今回は日本が誇る世界遺産の「屋久島」で気候や地形を活かして行われてきた水力発電による自然エネルギーの地産地消とBEV(Battery Electric Vehicle:バッテリー型電気自動車)活用の組み合わせでカーボンニュートラルの実現に向けて挑戦するアウディの取り組みについて、「屋久島」で実施することの意義や価値、事業側面などを中心に挑戦をリードする「アウディジャパン」のブランドディレクター(兼「フォルクスワーゲン グループ ジャパン」代表取締役社長)のマティアス・シェーパースさんにもフォーカスしてコラムをお届けします。
世界遺産の「屋久島町」
「屋久島」は鹿児島県の大隅半島から60kmほど南にあり、堆積岩(たいせきがん)に花崗岩(かこうがん)が突入してできた円形に近い五角形の島です。
大きさは東西に約28km、南北に約24kmで周囲は132km(504.29平方キロメートル)ほど、九州最高峰の「宮之浦岳(標高1936m)」を始めとした標高1800m級の山々が連なり洋上のアルプスや屋久島山地とも言われています。
「屋久島」の気候は亜熱帯ですが標高の高いところは北海道なみの気候で『ひと月に三十五日は雨〔林 芙美子さんの小説『浮雲』より〕』と言われるほど雨が多く、年間の降水量はおよそ4500mmと日本の年間平均降水量の2倍をはるかに超える量で、しかもその半分近くが5月から8月に集中して降ります。
さらに山間部では年間降水量が8000~10000mmに達し、この雨によってもたらされる豊富な水を活かして、島の生活に必要な電力と日本で唯一の“炭化けい素”製造の電力を清流「安房川(あんぼうがわ)」水系で「屋久島電工株式会社」が水力発電をしています。
自治体としての「屋久島町」は平成19年(2007年)に鹿児島県の上屋久町と屋久町が合併して発足、「屋久島〔人口11530人/令和5年6月〕」と「口永良部島(くちのえらぶじま)〔人口104人/令和5年6月〕」の町です。
「屋久島町」の「口永良部島」は長径が約12km、最大幅が約5㎞で周囲49.7km(35.81平方キロメートル)ほどのひょうたん型をした美しい緑の火山島で、噴煙の出ている「新岳(標高626m)」や島の海岸周辺の随所には良質な温泉が湧き出ていることでも有名です。
平成5年(1993年)には樹齢数千年の屋久杉をはじめとする特殊な森林植生や亜熱帯から冷温帯に及ぶ植生の垂直分布など、「屋久島」の貴重な自然環境・自然資源が世界的な評価を受けて「白神山地(青森県~秋田県)」と共に日本初の「世界自然遺産」に登録され、平成17年(2005年)には「ラムサール条約」、平成28年(2016年)には「屋久島・口永良部島ユネスコエコパーク」としても登録され、「屋久島」は日本で唯一のユネスコ(国連教育科学文化機関)“三冠”を獲得しています。
アウディが「屋久島」で進めるカーボンニュートラル
「アウディジャパン」マティアス・シェーパース ブランドディレクター、「鹿児島県熊毛群屋久島町」荒木 耕治(あらき こうじ)町長、アウディ正規販売店を運営する「株式会社ファーレン九州」金氣 重隆(かねき しげたか)代表取締役社長の3者間で「屋久島」における脱炭素による地域振興、貢献を目指す包括連携協定の成立に向けた基本合意書を締結しました。
これによって今後は電気自動車の普及を図り「屋久島」の脱炭素をさらに推進するとともに地域住民や観光客を包括的にサポートする取り組みを行っていくとのことです。
現在の具体的な取り組みの内容は、
①BEVの普通充電器7基を寄贈
(屋久島町役場3基、屋之間出張所1基、THE HOTEL YAKUSHIMA 2基、屋久島電工1基)→屋久島用に改良を加えた塩害対策用キャビネットを設置
②BEVのAudi「e-tron」で地域を活性化
(All e-tron のレンタカー事業をTHE HOTEL YAKUSHIMAで提供、屋久島町役場と屋久島電工に1台ずつ貸出)
※①と②はいずれも2023年10月よりスタート
③高校生に未来を考える学習機会を提供
(アウディジャパンによる屋久島での高校生への出張授業や島外での学習機会を提供、交流を通じて未来共創を考える機会を継続)
といった内容です。
「アウディジャパン」は“自動車のライフサイクルにおけるカーボンニュートラル化を進めており、自然と人が共存し島全体でサステイナビリティに取り組んでいる屋久島町の皆さまをサポートしたいと考えました”と提唱します。
アウディの出張授業
アウディが出張授業を行う「屋久島高校」には、普通科の理系クラスに「環境コース(鹿児島県内で唯一)」が併設され「屋久島」の自然や文化の学習にとどまらず、各種研究を通して「知識」「表現力」「実践力」を身につけられるのが特徴です。
特に地域の環境保全に積極的にかかわる立場から「屋久島ジュニア検定」に取り組み、環境保全に関する基礎知識の習得に励んでいるのが世界遺産の島にある高校ならではと感じます。
「アウディジャパン」は令和5年7月11日(火)に「屋久島高校」で出張授業を行いました。
授業の内容はアウディのブランドや歴史、再生エネルギーとCO2の関係性からカーボンニュートラルにつながる考え方や今後の自動車がどうあるべきか? や未来の自動車などについての講義が行われ、高校生たちがシェーパースさんを始め「アウディジャパン」の各スペシャリストのプレゼンを熱心に聞いている姿が印象的でした。
またQAセッションも設けられ、高校生からの「社長になるためにどうすれば良いですか?」という質問に対してシェーパースさんは「今こうやって質問していること自体、あなたが社長になるための第一歩です」という説得力のある回答をされていました。
さらには「全ての自動車が電気自動車になるのはいつだと思いますか?」といった難しい質問や「恋愛についてどうすればうまくいきますか?」や「いつもスーツじゃなくてカジュアルですか?」等々、高校生ならではの質問に対してシェーパースさんは懐の深さと優しさが感じられ、また経験や実績がにじみ出ている回答をされ、質問者たちは感動していたのが印象的でした。
出張授業後にはAudi「e-tron」の見学会も実施され「屋久島高校」の高校生は「e-tron」について、見たり、乗ったり、説明を受けたり、一部の高校生は走行の同乗試乗もあって、その魅力に触れていました。
やはり販売店での試乗と同様に、走行に同乗試乗した高校生の感想は同乗試乗していない高校生よりも感想が深く「エンジンやタイヤの音がしなくてとても静かで高級車の走りを感じました」や「内装やナビの高級感が半端じゃないです」、「オーディオの音質が素晴らしかったです」といった感想を話していて、走行に同乗試乗していない高校生の「カッコいい」や「高級そう」といったものよりも感動が増している様子が見受けられました。
未来共創ミーティング
アウディ出張授業と同日に「屋久島町役場」にて「未来共創ミーティング」が開催されました。
「未来共創ミーティング」には「アウディジャパン」のマティアス・シェーパース ブランドディレクター、「株式会社ファーレン九州」の金氣 重隆 代表取締役社長、「屋久島町」の荒木 耕治 町長、「屋久島観光協会ガイド部」の中馬 慎一郎(ちゅうまん しんいちろう)会長、「鹿児島県立屋久島高等学校」の惠 美由紀(めぐみ みゆき)教頭、斉藤 武(さいとう たけし)教諭と高校生の皆さん、オブザーバーとして「屋久島電工株式会社」の寿恵村 哲哉(すえむら てつや)代表取締役社長と宮田 昇(みやた のぼる)取締役、「THE HOTEL YAKUSHIMA Ocean & Forest」の後藤 慎(ごとう しん)代表取締役社長が出席して、カーボンニュートラル、脱炭素に向けて自然エネルギーをどのように活用していくべきか?や未来の「屋久島」がどうあるべきか?等々についての白熱した議論が行われ、オブザーバーも含めて将来に向けた議論の重要性と課題を再認識していました。
シェーパースさんの推進力と日本への想い
現在、「アウディジャパン」が取り組んでいるサスティナブル施策は将来を見据えた堅実な内容で実効性に富んでいます。
サスティナブルや自動車業界にとって使命でもあるカーボンニュートラルを掲げる企業や自治体は数多くありますが、ここまで具体的に計画して実施されている例はあまりないかと思います。
「アウディジャパン」は「屋久島町」以外にもバイオマス発電によるゼロカーボンシティの先駆けでもある「岡山県真庭市」や地熱発電で市内全ての電力を賄う「岩手県八幡平市」でも「未来共創ミーティング」を開催していて、いずれも継続して取り組んで行くことを表明しています。
このような取り組みは、リーダーのビジョンと使命感や推進力が成功させられるか否かを左右すると思われますが、これまでの実績からも「アウディジャパン」の取り組みはきっと成功して今後も業界をリードしていくと思います。
ドイツのプレミアムブランドであるアウディが推進する世界遺産「屋久島」でのカーボンニュートラルが成功すれば、自動車が適したパワートレイン(BEV、合成燃料使用のエンジン車等)を適した場所(自然エネルギー発電、火力発電等を用いる地域)で使う“自然エネルギーの地産地消”のリードモデルになると同時に、カーボンニュートラルに向けた取り組みは一律ではなく、地域によって最適化を図る必要があるという検討の活性化にもつながると考えられますので、「アウディジャパン」の取り組みの意義は極めて大きいと言えます。
これらの取り組みはリーダーであるシェーパースさんの経営者としての先見性、強力な推進力と「母は日本人です」という日本への想いによるところが極めて大きいと感銘を受けます。
アウディのブランドオリジナリティ
現在の自動車産業は、SDGsやサスティナブル、カーボンニュートラルなどの実現に向けた取り組み、将来に向けたビジョンや戦略が必須といった状況ですが、特に今後はブランドとしてのオリジナリティが問われ、従来からの「走る・曲がる・止まる」機能が魅力的であることはもちろんですが、コネクティッドなどの付帯サービスや車内のエンタメ、ストリーミングに至るまで多岐に事業は広がっていて、さらにはブランドとして社会における責任や役割をどのように担い、その価値を高めていくか? が重要であると考えています。
それらの取り組みとして、ひとつにはスポーツ振興へのスポンサーシップであったり、各種の寄付であったり、今回の「アウディジャパン」のように世界遺産の島でカーボンニュートラルを実現する挑戦もひとつであると言えます。
アウディの「ブランドオリジナリティ」は車内を中心とした近未来の自動車をコンセプトモデルとして提唱している「sphere concept(スフィア コンセプト)」を軸にカーボンニュートラルの実現に向けたBEVの「e-tron」などの導入と相まって非常に魅力的且つ現実的ですので、今後も注目していきたいと思います。
この記事を書いた人
自動車4社を経てアビームコンサルティング。企画業務を中心にCASE、DX×CX、セールス&マーケティング、広報、渉外、認証、R&D、工場管理、生産技術、製造等、自動車産業の幅広い経験をベースに現在は業界研究を中心に活動。特にCASEとエンジンが専門で日本車とドイツ車が得意領域。
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