【翼を持ったサルーンが輝いた時代】テールフィンはアメ車だけじゃない! 特徴的なテールフィンを持つ2台のイタフラ車をピックアップ!

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1950年代終盤から60年代初頭に、アメリカ車で爆発的に流行したテールフィン。ヨーロッパにも流行は波及し、とりわけサルーンで採用されることが多かった。この時代に登場した一見よく似た2台を、詳しく見てみよう。

デザインは似ていても中身は全然違う!?

1950年代後半から60年代前半にかけてのカーデザインの流行と言えば、テールフィンを思い出す人が多いだろう。

もちろんこのテールフィンはアメリカが火付け役だけれど、ヨーロッパにも影響を受けたクルマは多い。メルセデス・ベンツやBMCなど、多くのブランドが同様のスタイルを取り入れ、独自の価値観を貫く傾向が強いイタフラ勢も洗礼を浴びていた。

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写真の2台を見れば説明するまでもないだろう。アルファ・ロメオ2000ベルリーナとプジョー404ベルリーヌ。どちらもファミリーセダンで、スタイリングはもちろん、色もライトグレーとシルバーで近い。そのためアルファに置いてあった自分のバッグを取り出そうとプジョーのドアを開けに行ってしまったほどだ。

興味深いのは、どちらもクーペやオープンカーのバリエーションを持っていたのに、それらはここまで明確なテールフィンを生やさなかったこと。パーソナルカーは自己主張が大事なのに対し、セダンは不特定多数のユーザーに振り向いてもらうべく、トレンドに乗ったのかもしれない。

でも結果から言えば、似ていたのはエクステリアぐらい。似たようなサイズとスタイルのセダンがここまで違うのか! と感心するほどだった。

1960 ALFA ROMEO 2000 BERLINA

ところでアルファの2000というとまず思い出すのは、旧型ジュリアをベースにホイールベースを伸ばし、軽合金製ツインカムの排気量を拡大したモデルではないだろうか。でもこのとおり、その前にもアルファの2000はあった。1950年に初の量産車として登場した1900の進化版で、57年にデビューしていた。

よって直列4気筒DOHCはスティールブロック。2リッター版は1900の途中から、スーパーのグレードとともに用意されており、ディスコボランテの愛称で有名なスポーツカー1900C52の心臓も、ボアの数値が微妙に違うけれど2リッターだった。トランスミッションはこの時代では珍しく全車5速MT。さすがアルファだ。

ベルリーナのほかクーペのスプリントとオープンのスパイダーがあったボディバリエーションは、初代ジュリエッタやジュリアと同じ。この時代のアルファのしきたりだったのだろう。

ただし1900の時代はさまざまなカロッツェリアが手掛けていたスプリントとスパイダーは、前者はベルトーネ、後者はツーリングが基本になった。その後のジュリアクーペがこのスプリントに似たスタイリングで登場したことを知っている人もいるだろう。

生産台数は約7000台と、高級車だったこともあり少なめ。ボディ別でもっとも多かったのはスパイダーで、セダンはイマイチだった。そこでアルファは1961年、2.6リッター直列6気筒エンジンを新開発して、フロントマスクをモダナイズしたボディに載せた。これが2600だ。

1966 PEUGEOT 404 BERLINE

404がデビューしたのはアルファ2000から3年遅れの1960年。こちらは4年前に登場していた403の発展型だが、403はその後1966年まで廉価版として生産が続いていたから、車格で言えば上となる。

プジョーがピニンファリーナとの関係を公式に発表したのはこの404から。ボディはベルリーヌのほか、ファミリアール・ブレーク・コマーシャルからなるワゴン/バン、製造もピニンファリーナが行ったカブリオレとクーペ、主として新興国向けのピックアップがあった。

直列4気筒OHVのエンジンは主力が403の1.5リッターから1.6リッターになったうえに、スマートなボディに合わせてブロックがスラントしていた。試乗車もそうだったがインジェクション仕様もあった。403から採用していたディーゼルエンジンもある。4速MTが基本だが、ガソリン車には3速ATも設定された。

生産台数は約288万台で、かなりの成功作と言えるが、これには注釈が必要だ。1968年には後継車の504が登場したのに、その後7年間フランスで作り続けられ、ケニアでは1991年まで生産されていたのだから。ちなみにボディ別でもっとも多かったのはセダンで、次がピックアップだったというのも興味深い。

このように生きた時代はほぼ同じ。スタイリングも似ている。でもディテールを観察していくと、けっこう違う。全体的にアルファのほうが凝っているのだ。盾の周囲とか、サイドモールの付け方や太さとか、ジェット噴射を思わせるバンパーの穴とか。でも最後は演出ではなく、左の穴はちゃんと排気の出口になっていた。

それに比べるとプジョーは端正。でもプロポーションはバランスが取れているし、無駄な線や面がないからこそ、リアウインドーからテールフィンにかけての流れなど、魅せるところがしっかり伝わってくる。さすがピニンファリーナだ。

ボディサイズはアルファのほうがひとまわり大きく、全長は300mm近くも違うのに、ホイールベースの差は70mmにすぎないところも、お国柄を感じる。フランス車のホイールベースが長めというのは、この時代の後輪駆動セダンにも当てはまるのだ。

インテリアもディテールから受けた印象と同じで、インパネの小さなレバーまで素材と造型にこだわったアルファは華麗、プジョーはタクシー運転手の仕事場を連想してしまうほど実直。後席は全長を反映してアルファのほうが少し広いけれど、プジョーも身長170cmの僕が楽に座れる。

両車に共通することでは明るさがある。フロアもシートも高めなのに対してウエストラインは低く、ピラーは総じて細いから、セダンらしからぬ開放感が得られる。安全基準がさほど厳しくなかったヒストリックカーならではの良さのひとつだろう。

車両重量は小柄なプジョーのほうが軽いけれど、加速は排気量で400cc上回るツインカムでギアが5段となるアルファのほうが力強い。さすがアルファのツインカムで、回すほど元気がみなぎってくる性格でありながら、インジェクション装備のプジョーに劣らぬ扱いやすさも備える。逆にプジョーは静かさと滑らかさに感心したけれど、アルファのちょっと荒っぽさを残した回りかたと音は、彼らなりの演出なのかもしれない。

テールフィンとともにアメリカ車の影響を受けたディテールにコラムシフトがある。でも2台のタッチは大違い。繊細なタッチでスッスッと入るプジョーに対して、アルファはかなり手応えがある。こんなところでもブランドをアピールしてくるのだ。

乗り心地はプジョーのしっとりした足の動きと優しいシートに感心したけれど、アルファが荒っぽいわけじゃない。路面の感触は伝えつつ衝撃はいなすという、イタリアの上級セダンにふさわしいマナーだったからだ。

ステアリングはずっしり重く、身のこなしは車格を反映しておっとりしているけれど、立ち上がりでアクセルを踏むと旋回を強めながら力強く脱出していくというハンドリングもまた、やっぱりアルファ。

いち早くラック・アンド・ピニオン式ステアリングを採用したプジョーのほうが反応は正確で、後輪駆動らしいマナーも堪能できるのだが、運転している実感という点ではミラノのベルリーナに軍配を上げてしまう。

テールフィンとコラムシフトを備え、アルファに至ってはベンチシート。でも走り出せば良き時代のアルファとプジョーそのものだった。はやりのジーンズに身を包んでも、ハートはまぎれもないイタリアンでありフレンチ。この時代のヒストリックセダンならではの世界がむしろ新鮮だった。

【SPECIFICATION】1960 ALFA ROMEO 2000 BERLINA
■全長×全幅×全高:4715×1700×1505mm
■ホイールベース:2720mm
■車両重量:1340kg
■エンジン:水冷直列4気筒DOHC
■総排気量:1975cc
■最高出力:105ps/5300r.p.m.
■最大トルク:15 .0kg-m/3600r.p.m.
■サスペンション(F/R):ダブルウイッシュボーン/トレーリングリンク
■ブレーキ(F/R):ディスク/ドラム
■タイヤ(F&R):165×400

【SPECIFICATION】1966 PEUGEOT 404 BERLINE
■全長×全幅×全高:4420×1620×1450mm
■ホイールベース:2650mm
■車両重量:990kg
■エンジン:水冷直列4気筒OHV
■総排気量:1618cc
■最高出力:76ps/5600r.p.m.
■最大トルク:13.6 kg-m/2500r.p.m.
■サスペンション(F/R):ストラット/トルクチューブ+ラジアスアーム
■ブレーキ(F/R):ディスク/ドラム
■タイヤ(F&R):165×380

PHOTO:奥村純一 ティーポ348号より転載

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