アルファロメオ×ザガートの意欲作、グラマラスなスタイリングで最高傑作のひとつと名高い『アルファロメオ1600ジュニアザガート』

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ティーポG1からスタートしたアルファロメオとザガートの蜜月。コンペティツイーネや最上級モデルを少数手掛け、高嶺の花だったこのダブルネームが、手の届くストラダーレとして、1969年に発表したのがジュニアZであった。

アルファロメオ×ザガートの意欲作

ザガート製ボディを架装したアルファロメオは、常にアルフィスタにとって憧れの存在。その理由は、至って明快なものだろう。アルファロメオとカロッツェリア・ザガート。ともにイタリア・ミラノを本拠とするふたつの名門ブランドが手を組んだ時には、必ず魅力的なスポーツカーが生まれてきたからである。

2021年、スポーツカー『ティーポG1』に軽量なスパイダーボディを架装したことから始まったザガートとアルファロメオとのコラボレーションは、1929年の『6C1750スーペルスポルト』、1931年の『8C2300グランスポルト』という、自動車史に残るスーパースポーツの傑作を生みだした。第一次世界大戦中に当代最新の航空機テクノロジーを修得した開祖、ウーゴ・ザガートのボディ製作技術は、当時からモータースポーツ指向の高かったアルファロメオには、まさしく好適なものだったのだ。

第二次大戦後のアルファロメオは『1900SS』を最後に、シャシー供給を取りやめてしまったこともあって、ザガートとのコラボは一時的に途絶えてしまう。しかし、ザガートはその間にも空力的なアルミボディの製作技術を醸成。’56年からジュリエッタSVをベースとするSVZを、ごく少数のみ自主製作している。そして、レースの現場におけるSVZの活躍が認められたことで、アルファロメオの正式カタログモデルとなったのが『ジュリエッタ・スプリント・ザガート』。これこそ名作『SZ』の開祖である。

1960年に実戦デビューしたジュリエッタSZは、当時のスポーツカーレースのGTカテゴリーで大活躍。しかも翌年には、入社間もないエルコーレ・スパーダが、彼の代名詞たるコーダ・トロンカスタイルのボディを与えた『SZ2』も登場。さらなる勝利を重ねることになるが、この時代のザガート製アルファの代表作といえば、やはり1963年の『ジュリアTZ』を挙げねばなるまい。TZ=トゥボラーレ・ザガートの名のとおり、ザガートも開発に加わった鋼管スペースフレームに、スパーダお得意のコーダトロンカ・ボディを組み合わせ、ジュリア系1.6リッターDOHCを搭載したジュリアTZ/TZ2は、当時のGTレースで目覚しい活躍を見せた。

このように、戦後にアルファロメオ+ザガートが製作したベルリネッタたちは、そのほとんどがモータースポーツを目的とした純コンペティツォーネだったが、一方でザガートは市販ストラダーレのため、アヴァンギャルドなデザイン研究も進めていた。その成果として1965年に誕生したのが2600SZ。当時のアルファロメオ最上級モデルだった2600シリーズの6気筒DOHCユニットを搭載する高級GTである。

わずか105台のみが製作された2600SZだが、そのボディワークはザガートが創業以来の伝統としてきたアルミ合金ではなく、将来の量産も見据えたスチールを実験的に導入していた。そして2600SZで試行されたデザイン理論や生産方式は、ここで取り上げた『ジュニアZ』として結実するのだ。

魅惑のピッコロ・グランツーリズモ

69年のトリノ・ショーでデビューしたジュニアZは、ザガートが空力的かつモダンなボディを与えた2シーターのグランツーリズモ。それまでのザガート製アルファロメオのような純コンペティツォーネではなく、あくまでストラダーレとして開発されたモデルである。

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ジュニアZは、これもアルファロメオの歴史的名作として知られる『ジュリア・スプリントGT』の下位グレードとして1968年にデビューした4シータークーペ『GT1300ジュニア』の係累とされたが、そのフロアパンは同時代のスパイダーと共通、ホイールベース2250mmのものを流用。89psを発生する1290ccユニットを搭載し、175km/hの最高速度を達成した。

とはいえ、ジュニアZの真骨頂として当時のエンスージァストを魅了したのは、そのモダンかつ魅力的なクーペボディ。コンパクトなボディサイズの割には広大なグラスエリアに、ヘッドライトを覆う透明なプレクシグラス製カバーで構成したフロントマスク。そしてテールを潔く断ち切ったコーダ・トロンカなどが織りなす、クリーンながらグラマラスなスタイリングは、名匠エルコーレ・スパーダの最高傑作とする識者も多く、また後世のスポーツカーデザインにも多大な影響を与えることになる。

加えて、トランクリッドはこの時代にはまだ少数派だったハッチバックとして実用性の向上を図った上に、このハッチゲートにはキャビンの換気のため、電動モーターで浮かせることもできる斬新なアイデアも盛り込まれていた。一方インテリアも、ダッシュパネルやセンターコンソール、シートなども専用デザインとされ、ジュニアZの魅力をさらに高めていたのだ。

1300ジュニアZは1108台が生産されたのち、1972年にはベースとなるGT1300ジュニアがGT1600ジュニアへと進化したのに伴って、同じくエンジンを1570cc・109psまで拡大するとともに、テールを100mm延長した『1600ジュニアZ』へと進化を遂げる。この1600cc版は最高速度にして190km/hをマーク。小さいながらも立派なイタリアン・グランツーリズモとして注目を集めたが、時悪しくもオイルショックや排ガス対策など、スポーツカーにとって冬の時代を迎えていたことから、1600ジュニアZは1975年までに402台が生産されるに終わってしまった、ある意味悲劇の名作でもあるのだ。

【SPECIFICATIONS】1973年式 アルファロメオ1600 ジュニアZ
●全長×全幅×全高:4000×1550×1280mm
●トレッド(F/R):1324/1274mm
●ホイールベース:2250mm
●車両重量:950kg
●エンジン形式:水冷直列4気筒DOHC
●総排気量:1570cc
●燃料供給:ウェーバー40DCOE×2
●ボア×ストローク:78.0×82.0mm
●圧縮比:9.0:1
●最高出力:109HP/6000r.p.m.
●最大トルク:15.9kg-m/2800r.p.m.
●変速機:5速M/T
●懸架装置(F/R):ダブルウィッシュボーンセミ/トレーリングアーム
●制動装置(F&R):ディスク
●タイヤ(F&R):165HR14

PHOTO:神村 聖 カー・マガジン481号より転載

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