装飾性を増したコークボトルラインが特徴
国産ビッグサルーンのファンには色々な人がいることだろう。VIPカーや街道レーサー、あるいは往年のストックカーレース、海外仕様車……様々な嗜好があるわけだが、日産のセドリック/グロリア、特に230から430に限って言えば、特に営業車や低グレード・セダンを好むマニアが少なくないようだ。
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その理由というのはハッキリしていて、『大都会』や『西部警察』といったTVの刑事ドラマにおける、スタント用車両としての活躍である。そうした車両はタクシーや教習車上がりのものが多く、横転や爆発、その他さまざまに体を張った演技を見せてくれただけに、子供心にそうした姿に魅了され、大人になってもその格好良さを忘れることができない……という人が少なくないわけである。何を隠そう、筆者もそうした嗜好を持つひとりだ。どのモデルを好むかはまた人によって異なるが、『西部警察』においてはシリーズを通して最初から最後まで活躍しただけに、330型系のセダンにはファンが多いようである。
330型系の日産セドリックは1975年6月に登場した。セドリックとしては四代目、先代から兄弟車となったグロリアは五代目となる。この330は、ヒット作であった先代230型系のコークボトル・ラインを受け継ぎつつ、よりデコラティブなボディラインとなったのが特徴だった。基本コンポーネンツは先代からのキャリーオーバーで、さほどの変更はない。
レイアウトはFR、エンジンはL型6気筒が中心、サスペンションは前ダブルウィッシュボーン/後リーフリジッド。ほぼスキンチェンジと言ってよいが、先代との大きな違いは3ナンバー用のエンジンが2.6Lから2.8Lに拡大されたこと、そして昭和50年排気ガス規制対応のデバイスが装着されたこと、この2点である。特に排ガス対策では車重の増加が著しく、動力性能の低下という影響が大きかった。
もうすこし具体的に述べると、エンジンは2L 4気筒OHVのH20、2L 6気筒OHCのL20、2.8L 6気筒OHCのL28、2LディーゼルのSD20(後に2.2Lに拡大)というラインナップ。ボディタイプは4ドア・セダン/4ドア・ハードトップ/2ドア・ハードトップ/バンの4種となり、先代まであったワゴンは廃止されている。当初は2ドア・ハードトップのみが角型2灯ライト、4ドア車はセダンもハードトップも丸型4灯ライトであった。
- 登場1年目の1976年6月には、角型2灯ライトを装着しボディ同色のホイールキャップを装着した「Fタイプ」が、4ドア・ハードトップに追加されている。これは4ドア・ハードトップの豪華版シリーズというもの。このとき昭和51年排気ガス規制への適合も行われ、ディーゼル車を除いて型式名が331へと移行している。
1977年6月ではマイナーチェンジを実施し後期型へ移行。細部のデザインが変更され、2.8L車の最高グレード「ブロアム」が追加されている。1978年11月には、ガソリン車の53年排気ガス規制適合(型式名は332に)とともに、ブロアムと同等の内装などを持つ「SGL-Eエクストラ」を2Lモデルの4ドア車に設定した。そして1979年6月、モデルチェンジで430型系へと生まれ変わっている。
営業車らしいビジネスライクなカタログ
という訳で、ここでお見せしているのは後期型セダンのカタログ、しかも営業車専用というなかなかレアな一品である。主要諸元には「332」という型式名が記されているところからもシリーズ末期と分かるが、1979年1月のものとのことである。サイズは300×250mm(縦×横)、ページ数は表紙を含めて全8ページ。
カタログとしては特に奇をてらったところもなく、実車の機構や装備など、その特徴が過不足なく説明されているが、これは用途からしても当然であろう。同じ330後期でもオーナードライバー向けカタログの表紙には、優雅な筆記体で車名が書かれたりしているが、こちらはカタカナで「セドリック営業車シリーズ」と、何とも素っ気ないというか、ビジネスライクである。「過不足なく」とは言ったものの、詳しく見ていくとどうにもハッキリしない部分は残るカタログで、例えばスタンダードのリアスタイルや、デラックスをフロントから見たところなどの写真は掲載されていない。
余談であるが、筆者は330のタクシーに一度だけ乗った記憶がある。むろん子供の頃のこと――確か7歳――であるが、タクシーとして街で見かけるセドリックはすでに430中心となっていた時期であったから、嬉しかったのはよく覚えている(この頃すでに『大都会PARTⅢ』で230および330のファンになっていた)。中耳炎で激痛が発生し救急車で病院に運ばれた、その帰りに乗車したのである。もう夜のことであったが、後席ドアのウィンドウの独特な形状のため、洞穴の中にいるような薄暗さがあった。このカタログの中にある後席の写真を見ると、その時の安堵と心細さが混じり合った記憶が、より鮮明に蘇ってくるのである。