コイツはギリギリ公道走行可能なレーシング・ロードカーだ!「アストンマーティン ヴァンテージF1エディション」【野口 優のスーパースポーツ一刀両断!】

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運動性能に特化した”究極のヴァンテージ”といえる1台

DBシリーズに代表されるようにグランドツーリングカーを主軸にラインナップを展開してきたアストンマーティン。2+2のクーペ及びオープンボディに強力なエンジンを組み合わせ、ロングドライブをもこなしながらスーパーカーにも引けを取らない運動性能で魅了してきたが、その弟分的存在の「ヴァンテージ」はDBシリーズとはまったく異なる狙いをもって開発されている。

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それが顕になったのは2005年に復活した3代目のデビュー時。当初から“打倒911!”を掲げ、開発テストもニュルブルクリンクを積極的に使用するなど、その本気度はそれまでのアストンマーティンとは桁違い。ニュル24時間レースにも参戦するなど、その勢いは相当だった。

そんな生い立ちをもつヴァンテージも今は4代目へと進化。2018年の登場時、ポルトガルのアルガルヴェ・サーキットに招かれ、はじめて試乗した際にその運動性能に度肝を抜かれたことを覚えている。アップダウンが激しく、見通しの悪いコーナーが連続するアルガルヴェ・サーキットで、面白いほどニュートラルに曲がり、その気になればテールスライドも容易くできるとあって、筆者の心を鷲掴みして楽しませてくれた。

F1復帰にあたってオフィシャルセーフティカーにも導入されたヴァンテージ。ベース以上にパフォーマンスが高く、しかもあらゆる場面で扱いやすいことも考慮されているという。

と、おさらい&思い出から入ってしまったのは、今回取り上げるヴァンテージF1エディションは、その集大成というか、究極のヴァンテージとも思えるほど別物だったからだ。こう記してしまうと、アストンマーティンを熟知している人から「V12ヴァンテージがあるだろう!」と怒鳴られそうだが、ここで言う“究極”は完全に運動性能に特化したモデルを示し、即ちサーキットに主軸をおいて開発されているためだ。

もちろん、これは3代目のV12ヴァンテージでの経験を元にしているが、おそらく間もなくデリバリーされる予定の新型V12ヴァンテージも共通して言えるのは、サーキット走行を楽しむという点においては、間違いなくV8ツインターボエンジンを積む本作のほうが有利ということ。つまり、もし同時に走らせれば、直線で勝負をかけるか、コーナーで稼ぐか、という違いに加え、軽量という意味でもこのV8ヴァンテージF1エディションのメリットは極めて大きいと言える。

そのアプローチも相当だ。何しろこれは、フォミュラー1のオフィシャル・セーフティカーに採用されたそのロードヴァージョン。2020年、アストンマーティン・ラゴンダ社のCEOに任命されたトビアス・ムアースは、元々メルセデスAMGにおいてCEOと最高技術責任者も兼任し、その時代にフォミュラー1に長年に渡ってセーフティカーを毎年投入してきた経験もあることから、セーフティカーの開発においては右に出る者はいないほど熟知している。

よく考えて頂きたい。世界最高峰のモータースポーツであるフォミュラー1を先導するのがセーフティカーの使命だ。単に“速い”だけでは許されない、絶対的なパフォーマンスと高い耐久性を求められるとあって、従来のヴァンテージとは一線を画する。そのコンセプトはシンプルで「パフォーマンスを大幅に強化してラップタイムを短縮する」ことだというから明確だ。

メルセデスAMG譲りの4L V8ツインターボは、最高出力535ps、最大トルク685Nmを発生。低回転域では実用エンジン的な一面も見せるが、そこから高回転へと回すほどに牙を剥いていく特性を披露するなど、ギャップが楽しいエンジンでもある。

フロントに積まれる4L V8ツインターボエンジンは25ps上乗せされ535psを発揮、最大トルクは685Nmと変わりないものの、ピークトルクの持続範囲を拡大しているが、どちらかと言えば数値的なところよりもフィーリング自体がまるで別物。レスポンスはよりシャープになり、変速時におけるシフト時間も改善されたことで、従来型よりもはるかに素早いシフトアップ&ダウンを行えるようになっている。

無論、シャシー面も強化されている。フロントの剛性を向上させ、サスペンション及びステアリングを改善したことによって、コーナリング性能も飛躍的に向上しているが、気をつけたいのは強烈なダイレクト感だ。サーキットをメイン舞台としているだけに、路面からのフィードバックは、レーシングマシンまではいかないものの、それに相当するほど身体に伝わってくる。しかし、どの領域でも接地性に優れ、コーナーが連続するようなシーンで切り返ししやすくライントレース性は抜群だ。

ホイールは、ベースモデルよりも1インチ大きい21インチを装着。タイヤは専用開発となるピレリPゼロが組み合わされる。

当然、トラクション性能にも優れるからコーナー立ち上がりも素早い。ピレリと共同開発された21インチ仕様のPゼロが誇るグリップ力と合わせて、ドライバーは路面との対話を積極的に楽しめる……と言いたいところだが、もはやこの乗り味はとても快適とは言い難いほどのレベル。さらに言うなら、かろうじて公道走行が許されているのか!? と錯覚するくらい、良い意味で刺激的すぎる。

大型のリアウイングはサーキット走行でのダウンフォース獲得はもちろん、高速道路での安定性にも貢献してくれる。

もっとも見た目からしてそうだろう。フロントはスプリッターにダイブプレーン、アンダーボディはターニングベーン、そして巨大なリアウイング&デュフューザーによって従来型比で200kgも多いダウンフォースを発生させることに成功したというから、ラップタイムの短縮は確実。今回はサーキット走行したわけではないから正確なところはお伝えできないものの、少なくとも筆者が日頃走り慣れたワインディングでは、乗り心地はさておき、旋回性能は相当だったことを加えておきたい。

コクピットはトリムにアルカンターラを多用するなどレーシーなイメージ。ドライビングモードの切り替えスイッチは、パワーユニットとサスペンションが独立しており、ステアリング上で操作が可能だ。パドルシフトも含め、走り出したらステアリングから手を離す必要がないのがドライバーフレンドリーといえよう。

ヴァンテージF1エディションは、もはやポルシェで言うところのGT3に匹敵すると言っても過言ではない気がする。60年ぶりのF1復帰を記念して製作されたとはいえ、知られざるセーフティカーのパフォーマンスを垣間見られる1台と言えるだろう。だから余裕があるカスタマーであれば、ナンバーをはずしてサーキット専用車としてお奨めしたくなるモデルとも言いかえられる。確実に公道よりもサーキットだ。鈴鹿あたりで練習を重ねて、ニュートラルステアをバシッと決めたくなってしまう類の仕上がりである。

サポート性も良好なシートは、アクセントとしてストライプとステッチのカラーを4色から選択可能となっている。

そう思うと、もう二度と同じようなモデルがアストンマーティンから出てくるのか分からない。現在、アストンマーティンのCEOは、トビアス・ムアースに代わって元フェラーリのアメデオ・フェリーザである。フェラーリ時代に技術開発を主導してきたとはいえ、時代は確実にEVの方向へと向かっているし、ハイブリッドモデルだとしても、ヴァンテージF1エディションのような過激なスポーツモデルになるとは限らない。しかもアストンマーティンは新たにミッドシップモデルをラインナップに加えているだけに、フェラーリと似たような方向性になる可能性すら考えられる。

果たして、2025年以降の“個性”とはどうなるのだろうか。電動化に加え、首脳陣の入れ替えなどが続くと、ブランドの価値自体も変わってくるはず。その事実を知ってしまうと、このヴァンテージF1エディションの仕上がりは希少かもしれない。ギリギリ公道走行可能な、アストンマーティン製レーシング・ロードカーと言えよう。

【Specification】アストンマーティン・ヴァンテージF1エディション
■全長×全幅×全高=4490×2153×1274mm
■ホイールベース=2704mm
■車両重量=1570kg
■エンジン種類/排気量=V8DOHC32V+ツインターボ/3982㏄
■最高出力=535ps(393kW)/6000rpm
■最大トルク=685Nm(69.8kg-m)/2000-5000rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=255/35ZR21:295/30ZR21
■車両本体価格(税込)=25,400,000円
■問い合わせ先=アストンマーティン ジャパンリミテッド ☎03-5797-7281

アストンマーティン・ヴァンテージ公式サイト

フォト=郡 大二郎/D.Kori

この記事を書いた人

野口優

1967年生まれ。東京都出身。小学生の頃に経験した70年代のスーパーカーブームをきっかけにクルマが好きになり、いつかは自動車雑誌に携わりたいと想い、1993年に輸入車専門誌の編集者としてキャリアをスタート。経験を重ねて1999年には三栄書房に転職、GENROQ編集部に勤務。2008年から同誌の編集長に就任し、2018年にはGENROQ Webを立ち上げた。その後、2020年に独立。フリーランスとしてモータージャーナリスト及びプロデューサーとして活動している。

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野口優
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2022/08/30 12:00

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