ポルシェの市販車の歴史で初めて、V8エンジン搭載車として計画された928。一方、ロータス・エスプリの長いモデルライフの最後を飾るように登場したエスプリV8。これらでしか味わえない世界観を、感じてほしい。前編に続き今回は2000年式ロータス・エスプリV8をピックアップ。
前編『ポルシェ928 S4』はコチラから
V8を得たことでロータスらしさを深めた
真っ赤なロータス・エスプリV8は、ポルシェ928 S4より9歳も若く、そのミレニアムな雰囲気がスタイリングに良く現れている。928もエスプリも、1970年代に誕生したスポーツカーだが、徐々に進化していく中で最も大きく変わったのはラジアルタイヤの性能とエアロダイナミクスだった。実際に、1980年代の中頃にロータスがエスプリのスタイリング変更を画策した最大の理由は、ターボによる大パワーに対抗するためのダウンフォースの増加だったのである。
1970年代後半と言えばオイルショックから立ち上がっていく最中であり、またライトウェイトというロータス・ブランドのポリシーから考えても4気筒は正しい選択肢と言えた。だが1990年代ではどうだったのか? 特にロータス伝統のバックボーンフレームと、急激にパワーが立ち上がる4気筒ターボの相性は神経質で、乗りこなす人の腕を選んだのである。
【写真12枚】最後のエスプリに相応しい熟成極まったドライブ感、エスプリV8の詳細を写真で見る
だが今回試乗する個体は、エスプリの最終期に華を添えたV8である。3.5LのV8はターボ過給され350PSを発揮している。軽くリッター100PSを越える現代のターボ・エンジンに比べればいくぶん控えめに感じられるが、実際はどうか?
寝そべるように低いコクピットだが視界は良好で、タイヤの位置も把握しやすい。鉄の塊のような928 S4と比べれば、エスプリV8は羽根が生えたように軽く、加速も鋭い。
スロットルの踏みはじめこそターボ特有の掃除機に吸い取られるような加速感を見せるが、その先は4気筒ターボのエスプリや、フェラーリF40のようにドッカーンとパワーが炸裂する性格ではなく、回転に比例してパワーが増していく。だからこそスロットルの動きにどこまでも忠実で、ロータスらしいドライバビリティが確保されているのである。
エスプリV8は、ついに念願のV8エンジンを搭載したことで「名実ともにスーパーカーになった」などと表現されることもあるが、実際は「ロータスとしての完成度が高まった」と言った方が正しいクルマなのである。ポルシェ928 S4はファーストコンセプト通りのGTだし、エスプリV8もまた、初志に忠実なライトウェイトスポーツカーだったというわけだ。
近年は古めのスポーツカーの価格高騰が問題となっているが、幸いなことに、928やエスプリは適正な価格が保たれたモデルといえる。
ここまで手間暇かけて作り込まれ、しかも熟成されたモデルは現代のスポーツカーには存在しない。本当のクルマ好きならば、少し古めのモデルの本質に惚れ込むべきだ。
【SPECIFICATION】ロータス・エスプリV8(2000)
全長×全幅×全高:4369×1883×1150mm
ホイールベース:2420mm
トレッド (F&R):1520mm
車両重量:1380kg
エンジン:水冷V型8気筒DOHCターボ
総排気量:3506cc
最高出力:350PS/6500rpm
最大トルク:40.8kg-m/4250rpm
サスペンション(F/R):ダブルウイッシュボーン/セミトレーリングアーム
ブレーキ (F&R):Vディスク
タイヤ(F/R):235-40ZR17/285-35ZR18
新車時価格:1180万円