廉価版ながらその軽快さは侮れない
ポルシェ912は、911が正式に発売された翌年、1965年4月にデビューした。911登場後も併売されていた356の生産終了に伴い、ラインナップに加えられた廉価モデルである。911は356に比して性能が飛躍的に向上した反面、価格がおよそ4割増しであったため、従来の356がターゲットとしたユーザー層がポルシェから離れていくのではないか、と懸念されたことにより、356のエンジンを載せた911として912は企画された。
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エンジンは356C用1.6L水平対向4気筒OHVを911ボディへの搭載に合わせパワーアップ、最高出力は90hp/5800rpm(DIN)。変速機は4速マニュアル・ミッションとされ、5速もオプションで用意された。装備の簡略化は主に内装に関するもので、ボディ色が露出しているインパネには、911の5連に対し3連のメーターとプラスチック製ステアリングホイールが装備されていたが、反面、外装で識別できる所はエンブレム程度。
絶対的な動力性能こそ911に及ばないが、軽量な4気筒エンジンによる適正な重量配分がもたらす軽快かつ優秀な操縦性は、6気筒エンジンによる重厚なフィールがグランツーリスモ的な性格の911と好対称であった。そのライトウェイトスポーツ的なキャラクターは、まさしく356の後継に相応しいものではないだろうか。
細かな仕様変更は911に準じて年次改良として行われ、1967年にタルガトップを追加し、1968年にはホイールベースが60mm延長されたBシリーズに移行。そして1969年7月、VWとの共同開発による新たなエントリーモデル・914が登場したのに伴い、生産終了。912は合計3万台近くが生産され、日本には100台が上陸、そのうちの4台は交通機動隊のパトカーとして納入されている。
ただし、912の歴史はこれで終わった訳ではなく、実は1976年に、北米市場でのみ914が販売終了したことにより、次世代モデル924導入までの暫定措置として、912Eをリリース。これは911のボディに914-2.0用VW製2Lエンジンをインジェクション化して搭載したもので、2000台ちょっとが販売されたという。
356C 2000GSのホイールと356B 1600Sのエンジンを使用
さて、ここでご覧いただいている作例は、フジミ製1/24スケール・プラモデルのポルシェ911S、いわゆる初期型のナローポルシェことタイプ901をベースに、ホイールベースを短縮し同社製356Bのエンジンを移植して、極初期型の912を制作したものである。以下、作者・森山氏の説明をお読みいただこう。
「元々は、長らく生産休止中の356シリーズの中から、2000GSカレラ2のCタイプ用スチールホイール&カバーを流用して、素の911を作りたいと構想を練っていたものですが、どうせならさらに手を加えて登場時のショートホイールベースに変更し、かつ、幸か不幸か以前制作中にボディを破損してしまい制作を断念した356B 1600Sのエンジンを移植して、初期型912を制作してみようと相成った次第です。今回はデビュー時の1965年式として制作、それと共に、フジミ製911のボディ形状で気になる部分のアレンジ・修正を試みてみました。
フジミがそれまでのイメージを根底から覆すごとく、超精密なフルディテールモデルとして世に問うたエンスージャストシリーズ。作者としては、その最初のラインナップであるポルシェ911への、25年ぶりの再挑戦でもあります。デカールを作成して頂いたSMP24様には、この場を借りてお礼申し上げます。この作例から、皆様にとって何かしらのヒントが見つかれば幸いです」