新発売のムック「トヨタ・スポーツ」は、トヨタのスポーツカーやモータースポーツの魅力を1冊に凝縮した完全保存版だ。ここでは、そのコンテンツから「頭文字D」ハチロクの聖地で「GR86」のマニュアルを試乗したレポートをチラ見してみよう。
【写真10枚】AEハチロク「頭文字D」仕様も藤原とうふ店に!?
この奥にうっすらと写っているのは、漫画やテレビアニメで人気を博した『頭文字D』でスタート地点の目印となる榛名山の給水塔。劇中でAE86型スプリンター・トレノがここを起点に活躍したことから、榛名山近辺はハチロクの聖地となった。新車のGR86で同地を目指した。
コックピットへ滑り込んだ瞬間、思わず、低い! と叫びそうになった。そこは着座位置が低いだけでなく適度にタイトな空間で、しかしながらあまりにベタなRZグレードの真っ赤なカーペットに少し慄きながら、心の準備もないまま、いきなりスポーツカーの世界へいきなり放り込まれたような感覚を覚えた。もちろん乗りたいと思ったのは自分。このムックを担当するにあたり、現代に”ハチロク”の名を引っさげて登場した2代目がどんなクルマか確かめておきたかったからだ。
ブレーキとクラッチを踏み、ステアリング左奥にある”GR”のロゴが入ったスタートボタンを押すと、まるで左右に空気が広がっていくかのような独特のフィーリングを持つ、水平対向エンジンのサウンドが聞こえてきた。スバルが主体で開発されたBRZの兄弟車であることを思い出させる瞬間だ。そう思うと、どこか無骨に見える室内のデザインもスバルっぽく見えてくるから不思議。念のため書いておくが、2004年に日本でWRCが初開催となったラリー・ジャパンでペター・ソルベルグの優勝を目の前で見て以来のスバル贔屓であるから、もちろんこれは褒め言葉だ。
エンジンの話をそのまますると、2代目となる86/BRZが搭載するのは2.4Lの水平対向4気筒(初代は2L)。BRZが北米仕様を先に発表し、日本仕様発表時に同時に86を発表という流れからも、その目先が北米市場にあるのはわかるが、お陰でダウンサイジングターボやハイブリッドを含む電気系全盛の中では珍しい、大排気量NAを堪能できるのはこのクルマの白眉だろう。
ただちょっと気になったのは、逆に余裕がありすぎて大らかに感じるエンジンと、割と本気度の高いトランスミッション&シフトのフィールの性格が、必ずしも一致していないことだ。今回はスポーツカーだからという理由でM/Tの車両を借りたが、A/Tのほうが合っているかもしれない……とも思った。確かに吹け上がりはよく、2速の加速をちょっと試したらあっという間にリミッターに当たってしまうほどだったが、このシフトフィールなら、それこそダウンサイジングターボのようなもっとレスポンスのいいエンジンを想像してしまった。だから実のところ今回の試乗ルートでは、GT的な走り方をした高速道路が一番気持ちよく走れたのである。
前輪が駆動していない”クルマ特有の鼻先の軽い、回答性のよさ。
とは書きつつ、峠道は紅葉の時期と重なりゆっくりとしか走れなかったせいもあるのだが、それでも”前輪が駆動していない”クルマ特有の鼻先の軽い、回答性のよさは堪能できた。サイズも全長4265×全幅1775×全高1280mm、車両重量1270kgと2.4Lのクルマにしては小さく、軽く、フットワークはいい。クルマを借りる際に並んでいたスープラもまた意外と小さく見えて(全長4380×全幅1865×全高1295mm)、こちらは兄弟車となるBMW Z4との兼ね合いもあるが、いずれにせよ、これくらいのサイズでスポーツカーを仕立ててくれているのは、日本の道を走る身としてはありがたいことだ。
個人的に、マツダ・ロードスターなどコンパクトなサイズからフェラーリやランボルギーニなどハイエンドまで、様々な試乗レポートを担当してきた経験から、スポーツカーの特性は”クルマ側が制御することで運転がうまく感じる系”と、”制御は最低限でうまく運転しないと速く走れない系”のふたつに大別されると思っていて、このハチロクは後者に属すると感じた。M/Tを選んだせいもあるとは思うが、正直、リズムよく乗れるようになるまで、ちょっと時間がかかったのだ(いや、オマエの運転がヘタなだけだと言われればそれまでだが……)。
さて今回の目的地は、ハチロクの”聖地”とも言える榛名山を目指した。もちろん人気漫画『頭文字D』の劇中で”赤名山”として描かれている峠があり、その麓にある『伊香保おもちゃと人形自動車博物館』には、主人公の実家『藤原とうふ店』のロケ地となった『藤野屋豆腐店』が、区画整理で取り壊しになった後に移築されていて、そこに京都の専門店カーランドが仕上げた、AE86型スプリンター・トレノも展示されているからである。
聖地であることは、平日であるにもかかわらず、少なくとも10台の初代、2代目86を見かけたことからも明らかだった。メインカットの背景にある頭文字Dでスタート地点の目印になった給水塔では、自分の86を置いて記念写真を撮る熱心なファンがいたほど。さらに、千葉県のほうで国産スポーツカーをレンタルして4台で連なり訪れる、中国人観光客と思しき方々の姿もあった。
現場で話していたら、実は、撮影を担当した神村カメラマンの初めて買ったクルマがまさにAE86型トレノであることを知った。当時フェアレディZ、RX-7、スープラあたりは高嶺の花だったが、若者でも手の届くスポーツカーとしてAE86が新車の当時に中古車で購入したそう。その頃は価格の安いAE86がゴロゴロしていて(もっと安いAE85もあった)、サーキットやドリフト走行を楽しむ人も少なくなかったと語る。後継車AE92でFRレイアウトが失われたことで1回、その後、頭文字Dに登場したことでもう1回、それぞれブレイクしたとも元オーナーとして振り返ってくれた。
そこで思ったのは、現在の神格化されたAE86の文化が後から作られたように、現代の86がどう育っていくかは、現オーナーたち次第ではないか、ということだ。クルマとしての素養がいいのはよくわかったし、何と言ってもFRのスポーツカーが300万円程度で買えるというのは、今や奇跡ですらある。そう、かつてのAE86がそうであったように現代の86も、お財布の軽いスポーツカーファンの味方なのだ。
個人的には落ち着いたボディカラーを選び、内装色のアクセントは赤ではなくガンメタにして、トランスミッションはA/Tで、さりげなく乗る大人のGTスポーツカーとして使うのもありなのではないかと赤名山……ではなく、榛名山からの下り道をゆっくりと流しながら考えたのであった。
写真&取材協力:トヨタ自動車
撮影協力:伊香保おもちゃと人形自動車博物館
スクランブル・アーカイブ トヨタ・スポーツ
【CONTENTS/掲載全内容】
●Prologue
巻頭言:トヨタとはスポーツカーの名プロデューサーである
年表:スポーツブランド”GR”に至るまでの系譜
表紙のクルマ:セリカGT-FOUR1995年サファリ・ラリー・バージョン
●New Cars
GRカローラ:”モリゾウ”の名を冠した究極のカローラが登場
GR86:ハチロクの聖地で考える”86とは”
GRスープラ:近くに見えて遠い境地
GRヤリス:3車3様に見るヤリスの多様性
コペンGRスポーツ:似た境遇を持つ”国産”オープンスポーツ
カタログ:新車で買えるGRのスポーツカーたち
●Heritage Cars
コラム:トヨタ・ツインカムの時代
2000GT:日本の誇りを世界に示す時
オーナーヒストリー:目黒通りの2000GT
スポーツ800:軽さがもたらすスポーツ性とは
1600GT:トヨタ・ツインカム第二章
セリカLB:ファストバッククーペの逆襲
スプリンター・トレノ:トヨタ・ツインカム帝国拡大へ
セリカXX:儀式や注釈なしに楽しめる国産スポーツ
イラスト:ヤングタイマーなトヨタのスポーツモデルたち
コラム:ソアラがなければLFAもなかった
●Motor Sports
WEC:世界耐久選手権を次世代へ繋いだ孤高の挑戦者
WRC:母国開催ラリーのポディウムを目指して
ヒストリー:モータースポーツの系譜
●Life with Toyota Sports
フォトグラファー神村さんのMR2人生
9台を所有してきた渡辺さんのヨタハチ人生
KP61スターレットでパリダカに挑んだ日本人たちの記録
モデルカーで辿るトヨタGTマシンの変遷
あなたのトヨタ・スポーツ愛、語ってください!
●And More
編集後記/スタッフリスト/読者プレゼント
自動車画家Bowさんの表紙画の世界
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タイトル:スクランブル・アーカイブ トヨタ・スポーツ
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