ロータス最後の純ICEモデルとして登場したエミーラは、これまでのロータス車とは一線を画すほどの大幅な進化を遂げている。そこで同じくミッドシップ+6気筒エンジンのポルシェ718ケイマンGTS 4.0を持ち出し、その性能を比較してみた。
内外装のクオリティが格段に向上したエミーラ
率直に言って、エキシージやエヴォーラの世代だったらポルシェと真っ向勝負はできなかっただろう。なぜなら、純粋なドライビングの歓びという側面を別にすれば、サイズ、キャラクター、そしてクオリティの点でロータスはポルシェの敵とはなりえなかったからだ。しかし、先ごろリリースされたエミーラは、スペックを比べただけでも、ケイマンとの距離はぐっと縮まったことがよくわかる。ボディサイズは、エミーラのほうが10cmほど幅広いことを除けば横並び。エンジンの性能や動力性能も互角で、価格はエミーラのほうが割高ながら、その差は100万円ほどの範囲に収まっている。ただし、試乗した印象は大きく異なっていた。エミーラは、ヘーゼルの生産設備を一新して自動化が一気に進んだ結果、内外装のクオリティが格段に向上しており、ポルシェにぐっと近づいた。
走らせてみれば、エリーゼから続くボディの剛性感がしっかり伝わるいっぽうで、足回りの洗練度は大幅に改善されており、荒れた印象はほぼ与えない。それでもステアリングのレスポンスは相変わらずで、手首を軽く返しただけでノーズは素早くコーナーのイン側を目指す。この、なんともいえない軽快感もまた、ロータスの遺伝子と呼ぶべきものだ。
さらに、足回りのしなやかさが増したことでタイヤの路面への追随性が向上し、荒れた路面でも安定したグリップを生み出してくれる点は、エミーラの優れた美点。おかげで、エキシージなどで感じられた「なにかの拍子にスパーンとテールが流れ出しそう」という漠とした不安が消え去った。また、ハードコーナリングでエンジンが倒れ込むようにしてロールする感触が認められなくなったことも安心感に結びついている。
こうした安心感が根底にあるので、スロットル操作とノーズの動きが連動する特性などを駆使すれば、姿勢が乱れても立て直せるという自信を与えてくれるところが従来のロータスとの決定的な相違点。そして「滑らせてもコントロールできる」という点ではアルピーヌA110ともよく似ている。
続いてケイマンに乗り換えると、エミーラで得た感動がかすんでしまうほど、その傑出した質感を思い知らされる。とにかく、レバーやスイッチのひとつひとつに至るまで、「これってムクの金属で作られているんだろうなあ」と思わせる重厚感があって、この段階で早くもモノのよさ、作り込みのていねいさに圧倒されることになる。これはボディの剛性感についても同様。いや、これは別にロータスが悪いという意味ではなく、ポルシェの機械としての優秀性が卓越しているだけの話である。
ワインディングロードを走らせても、エンジン、駆動系、足回りから際立って優れた精度感が伝わってくる。そうした機械の優秀性がもたらす安心感と、オン・ザ・レールの安定感が重なり合って、コーナリング中は完全無欠のグリップ感を満喫できる。これこそまさに、ポルシェが速度無制限のアウトバーンやニュルブルクリンクで鍛え上げてきた超高速域対応のスタビリティといえるだろう。
ではエミーラとの差はなにかといえば、ケイマンから得られる安定感はあくまでもクルマが生み出してくれるもので、ここが「万一のときはドライバーがコントロールできる」エミーラとの決定的な違いといえる。
こうした違いはクルマ作りの哲学に関わるもので、どちらが良い悪いの話ではない。とはいえ、ポルシェと比べても「思想の違い」が認められるだけで、ほぼ同じ基準で比較できること自体が、新生ロータスの進化の度合いを物語っているといえるだろう。
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