四つの組み合わせといえる。両者は電動化パワートレインという意味でも拮抗している。パナメーラは3L・V6ツインターボ+PHEV、740iは3L直6のMHEVによって時流に乗っているのだ。
最初にステアリングを握ったのはパナメーラで車名に「ターボ」の文字がないので属性はエコな方。けれども久々に味わうこの引き締まったドライブフィールはなんだ! 5ドアの911カレラという表現がぴたりとあてはまる。

PORSCHE PANAMERA 4 E-HYBRID PLATINUM EDITION/黒基調で引き締まったインテリア。前席は硬質かつ若干タイトでスポーツカーらしい緊張感を生み出す。

握りが硬く、若干細身のステアリングと、シャシー、足回り、そして前275、後315という極太タイヤまでがジョイントを介さず直結している感覚。ご存じの通りパナメーラはプラットフォームをグループ内の他車と共有しているが、乗り手に伝わってくる密度感はポルシェ以外の何物でもない。911に通じるポルシェの〝味〟をしっかりと感じられるのだ。

PORSCHE PANAMERA 4 E-HYBRID PLATINUM EDITION/単体で330psを誇るエンジンより、そのターボラグをカバーしスペック以上の加速力を生み出すハイブリッドに感心させられる。

そして特に驚かされたのは、試乗車が既に1万9000kmほど走っている個体だったこと。様々なドライバーがステアリングを握り、サーキット走行も頻繁にこなす広報車に掛かる負荷は相当なはず。にもかかわらず、パナメーラ4Eハイブリッドは新車のような精確なタッチを残していたのだ。

PORSCHE PANAMERA 4 E-HYBRID PLATINUM EDITION

伝統の7、最先端が奏でるアミューズメントの妙

一方のBMW740i Mスポーツは止まっていても走っていても「どこがMなのだろう?」というくらいの静けさ、しっとり感が印象的だった。街中における重厚な滑り出しはMHEVを通り越して、もはやBEVの如し。直6エンジンが始動する際、微かにフロア周りがブルンッと振動するのだけれど、それすら昨今流行りの「疑似排気音」ならぬ「疑似振動」では? と思ってしまう。

BMW 740i M SPORT

740iMスポーツは現行7シリーズの中では唯一の後輪駆動かつガソリンエンジンという武闘派のはず。ところが懐の深いエアサスが生み出す、節度感のある極上ソファーのような乗り心地はラグジャリーサルーンのど真ん中といった趣を湛えている。
真っ当なプレミアムカーとしての質感に加え、マッサージや視覚的演出を含めたドライビングモード、広々とした後席に追加されたシアタースクリーンを核とした「リアシート・エンタテイメント・エクスペリエンス」など、その印象は非常に進歩的。まさに走るアミューズメントパークのようだ。

BMW 740i M SPORT/明るいレザーと水平基調のダッシュパネルが広い室内の印象を助長する。ADASに関しても当代最高レベルの仕上がりであることは言うまでもないだろう。

走りに関しても、パナメーラが911を想起させたように、740iはM4クーペ・コンペティションとまではいかないが、ベーシックな420iグランクーペくらいのリニアリティは感じられる。総じてBMWにはポルシェほどの密度感はないが、その代わり軽さと硬さが強調され、飛ばして走った時の爽快感で優る。全長5.4m弱、車重2トン超えの巨体でもなおブランドの個性をしっかりと代弁することが可能なのである。

BMW 740i M SPORT/最高出力381psの直6エンジンは基本的には裏方だが回すと程よい高音を奏でる。

今回、両者のスペックをそれなりに把握してからステアリングを握ったわけだが、だからこその違和感もあった。AWDかつ136psものモーターが後押ししてくれているはずのパナメーラ4Eハイブリッドでは、シンプルな後輪駆動のように感じる局面が多かった。今回はガソリンこそ満タンだが、満充電で56kmのEV走行が可能なバッテリーが枯渇しそうだったことも関係しているはずで、すぐエンジンが始動していたこともパナメーラの「腕っぷし勝負のスポーツカー」のような印象を助長している。
対する740i Mスポーツは2駆で走行用モーターの最高出力は僅か18psに留まる。しかも直6エンジンの気配が微細なこともあって乗りはじめはi7と勘違いするほどの静けさだったのである。パナメーラ4Eハイブリッドと比べればプリミティブなスペックであるにもかかわらず、徹底的にノイズを遮断したボディと平滑な走りを実現するエアサス等の賢い立ち回りによって進歩的なクルマを装うことに成功しているのだ。

BMW 740i M SPORT/全体の容量はもちろんフルサイズのゴルフバッグを横方向に積めるラゲッジ幅も7シリーズならではだ。

自動車メーカーの開発の裏側では様々なサプライヤーが新たなギミックを生み出し納入しているわけだが、それよりもポルシェやBMWといった伝統的なブランドの走りの個性の方がはるかに強く感じられるというわけなのだ。
おそらく今回の2台で必要以上に頭を悩ませる人は少ないと思う。ドライバー中心でドライビング至上主義。遠出をする際もハイスピードかつノンストップで走りぬけたいならパナメーラ一択。新しいもの好きで、乗員全てに駆けぬける歓びを提供したい、という利他的なオーナーであれば7シリーズに軍配を上げるはずだ。

【JUDGMENT】BMW 740i Mスポーツ
以前i7を借りて帰った時、リアシートに座った娘が「スゴイ! 楽しい!」連呼してなかなか降りようとしなかった。オーディオの音響も特筆モノで、乗員すべてが最先端のラグジャリーを体感できる7シリーズを今回は推したい。

【SPECIFICATION】BMW 740i M SPORT
■車両本体価格(税込)=15,980,000円
■全長×全幅×全高=5390×1950×1545mm
■ホイールベース=3215mm
■車両重量=2395kg
■エンジン種類=直6DOHC24V+ツインターボ
■排気量=2997cc
■最高出力=381ps(280kW)/5500rpm
■最大トルク=520Nm(53.0kg-m)/1850-5000rpm
■トランスミッション=8速AT
■モーター最高出力=18ps(13kW)/2000rpm
■モーター最大トルク=200Nm(20.4kg-m)/0-500
■システム最高出力=381ps(280kW)
■システム最大トルク=540Nm(55.1kg-m)
■サスペンション形式=前:Wウイッシュボーン、後:マルチリンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前:255/45R20、後:285/40R20

問い合わせ先=BMWジャパン TEL0120-269-437

【SPECIFICATION】PORSCHE PANAMERA 4 E-HYBRID PLATINUM EDITION
■車両本体価格(税込)=17,210,000円
■全長×全幅×全高=5049×1937×1423mm
■ホイールベース=2950mm
■車両重量=2310kg
■エンジン種類=V6DOHC24V+ツインターボ
■排気量=2984cc
■最高出力=330ps(242kW)/5400-6400rpm
■最大トルク=450Nm(45.9kg-m)/1800-5000rpm
■トランスミッション=8速DCT
■モーター最高出力=136ps(100kW)
■モーター最大トルク=400Nm(40.8kg-m)
■システム最高出力=462ps(340kW)
■システム最大トルク=700Nm(71.4kg-m)
■サスペンション形式=前:Wウイッシュボーン、後:マルチリンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前:275/35R21、後:315/30ZR21

問い合わせ先=ポルシェジャパン TEL0120-846-911

フォト=郡 大二郎 ル・ボラン2024年4月号より転載

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2024/03/18 17:30

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