60年以上前に完成されていたタクシーの理想形
ずんぐりとした黒塗りのボディで、ロンドンの景色の一部をなしてきたタクシーキャブ。現地では「ハックニー・キャリッジ」、日本では「ロンドン・タクシー」と呼ぶのが通りが良いだろう。モデルチェンジを重ねながら、現在でも、1950年代を思わせる形の車両がタクシーとして用いられているが、そのイメージの直接のルーツとなっているのは、1958年に登場したタクシー専用車両、オースチンFX-4であった。辻馬車の流れを汲むロンドンのタクシーは、自動車への移行当初はフィアットやシトロエンなどが使われていたということだが、1920年代に入ると英国内のメーカーが車両製造に乗り出すようになった。特に有力な存在であったのがオースチンで、やがては市場をほぼ独占するようになっていったという。FX-4は、先代にあたるFX-3がモデルチェンジして生まれた車両であるが、ボディスタイルを一気に近代化したのが特徴であった。
FX-3は戦後デビュー(1948年)ながら1930年代そのままの形であったが、FX-4ではヘッドライトもフェンダーも一体化し、トランクをボディが完全に飲み込んだスタイルに進化。また、馬車時代の延長で運転席横は荷物スペースとし、そこにドアは付かないというのがハックニー・キャリッジの特徴であったが、FX-4では運転台の左側にもドアが設けられた。運転席横は従来通り荷物置き場とするものと、助手席シートを装着したものとが選べたようだ。
大柄なボディはもちろん客室を優先したもので、折り畳みの補助シートを装備しており、これを使えば5名の乗客が乗ることができる。運転席と客席はガラスの仕切りで完全に切り分けられていた。ホイールベース2810mm、全長4570mmのボディは最小回転半径3.8mと、非常に小回りが利く。1997年まで、およそ40年に渡って生産されただけに、搭載されたエンジンにはいくつもの種類があるが、登場当初は2.2Lのディーゼル、遅れて2.2Lのガソリンが加えられ、さらにディーゼルは2.5Lに排気量を拡大。日産ディーゼル製のエンジンを採用していた時期もある。
このロンドン・タクシー、あまりプラモデルには恵まれず、わが国のイマイがキット化したのみ。1/24スケールのこのキットは、イマイなき後はアオシマが金型を引き継いでリリースしている他、海外メーカー版も存在している。ここでお見せしているのは、このアオシマ製キットを雰囲気よくディテールアップした作品だ。
年式とディテールのズレを修正、室内もリアルに
使用したのは、アオシマ版でも少し古いバージョンのもの(制作時の新品)。イマイのFX-4には実は考証ミスがある。フロントにウィンカーが付くのは1969年からだが、この時テールランプはADO16と同じものに変更されており、キットの小さなテールは、このマイチェンより前のタイプのものなのだ。そこでテール取り付け部はパテで裏打ちしつつ細長く削り、自作したテールレンズを取り付けた。ベースはPCのカードスロットの蓋(アルミ)、レンズはボールペンのクリップから切り出し、削り出して磨いて組み合わせている。
インテリアはフロアと一体のシート形状が大雑把で、ドア内張りの再現もない。運転席の足元も窮屈すぎるので、これらを手直ししていく。まず運転席シートをフロアから切り取り、幅を詰めて修正。助手席シートはジャンクパーツとプラ板で自作した。足元の改修は、パソコンのドライブベイ前部ベゼルをフロアに接着(断面がコの字型で大きさの合うプラ成型品なら何でも良い)、この状態でインパネ下部を切り取るとご覧の通りに。運転席下のシートレールはジャンクパーツででっち上げた。
後席は座面が長すぎ、逆にフロアが短いので、背もたれを10mm前進させる。フロア、座面、シートバックを切り離し、フロアはプラ板で後へ10mm延長、背もたれは10mm前へ出して再接着。ドア内張りはプラ板から切り出して自作、運転席と助手席の仕切りもプラ板で取り付けた。余裕ができた足元にはペダルを追加、リベット状の部品に細いハンダ線を巻きつけ、黒く塗って自作した。タクシーメーターもジャンクのミッションとデカール等でスクラッチ。
このほか外観では、ボディと一体モールドされているドアハンドルやサイドウィンカーを削り落とし、作り直してディテールアップしている。前述の年式によるディテールの差異は、逆にテールに併せてその他を改修しても面白いだろう。その場合はウィンカーはリアドアの上のルーフに付く。もちろん、気にせずそのまま作っても充分に楽しい。