これまでの経験すべてをベースに、自分のための家を設計。思いきった割りきりで、好きなアンティークの世界を満喫できる家ができた。
埼玉県のとある駅から徒歩10分に新築されたガレージハウスは、「4D/GROUNDWORK」で設計を担当するTさんの自邸だ。敷地面積20.4坪に建築された、木造在来工法2階建てのガレージハウス。決して大きな建物ではなく、限られた予算や条件の中、割りきって建てたといっていい。Tさんは大学の建築学科卒業後、大手住宅メーカーの設計として3年勤務したのち、建築事務所の設計を担当してきた。
そして現在は「4D/GROUNDWORK」の設計士として、建築デザインを担当する。今まで担当してきた戸建ては300軒以上。これまで培ってきた設計の経験を活かして、自分のためのガレージハウスを自分で設計、施工は株式会社「イシイ」が担当し、2021年11月に竣工した。これまでの設計のノウハウが、コンパクトに体現されたガレージハウスだ。
ガレージハウスを建てるきっかけになったのは、ヴィンテージカー「BMW2002」。これまでいろいろなクルマを探していたものの、なかなかコンディションのいいものに巡り合わなかったが、ついに8年越しでオリジナルペイントの個体を購入。するとクルマを保管する場所が必要となり、ガレージハウスを建てることにしたのだ。
生活スタイルを大きく変えることのないよう、現在の移住エリアで土地を検索していたところ、たまたま売りに出ていた土地約20坪強に巡り合った。1人で住むにはちょうどいいと考え、すぐに購入。自分のための家づくりがスタートした。テーマは「1人で住む、クルマと趣味が楽しめる家」だ。
【写真16枚】限られた条件の中で最大限自分に心地良い家をつくった。
Tさんは1973年式BMW2002のほかにも、ヴィンテージ家具、ヴィンテージウォッチなど古いものが大好き。20世紀を代表するデザイナーの名作家具を購入する予算を考慮し、自宅はシンプルに割りきって設計したのだという。少しずつ家具や雑貨を買い足していくのが楽しみなのだそう。
そして設計するにあたって、まずは狭さを感じさせない工夫をすることが最大のポイントだった。そこで採用したのが「スキップフロア」。スキップフロアとは段差を利用することで縦方向の広がりを持たせる建築手法のひとつで、空間を有効活用できる。壁面も極力使わないので死角もなく、広く感じられる手法だ。
1人暮らしと決めていたためプライバシーは最低限の確保でOK。リビングはわずか4畳しかないが、床面を30cm落として段差をつけてゾーニングし、高さを確保している。また、寝室にはロフトを利用。アイアンの階段でアクセスするロフトを、”部屋”として利用している。仕切るのはカーテン。余計な壁面などがないため、リビングに入る太陽光を存分に感じることができる設計となっている。
ガレージはクルマ1台の収納スペースが確保されているが、ガラスで仕切られた玄関と併設させることで使いやすい設計となっている。玄関スペースを広くとったのはロードバイクの収納や、靴を磨くためのスペースを確保するなど趣味を考慮してのこと。よってシンプルなガレージながら、Tさんの条件をすべて満たしている。そして建築はファサードデザインへのこだわりにより、窓は集中して配置している。その結果、コストを落としておきながら、家具を購入する予算も上手く捻出することができたという。
施主のTさんいわく「家は最低限とし、ヴィンテージな趣味にコストをかけた家」という表現。たしかに家具は名作ばかり。ダイニングテーブルはハンスJ・ウェグナー製1950年代のものだし、椅子はイームズ、TVボードはアルネ・ボーダー製、ベッドもハンス・ウェグナーというこだわりよう。リビングに敷かれたカーペットも1970年くらいのもの。家具だけでクルマを購入できそうな値段だ。
コストをかけるところとコストをかけないところを、取捨選択して自ら設計したガレージハウス。これまでの経験と、自分の将来のために思い描いていた理想が、設計図に落とされた結果だ。延床面積の数字だけ見るとたった68平米の住まいだが、実際に暮らしてみると十分なスペースが確保されたという。そして好きなものに囲まれた空間は、Tさんにとっては長年夢見ていた理想のライフスタイルとなった。まさに究極のガレージハウスが完成した。
◆Planning Data
所在地:埼玉県
施 主:Tさん
家 族:1人
敷地面積:67.33平米(約20.3坪)
延床面積:68.81平米(約20.85坪)
構 造:木造在来工法
外 装:サイディング
内 装:クロス
愛 車:1973年式 BMW2002
◆Owner’s Check
・ここがお気に入り
好きなものに囲まれたリビングは、こもっているように見せているが非常に心地いい空間に仕上がっている。
・ちょっと失敗
道路に面した窓をもう少し小さくても問題なかったかなと。
・これからの夢
多くの人に好きな家を建ててもらいたいので、設計という立場で協力していきたいですね。
◆Comment from a Builder:代表取締役 塚本光輝さん
自社の設計士が、”最高”と考えた素材でクルマ、家具、時計のための家を建てることができたこともあり、一緒に仕事をしてきてよかったと感慨深い作品となりました。狭小と呼ばれる土地を最大限使って、縦に伸ばすことで空間が広く感じられる設計は、参考になると思います。それにしても、ここまで家具にコストをかけるのはなかなかのマニアだな、と改めて感心しました。おもしろい設計士がいる会社でよかったです(笑)。
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