クリーンテクノロジー企業のパイオニアであるヴィリテック(Viritech)社は、革新的な水素の燃料電池技術を搭載しながら、ガソリンエンジン車並みの車両重量を実現した、世界初のゼロエミッションのハイパーカー、アプリケール(Apricale)をグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードで初公開した。アプリケールの車重はわずか1,000kgで、ガソリンエンジン搭載したスーパーカーの俊敏性とEVならではのレスポンスを兼ね備えている。EVの場合、航続距離を重視するほどバッテリーが重くなり、求められるパワーが大きいほど車体は重くなが、アプリケールは独自のパワートレインにより、燃料電池車でも内燃機関と同じパワー、同じ重量、同じ航続距離を提供できることを証明したとしている。
水素貯蔵タンクを独自技術でフレーム内に レイアウト
ゼロエミッション車の妥協点をすべて克服するという野心のもと、ヴィリテックのエンジニアは、燃料電池とバッテリーの連携について再考。ヴィリテックのCTOであるマット・フォークスは以下のように述べている「これまで水素燃料電池は、バッテリーを中心としたパワートレインのレンジエクステンダーとして使用されてきました。私たちは、このアプローチを覆し、軽量かつ高効率なバッテリーを搭載した数百kWの燃料電池システムを中心としたパワートレインを開発しました。これにより、高性能をアピールしながらも、一般的なBEVハイパーカーの半分以下の重量を実現しています」「また、この軽量化はアプリケールのドライビング・ダイナミクスを変えるだけでなく、バッテリーへの依存度が低いため、レアアースの消費も抑えることができます」
数百kWとなる燃料電池は、技術パートナーであるAMTE Power社とヴィリテック社が特許出願中のインテリジェントエネルギー管理システムTri-Volt™独自の超高出力リチウムイオンセルと組み合わされているとのこと。燃料電池がアプリケールの主な動力源となる一方で、バッテリーは加速や超高性能運転のための追加電力を提供、さらに回生ブレーキエネルギーの高効率貯蔵装置として機能している。
これにより、燃料電池とバッテリー両方からのエネルギーを連続的に可変させることが可能。また、高速充放電が可能なバッテリーを使用することで、回生ブレーキシステムは従来のBEVに比べ何倍もの運動エネルギーを回収することができるそうだ。
また、これまで燃料電池車の課題であった、水素貯蔵タンクの重量問題も軽量化に成功。水素貯蔵タンクは700バールの圧力に耐えるため、その重量効率5%程度、5kgの水素を貯蔵するのに100kgの貯蔵タンクが必要となるが、ヴィリテックのエンジニアは、特許出願中のGraph-Pro™テクノロジーにより軽量コンポジットとグラフェン対応樹脂システムを使用し、タンクをアプリケールのモノコックフレーム内の一部にすることを可能とした。このソリューションにより、重量を最小限に抑え、パッケージングを改善。航続距離を約560kmとしたのだそうだ。
従来のスーパーカーを凌ぐ感動的な走りを実現
アプリケールの車重はわずか1,000kgのため、BEV特有の重たいハンドリングから解放。サスペンションは、プルロッド・トーションバー・サスペンションを採用。慣性モーメントが小さいため、ステア、ヨー、ピッチ時の重量移動が少なく、クラシックなミッドエンジン・スーパーカーのようなダイナミックなドライビングを実現しているとした。駆動モーターは前後に一つずつ搭載。軽量化と電気モーターの即応性というユニークな組み合わせにより、アプリケールは従来のスーパーカーを凌ぐ感動的な走りを実現するとしている。
未来のテクノロジーとタイムレスデザインの融合
アプリケールはもともとヴィリテック社がリファレンスデザインとして考案し、ピニンファリーナがそれを最適化したもの。ピニンファリーナのCEOであるシルヴィオ・アンゴリは、このデザインを「テクノロジー、サステナビリティ、美しさ、そして何よりもパフォーマンスの総合体」と表現。アプリケールのスタイリング開発と並行して、ヴィリテック社はピニンファリーナと協議し、トリノにあるカンビアーノのアトリエで同車を25台限定で製作することになったとのこと。また、アプリケールは圧倒的なルックスだけではなく、燃料電池と電動ドライブトレインから発せられる独自の未来的なサウンドを持つことになると説明した。
2024年に納車予定
アプリケールはすでに2台の試作車でその技術を検証。実験試作車1号機(XP1)は、パワートレインの最終テストのため10万kmの走行試験を行う予定で、2023年中にあらゆるテストを重ね、2024年初頭に顧客への納入できるスケジュールで開発が進められているとのこと。ヴィリテック社の創業者であるティモシー・ライオンズは、「ヴィリテックは、水素パワートレインソリューションの世界的なリーディングデベロッパーになることに注力しており、重量、スペース、性能を最適化することが求められるアプリケールは、来るべき持続可能な輸送時代に幅広く応用できるコアパワートレイン技術の開発プラットフォームになる」と述べた。
スペック
パワートレイン: 総電力量800kW、6kWhバッテリーパック、400kWモーター2基(フロント・リア)
ファイナルドライブ : 200km/h以上対応のシングルレシオギア
シャシー:カーボンファイバー製モノコック
サスペンション:デュアルウィッシュボーン、プルロッド式トーションバー(フロント/リア)、R53ダンパー
ステアリング:EPAS
ホイール :ダイキャストマグネシウム製、カーボンファイバーリム、マグネシウムセンター
タイヤ:フロント20インチ×10.5インチ、リア20インチ×12.5インチ ミシュランPS4
ブレーキ:390 x 34mm CCMディスク、APレーシング製フロント6ピストン/リア4ピストンキャリパー、Bosch製ABS
重量:1,000kg
水素貯蔵量 700bar、5.4kg
寸法 全長455cm、全幅190cm、全高115cm
ホイールベース:280cm
地上高:95mm〜135mm(アクティブライドハイト)