先代から多くを継承しつつサイズを拡大
この連載の第1回では、1980年代スペシャリティカーを代表する1台としてホンダ・プレリュードを採り上げたが、今回はそのプレリュードのライバルでもあった日産シルビアを採り上げることとしよう。シルビアの六代目、S14型系のカタログである。
S14型シルビアは1993年10月に発売、1999年1月まで販売されたモデルだ。先代にあたるS13型は、美しいボディスタイルが世界的にも高い評価を受け、良好なセールスを記録しただけに、そのモデルチェンジは非常に注目を集めたが、S14は基本的にはキープコンセプトながら、車体を3ナンバーサイズへと拡大していたのがポイントであった。スタイリングも先代の方向性を継承したものと言える、バランスの良いオーソドックスな3ボックス・クーペである。ただし、S13にあった面のメリハリやシャープなエッジ、流麗なラインといったものは失われ、全体にぼんやりとした丸みに包まれていたのが特徴だった。
プラットフォームは先代の流用であり、FRレイアウトはもちろん前ストラット/後マルチリンクのサスペンションなども変更はないが、ボディの拡大に合わせた改良(燃料タンク位置の変更を含む)により「操縦安定性の向上としなやかな乗り心地を実現した」としていた。SUPER HICASについては、後輪の操舵ユニットを油圧式から電動モーター式アクチュエーターに変更している。
グレード構成も先代を継承し、ベーシックなJ’sとその装備を充実させたQ’s、そしてトップモデルのK’sの3種が基本で、J’s以外にはType Sが設定され、合計5種。エンジンはJ’s、Q‘sにツインカム16バルブのSR20DE(160ps)、K‘sにはそのインタークーラー付きターボ仕様であるSR20DET(220ps)を搭載、これらも先代から引き継いだものであったが、細部の改良(高応答NVCS=可変バルブタイミング機構の採用など)によりいずれも最高出力が向上していた。トランスミッションは5速MTと、E-ATと呼ばれるフルレンジ電子制御AT(4速)の2種類で、全モデルにこのふたつが設定される。
期待されたS14だが、ボディの大型化とそれに伴い特徴を失ったスタイリングは支持を集めることはできず、また2ドア・クーペの需要そのものが落ち込みを見せたこともあり、販売はふるわなかった。そうした状況を打開するべく、1996年6月には大幅なマイナーチェンジを実施。フロントのデザインを大きく変更、薄型プロジェクターランプとスポイラー風処理のエアロバンパーを装着し、精悍なイメージへと変身した。そのほか、SR20DET搭載車には、マフラーチューニングによるサウンド改良やディスクブレーキ容量拡大などがなされている。販売成績としては大きく盛り返すことはできなかったが、この後期型のフロントマスクのイメージは次のS15型にも受け継がれたのであった。
見るたびに美しさが馴染んでくるカタログ…という訳でもない
さて、ここでお目にかけているカタログは、S14型系前期型のものである。発行年月ははっきり分かる形では記されていないので詳細は不明だが、1996年のマイチェンに先駆けて1995年5月には早々に小変更(グリルのリデザインや運転席エアバッグの採用など)が行なわれているため、それまでの間のものと思って間違いないだろう。サイズは299×250mm(縦×横)、ページ数は表紙を含めて全32ページ。
カタログの作りとしては特に変わったところはなく……なさすぎてあまり言うこともない。写真はもちろん綺麗に撮影されているし、レイアウトもそれなりにおしゃれな感じになされているのだが、特に何か具体的なイメージが伝わってくるものでもないようだ。もっとも、これはこの頃の自動車カタログに共通した作りであるかもしれない。S13のカタログも似たような感じではあった。とは言え、もう少し写真の背景に特徴のある場所を選ぶなどすればよいのに……という気もしてしまう。
S14がデビューした当時、開発責任者がインタビューに答えて「スタイリングはハッと目を引く美しさよりも、日常触れていく中で次第に馴染んでいくような美しさを目指した」というようなことを語っていたと記憶している。「それはスペシャリティカーに求められるものではなくて、セダンのそれでは?」と疑問に思ったことをよく覚えているが、このカタログも例えば写真の車両のみをブルーバードやローレルに移し替えても何の違和感もなさそうだ。そういう意味では、実車の方向性をよく反映したカタログとも言える。
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