【国内試乗】2023年始にローマ、年末に東京で確信した名門マセラティの快進撃! 復活のグランドツアラー「マセラティ・グラントゥーリズモ」

販売は終了されたと思われていたマセラティ・グラントゥーリズモが復活。乗り味もさることながら、ホスピタリティが行き届いた新しいイタリアンGTは、まさに経験すべき一台であると断言したい。

実に洗練されたクーペやGTの解釈

純BEVの「フォルゴーレ」を控え、インターミディエイトサイズのSUV「グレカーレ」まで見事な出来とあって、エンジニアリングリソースの豊富さに今一度、目を見張るべき存在、それがマセラティだ。個人的にはこれらとMC20、そして年末から日本に上陸した新しい「グラントゥーリズモ」が、一連の新世代モデルと捉えている。とくに後者は、明らかに前世代と一線を画す長足の進化と洗練ぶりに驚かされる。

グランドツーリングとは何かを深いところで理解している。

今回、東京を起点に試乗したICEのV6ツインターボ版こと「トロフェオ」に相まみえたのは、5月にローマ〜モデナ間でツーリング気味に駆って以来だった。無論、素晴らしい経験だったが、初夏のイタリアの空の下という底抜けの好条件下ゆえクルマ単体ではジャッジしづらかった。だから日本で乗ったらグラントゥーリズモ体験が萎びてしまわないかやや不安だったが、結論から述べてしまおう。操り手は無論、乗員の五感までじっくりとこじ開けてくるような官能性でもって、移動をドラマチックに仕立て上げてしまう能力/キャパシティが、道を問わずデフォルトで備わる、それが新しいグラントゥーリズモだ。
具体的にはまず、FRの文法通りにロングノーズかつ流麗なフェンダーラインは古典的ながら、面処理やエッジを38強め過ぎず滑らかに繋ぐことで相対的にモダンに魅せる。また4つのフェンダーを対角線で結ぶとボディ中央で交差するというマセラティ伝統のプロポーションも守られている。

550ps/650Nmを発揮する3L V6ツインターボエンジンを搭載。8速ATを組み合わせ駆動方式は4WDを採用する。0→100km/h加速は3.5秒を記録する。

フラットなドアハンドルに指を入れ電動ポップするドアを開けると、開口部の広さと適度なサイドシル高により、前席のみならず後席の乗降性もまずまず。頭を下げて膝を引きつける動作が辛くない程度に、よく練られている。
後席は広々とはいわないまでも、身長175cmの大人がすっぽりとハマり込める心地よさは確保。後席のセンターコンソールにもエアコンのベントと2人分のドリンクホルダー、USBコンセントが備わる。上着フックのない後席に長距離行で乗せられると、とくに冬場はクロークのない会合の席に通されたような居心地悪い思いをするが、グラントゥーリズモには前席シートの頭部背面にちゃんと上着フックが備わる。ともすれば省略されがちな快適装備が何ひとつ省かれていない+2の後席は、欧州で人並以上の家なら来客用のベッドルームが備わる感覚に似ている。前2席は主の側として、一緒に旅行するような友人らに対する気の利いたホスピタリティというか社交性を備えている点に、2ドア+2クーペの妙味がある。逆にいえば、4ドアだとタクシーやショーファーのような関係になりうるし、SUVの方が移動の目的をシェアする感覚は強くても、クーペとくに2ドアのGTはあくまでオーナーのプライバシーを優先する車型なのだ。
だから前席のインテリアにもスポーツカーにはない芳しさ、余裕がグラントゥーリズモにはある。12.3インチと8.8インチの仰角に配された2つのディスプレイ、そして12.2インチのメーターパネルというデジタルインターフェイスは、総計34.3インチに及ぶ大画面構成ながら、大径のDシェイプ、マルチファンクション付のステアリングは少し古典的。シフトセレクターは上下ディスプレイの間に配され、ボタン式だ。高貴な素材とクラフトマンシップに支えられた雰囲気といい、最新のイタリアンGTにふさわしいミクソロジーといえる。

質のいいFRマシンを操っている感覚

MC20やグレカーレに続いて搭載されるグラントゥーリズモ・トロフェオのネットゥーノV6ユニットは、542ps仕様。実質的にツインスパークで燃焼室をダブルで備えつつ、気筒休止すら実現したハイメカニズムだ。今日のF1で広く使われる最新テクノロジーのひとつをマセラティが用いることは意外かもしれない。が、歴史的にマセラティは戦前のグランプリそして戦後の黎明期F1を牽引したコンストラクターで、モータースポーツ目線ではフェラーリ以上にイタリアの老舗ですらある。

12.3インチのセンターディスプレイと、その下には空調などを操作する8.8インチのディスプレイが備わり、どちらも視認性は良好でユーザビリティも高い。デジタルルームミラーなどの先進装備も備わり、シートには上質な本革が採用される。

グラントゥーリズモの動的質感で圧巻といえるのは、その階調の豊かさ、奥深さだ。日本の法定速度域では街中でも高速道路でも2000rpm以下で、恐ろしく静かにすべて事足りる。だが4500rpm辺りから7000rpmまで一気呵成に登りつめて吠えるエキゾーストノートのドスの効かせ方、そして怪力ぶりは、比類なくドラマチックだ。ただ吹け上がりのよさ以上に印象的なのは、長い登り坂でジワリとため込むように回転を数上げる際の、漲るような力強さ。いわば早回しでも遅回しでも、ドラマの再生速度はドライバーの胸先三寸というか足先ひとつ。主演にして監督というロールがあてがわれるのだ。

しかもロングホイールベースゆえ、ドライビングモードでコルサ以外なら、ステアリング中立付近は敏感過ぎず、しかし限りなくフロントミッドシップに近いレイアウトも手伝い、操舵に対し小気味よくノーズはインを向く。よほどのことがない限り後輪駆動で走ろうとする前後トルク配分の制御と相まって、質のいいFRマシンを操っている感覚だ。
もたつきやのっそり感を微塵も感じさせない要因には、駆動レスポンスもさることながらフォルゴーレというBEVと共有する関係で、車内システム・コミュニケーション・ネットワークがハイグレード、つまり制御のデータ量と伝達速度が飛躍的に高まっていることもあるだろう。VDCM(ヴィークルドメインコントロールモジュール)と呼ばれる基本的なダイナミクスシステムを、ソフトウェアから実装、キャリブレーションまでマセラティは100%自社開発している。
電動化が喧しい今、以前なら少しアナログでマッチョだったマセラティが、かくも精密で高解像度のGTに生まれ変わった意外性ごと、経験すべき何かなのだ。

【SPECIFICATION】マセラティ・グラントゥーリズモ・トロフェオ
■車両本体価格(税込) ¥29,980,000
■全長×全幅×全高=4965×1955×1410mm
■ホイールベース=2930mm
■車両重量=1870kg
■エンジン形式/種類=ー/V6DOHC24V+ツインターボ
■総排気量=2992cc
■最高出力=550ps(404kW)/6500rpm
■最大トルク=650Nm(66.3kg-m)/2500-5500rpm
■トランスミッション形式=8速AT
■サスペンション形式=前:Wウイッシュボーン/エア、後:マルチリンク/エア
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前:265/30ZR20、後:295/30ZR21

問い合わせ先=マセラティジャパン TEL0120-965-120

【ANOTHER RECOMMEND】FERRARI PUROSANGUE/フェラーリ・プロサングエ
老舗ブランドという目線ならライバルはメルセデスAMG辺りだろうが、あえて「イタリアの敵はイタリア」とうことで、飛びきりモダン解釈の2+2のGTという意味で4ドアながらフェラーリ・プロサングエを挙げておきたい。

リポート=南陽一浩 フォト=岡村昌宏(CROSSOVER) ルボラン2024年1月号より転載

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