知る人ぞ知る希少なフレンチスポーツ! 「MVSヴェンチュリ・トランスカップ」国内試乗

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ヴェンチュリと聞くと、日本人の多くはかつて片山右京選手が活躍したF1チームという印象を抱くだろう。しかし、当初はスポーツカーを手掛ける自動車メーカーとして設立された。紆余曲折を経ながらも、スポーツカーを生産し、現在はフォーミュラEに参戦するレーシングチームとして活躍を続けている。

君はヴェンチュリを知っているか!?

写真では大柄に見えるが、実際は現行型マツダ・ロードスターとほぼ同サイズ。90年代のスポーツカーの流れを汲む、エッジの効いたスタイリングだ。

フランスのスポーツカーというと、今はアルピーヌ以外は思い浮かばないような雰囲気だけれど、歴史を辿ればいろいろなコンペティターが存在したことも事実である。

DBからルネ・ボネを経てマトラに至る流れはその代表格と言えるが、そのマトラが僕も所有していたムレーナの生産を終了すると、入れ替わるように生まれたのがMVSだった。MVSとは『マニュファクチュール・ヴォワチュール・スポール』の略で、直訳すればスポーツカー製作所となる。アルピーヌにいたこともあるエンジニアのクロード・ポワローと、プジョーなどで仕事をしたデザイナーのジェラール・ゴッドフロワが、ウリエーズ在籍時代に意気投合。1984年のパリ・サロンにヴェンチュリという名前のスポーツカーを出展したのだ。

その後自前のマシンで1980年のル・マンに勝ったジャン・ロンドーが協力し、翌年MVSを設立。1986年に市販型を発表し、次の年からロワール地方のショレで生産をスタートした。

シャシーは鋼板溶接プラットフォームに4輪ダブルウィッシュボーンという組み合わせ。当初のエンジンはアルピーヌV6ターボと同じPRVの2.5L V6ターボで、アルピーヌとは逆にミッドシップマウントしていた。

『トランスカップ』と呼ばれるコンバーティブルが加わったのは1988年。2年後に登場した2.85Lターボ260psを皮切りにパワートレインも増えていく。クーペには3LのV6ビターボなども設定。日本仕様まで用意していたことに驚かされる。

しかしながら運営は苦しく、1990年に経営陣を刷新するとともにブランド名が『ヴェンチュリ』に変わり、工場も大西洋に近いクエロンに移動した。

すると1992年にはレーシングチームのラルースを買収してF1に進出。市販車にはアトランティークという車名を与えた。次の年にはワンメイクレースも開催。1993年からはル・マンにも挑戦した。

その後も経営陣は何度か変わるが、その過程でワンメイクレース用車両の公道版『400GT』が登場し、通常の車種は丸みを加えたボディにルノーPSA共同開発の3L V6 DOHC24バルブを積んだ『アトランティーク300』に切り替わった。

生産終了は1999年。トータルの生産台数は650台ほどにとどまった。しかしヴェンチュリは消滅しなかった。モナコの大富豪ギルド・パランカ・パストールが2001年に買収し、翌年電動スポーツカーのフェティッシュを発表したのだ。2007年にはシトロエン・ベルランゴをベースとしたEVも送り出し、やはり電動のシティコミューターのプロトタイプや速度記録車も送り出した。さらに2014年からは、あのレオナルド・ディカプリオとタッグを組んでフォーミュラEに参戦すると、間もなく市販車の生産から撤退した。現在はフォーミュラEのチームとして認識する人が多いのではないだろうか。

マイナーだがその志は高かった

今回乗ったのはコンバーティブルで、2.85Lの自然吸気エンジンに4速A/Tを組み合わせた日本向け仕様。20台生産のうちの2号車だという。

フレンチブルーをまとったエクステリア、タンのインテリアはいずれも極上のコンディション。ボロボロの状態からここまで仕上げたという。希少なフレンチスポーツをこのレベルまで蘇らせたことにまず感謝したい。

それとともに、若い頃新車に接した際は無国籍風と感じたデザインが、今見ると簡潔な線と面で機能美をうまく表現していると感じた。当方の見る目が養われたせいもあるけれど、フランスのカーデザインのレベルの高さを改めて思い知らされた。

レザーのタン内装にウッドパネルが組み合わされる室内は、スポーティというよりむしろラグジュアリーな雰囲気。スイッチ類などのパーツは、他ブランドのものを流用していたりする。

1980年代生まれらしい直線基調のインテリアは、ウッドとレザーがふんだんに使われていて、英国やイタリアのスポーツカーに近い雰囲気。そこにPSAのスイッチやレバーが違和感なく溶け込んでいるところもデザイン能力の高さゆえだろう。

ミッドシップレイアウトのため完全なる2シーター。シートはノンオリジナルだ。

ヴェンチュリは小柄だ。長さと幅はマツダ・ロードスターと同等である。ゆえにペダルは内側にオフセットしているけれど、寝すぎていない大きめの窓のおかげで閉鎖感はない。後方に3L級のV6エンジンを縦置きしたミッドシップでこのサイズというパッケージングの優秀さも評価すべきだろう。レーシングドライバー兼コンストラクターのジャン・ロンドーが開発に関わったことが、この機能美を生み出しているのではないかという気もした。

ルーフ構造がまたフランスらしい。屋根を閉じるにはまず電動のリア部分を立ち上げ、2分割のルーフを取り付けたあと、リア部分をさらに動かして挟むようにして固定する。独創的というか合理的というか、日本では生まれてこない手法だろう。

当時はまだ多かったリトラクタブルのヘッドライト。シールドビームが採用されていた。シンプルなデザインのリアビュー。テールランプはE21型BMW3シリーズのものを流用。前後共に16インチだが、タイヤサイズは前後で異なる。乗り心地はマイルド。

車体がアルピーヌV6ターボよりやや重いうえに、乗用車用の自然吸気エンジンと4速のA/Tというパワートレインなので加速はレスポンシブではない。でもパワーは十分。90度バンクのV6独特の鼓動はV6アルピーヌと同じだが、オープンエアなのでより臨場感溢れるサウンドを楽しむことができた。

乗り心地はフレンチスポーツらしいしっとり感が味わえつつ、レーシングマシンのような骨っぽさもしっかりと伝わってくる。モノコックボディのスポーティカーとは違う、鋼板溶接プラットフォームのピュアスポーツであることが伝わってくる。

ミッドに搭載されるPRV製2.85ℓのV6自然吸気エンジンは、260psを発生。A/Tは4速。

それ以上に印象的だったのがハンドリングだ。高さが抑えられている90度V6をミッドシップに縦置きしたという素性の良さがストレートに味わえる。スポーツカーとしてはいち早い採用だったパワーステアリングのタッチの良さ、オープンボディなのにしっかりした剛性感も好感を抱いた。今回は海沿いの道を流しただけだったが、きっとワインディングでも乗り手を感動させてくれることだろう。

ミニマムだがリアにラゲッジルームを備える。ルーフの骨格は分割構成され納まる。

かつてF1やル・マンに参戦し、現在はフォーミュラEに挑戦を続けるこのブランドのレーシングスピリットが息づいていると感じた。ちなみにドライバーはF1で活躍したフェリペ・マッサを擁する。マイナーなブランドであることを理由に過小評価すべきではない。現存台数は少ないだろうが、今回の個体を含め、残ったヴェンチュリたちがその素晴らしさを後世まで伝えていってほしいと願った。

SPECIFICATION【MVS VENTURI TRANSCUP 260】
■全長×全幅×全高:4090×1700×1170mm
■ホイールベース:2400mm
■トレッド(F/R):1461/1471mm
■車両重量:1290kg
■エンジン形式:V型6気筒DOHCターボ
■総排気量:2849cc
■最高出力:260ps/5500rpm
■最大トルク:44.0kg-m/5500rpm
■サスペンション(F&R):ダブルウィッシュボーン
■タイヤ(F/R):205/55ZR16/245/55ZR16

フォト:神村 聖/S.Kamimura Tipoより転載

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