オープンカーほど趣味性が高く、なおかつ各モデルのキャラが濃いクルマも無いだろう。それゆえ旧モデルでも、いや、だからこそ得られる快楽もまた格別だ。ここではイタリアのヤングタイマーなオープンに着目してみよう。
いつも変わらぬ退屈な風景にサヨナラしよう!
曲げもねじれも感じさせない高剛性ボディを身にまとい、正確無比な走りを展開する一方で、ウインドディフレクターやシートヒーター、さらにはネックヒーターまで装備し、不快な思いを一切させない現代のオープンカー達。加えて衝突安全から横転時の衝撃まで計算し尽しているなど、あらゆる領域において抜かりナシ。走りと快適性と安全性を併せ持つその姿は、完成の域に達していると言える。
ここで登場するイタリアン・オープンの中古車は、その世界観とはハッキリ言って真逆だ。走ればパーキングスピードからしてスカットルシェイクが現れ、狙った操作とクルマの動きとがリンクしていないことを感じさせる。側面衝突や歩行者保護などをあまり考慮していなかったせいか、身体はボディから飛び出るように座らされている。その対価として見晴らしが良く、肘をドアに引っ掛けて優雅に走れるし、風にさらされている感覚は高いが、快適性は皆無と言っていい。サイドウインドーを閉めたところで、どうせ心地よい風が得られるはずもなく、ならばウインドーは目一杯下げた状態で風を感じたほうがマシとなる。今の目線から見れば、20年以上も前のオープンカーは欠点だらけという現実がある。
けれども、デザインは美しい。今の基準では到底達成できないウエストラインの低さは、ずんぐりむっくりした現代のオープンカーとは違って、スッキリとしたディテールだ。バスタブに肩まで浸かって首だけひょっこりのぞかせるイマドキとは違い、人もまたクルマの一部としてデザインに溶け込めるとでも言えばいいだろうか? そんな世界観がこの時代のクルマ達には存在している。着ている服にも気を遣わなきゃ、そんな感覚になれるのだ。
ゆったり優雅に流すだけでも十二分に楽しい走り
アルファ・ロメオ・スパイダー・ヴェローチェに乗り込むと、先述したものがすべて備わっている。ピニンファリーナがデザインしたフォトジェニックなスタイルは、わざわざ書き連ねなくても写真を見るだけで伝わってくるものがあるだろう。低く構えたボンネットと、その脇にある丸形ヘッドライトから流れるフェンダーの盛り上がりをドライバーズシートから眺めていると、非現実空間に突入した感覚になってくる。エクステリアを見ずして満足できるこのスタイルはなかなかだ。
【写真10枚】外から見てもシートに座っても美しい秀逸なスタイル『アルファ・ロメオ・スパイダー・ヴェローチェ』の詳細を写真で見る
走ればとにかく頼りなく、真っ直ぐ走らせるにも、止まるにも気を遣う。とてもこれですっ飛ばそうなんて考えは浮かばず、ゆっくりとただ流すだけで十分と思えてくる。ヨレを感じさせるボディ、そしてストッピングパワーとは程遠いブレーキ、けれども低速から力強く押し続けるトルクが危機感をあおるのだ。
けれども、そんな世界観があるために、街中を流すだけでも走っている感は高く、十分に満足できるし楽しい。繊細さを感じさせるナルディのウッドステアリングを丁寧に切り込み、グラグラするサスペンションをできるだけ揺らさずに走るのは、これはこれで面白い。3速ATでパワーも126PSと大したことはないが、ゆっくり優雅に楽しむなら十分すぎるくらい。118万円(取材時)というフレンドリーな価格も魅力の一台だった。すっ飛ばさなければ心地良さを感じにくい現代のクルマとは真逆な仕上がりは、ちょっと手を出してみたくなる存在だった。
(後編に続く)
【Specification】アルファ・ロメオ・スパイダー・ヴェローチェ
■全長×全幅×全高:4260×1630×1290mm
■ホイールベース:2250mm
■トレッド(F/R):1340/1290mm
■車両重量:1180kg
■エンジン:直列4気筒DOHC
■総排気量:1962cc
■最高出力:126PS/5400rpm
■最大トルク:18.1kg-m/4200rpm
■サスペンション(F/R):ダブルウイッシュボーン/トレーリングアーム
■ブレーキ(F&R):ディスク
■タイヤ(F&R):195/60R15