【知られざるクルマ】Vol.29 マイナー英国車列伝(3)ホンダ・バラードがトライアンフに!?「アクレイム」ほか、ホンダとの兄弟車たち

2022/03/22 12:00

誰もが知る有名なメーカーが出していたのに、日本では知名度が低いクルマを紹介する連載、【知られざるクルマ】。前回よりも掲載の間が空いてしまったが、第28回は、これまで2度に渡ってお送りしてきた「マイナー英国車」シリーズの第3弾をご紹介しよう。内容は、ホンダと提携したローバーが生み出した「ホンダとの兄弟車たち」だ。でも、「ホンダ・バラードがトライアンフに!?……」って、一体ナンだ!?

実は結構ある、ホンダとローバーの協業で生まれたクルマたち

1970年代末のBLで売られていたクルマたち。この頃の英国自動車業界は、相次ぐ労働争議や「英国病」に悩まされて品質が低下しており、BLも例外ではなかった。

気がつけばすっかり古い話になってしまったが、40代以上の読者ならば、かつてホンダと英国のローバーが提携関係にあったことを知る人は多いはずだ。協業によりいくつか兄弟車が誕生しているが、タイトルの「トライアンフ・アクレイム」を含め、日本での知名度がほぼ無いクルマもあり、その種類は思いのほか多い。

そこで今回の「1970年代のマイナー英国車列伝」では、1970年代の縛りを外し、ホンダとローバーが初めて手を組んで開発したアクレイムと、そのあとに出現した兄弟車たちを取り上げることにした。

なおこの話の前提として、ローバーの前身だったBLについて第27回の冒頭でコンパクトに記載しているので、ぜひご覧いただきたい。

【知られざるクルマ】Vol.27 1970年代マイナー英国車列伝(1)オースチン・サルーン……マキシ、アレグロ、1800/2200、3リッター
https://carsmeet.jp/2021/10/22/150868-27/

【トライアンフ・アクレイム】まんまホンダ・バラードな、英国現地生産車

そもそも論として、なんでローバーじゃなくてトライアンフなの?ということから始めたい。これは、先に紹介した当連載Vol.27の記事から抜粋引用すると、「BMC(BLの前身)は、1968年には『ローバー』『トライアンフ』『ランドローバー』などを持っていた『レイランド・グループ』と合併』とあるように、トライアンフがBLの傘下にあったためだ。

1970年代のトライアンフを代表する「ドロマイト」。生まれたなりゆきや登場後の経緯を追うだけで、この記事1本分くらいになるので詳細は控えるが(涙)、ちょっと高級でスポーティ、というトライアンフにぴったりのキャラとして長きにわたり販売が続いた。白眉は、2L SOHC16バルブ(127ps)を積んだ「スプリント」だ。

そして1970年代末、慢性的な経営難が続いていたBLでは、新型車のリリースも満足にできない状態だったため、欧州内メーカーとの協業によりトライアンフ・ドロマイトの後継車開発を模索。提携先は慎重に選ばれ、最終的に候補に残ったホンダに業務提携の打診が行われた。候補にはルノーなどの大きな企業も含まれていたが、その場合BLが飲み込まれる可能性があったため、同規模で先進性の高いホンダが選ばれたという。

話し合いはスムーズに進んで1979年には合意を完了。ホンダが生産車案に示した2代目「バラード」を、BLのカウリー工場で「アクレイム」として生産することも決まった。なお、現在では一般的な欧州での日本車製造は、このアクレイムが第一号だったことも記しておこう。

こちらが元となった初代ホンダ・バラードで、1980年に登場。2代目シビック(スーパー・シビック)をノッチバックセダンとしたクルマだが、2代目シビックにもセダンが設定されており、両車ではエクステリアが異なっていた(ややこしい)。

アクレイムへの期待値は大きく、BLはカウリー工場をリニューアルして対応。英国市場の好みに合わせるための変更は、ジャガー・ローバー・トライアンフを担うJRT部門が行った。バラードとの差異は少なく、外観上ではミラー・グリル・ボディサイドのターンシグナル・リアバンパーのバックフォグなどにとどまった。内装もほぼバラードを踏襲したが、色合いを変更したほか、シートフレームをBLの「イタル」から流用した。エンジンはシビック&バラード用の1335cc SOHCで、これに京浜のツインキャブを載せて70psを発生。5速マニュアルと3速ATを組み合わせた。とはいえ、前任のドロマイトがスポーティでならしたクルマだっただけに、トライアンフらしさやパワー面で大きく劣っていたのは否めなかった。

ほぼバラードのまま英国生産が行われた、トライアンフ・アクレイム。日本車を英国で生産することに対する懸念も沸き起こったが、それまでのBL製品の印象を覆す高品質でヒット作となった。唯一とも言える欠点は「室内の狭さ」だったが、それは販売台数にはあまり影響しなかったようだ。

さらにBLは、前述のように期待を込めつつも、アクレイムを「あくまでも同社生え抜きのラインナップを補完する車種」として見ていたのも事実だった。現地生産比率を見れば、事実上英国製のクルマだったとはいえ、彼らには、日本人や日本車に負けたく無いというプライドも少なからずあったはずだ。

しかし1981年6月から英国国内で発売を開始したアクレイムは、高い品質と信頼性・優れた経済性がユーザーに好まれ、好調に販売台数を伸ばした。懸念されていたドロマイトからの乗り換えも進み、わずか発売4週間で英国での新車販売第5位、1982年におけるランキングでも7位を記録するほどに売れたのである。

アクレイムが英国車であることを強く思わせるのが、架装メーカー「エイボン(Ladbroke Avon)が手がけた最上級バージョンだ。外装のドレスアップ、ウッドパネルとコノリーレザーのシートによる高級な内装が見所で、念入りな防音処理も施された。しかし追加価格が1365ポンド(当時のレートで約60万円)と高いこともあり想定以上に売れなかったため、1983年にはターボバージョンを追加。105psまでパワーアップしていたが、エクストラチャージも2990ポンド(130万円)に跳ね上がってしまい、こちらも売れずに終わった。写真は、エイボンのターボ版。

1982年、ベース車のバラードはマイナーチェンジでスラントノーズになったが、アクレイムの方は、1983年に装備の充実・内外装の小変更を行なった以外に大きな変更もなく、1984年夏に生産を終えている。なおアクレイム発売後の1982年、BLは大衆車部門を子会社のARG(オースチン・ローバー・グループ)として切り出していたが、ARG ではトライアンフブランドの存続は考えておらず、アクレイムは最後のトライアンフ乗用車となった。

品質が悪いと酷評されていたBLの名誉回復にも寄与した立役者として、アクレイムは忘れてはならない存在といえるだろう(その割にはとっても地味なクルマだけど…)。総生産台数は約13万台だった。

アクレイムには、下から「L」「HL」「HLS」「CD」の各トリムを設定。写真は「HLS」で、ベロアのシートモケット・カセットデッキなどの充実した装備が自慢だった。

【ローバー200】日本でも販売されたローバー200……えっ、初代はバラードそのものだったの!?

カクカクしたデザインが特徴の、初代ローバー200。当初のエンジンは、ホンダ製1.3Lを積んだ「213」のみだった。

アクレイムは思った以上の成果をあげたが、ベースのバラードがわずか3年で2代目に移行したのを受け、ARGではこれをローバーブランドの「200」として販売することにした。アクレイム同様、ほぼバラードの設計を受け継いでいたが、200ではフロントマスクをローバー独自のデザインに。インテリアもホンダデザインのままながら英国車の雰囲気を漂わせ、上位トリムの「SE」と「ヴァンデンプラ」には、英国車の象徴ともいえるウォールナット・パネルが奢られていた。

初代ローバー200のベースは、2代目バラードである。ボディパネルはシビックセダンと共用していたが、バラードではリトラクタブルヘッドライトを採用して区別した。かのCR-Xも、初代は「バラードスポーツ」を名乗っており、イメージが共通化されていた。

新型バラードではホイースベースが伸びて車内が広くなったため、アクレイムの欠点だった後席の狭さが改善された。エンジンもホンダ製で、1気筒あたり3バルブを持つ1342ccを搭載。従来以上に燃費性能・静粛性に優れており、シャープな外観も英国市場で高評価を得た。1985年には、ローバー製の1588cc「Sシリーズ」を新たに搭載した「216」も登場している。初代200(SD3)は成功作となり、1989年に2代目(R8)に置き換えられるまでに、約41万台が生産された。なおこのクルマの生産中の1986年、BLは社名をローバー・グループに変更、さらに1988年には経営権をブリティッシュ・エアロスペース(BAe)に売却。このあとに続くローバーを襲う悲劇の前触れは、すでにこの頃から出現していたのだった。

こちらはスポーティ版の「216ヴィテス(Vitesse)」。ヴィテスといえばローバー800のイメージがあるが、200にも設定されていた。エンジンはローバー自製の1.6Lで、ルーカスのインジェクションモデルでは104psを発生した。

1989年にデビューした2代目200は、当初5ドアのみでスタートした。そのためベースをシビックからコンチェルトの5ドアにスイッチしたが、フロントマスクを変えた以外は、ほぼコンチェルトの姿を保っていた。1990年になって3ドア、1992年と1993年には次いでクーペとカブリオレを追加。1994年にはメッキグリルが与えられ、1995年まで生産された。

5ドアハッチバックのみで発売を開始した2代目ローバー200は、マスクとテールライト以外はコンチェルトそのもの。当初のエンジンは、1.4リッターがローバーのKシリーズ、1.6Lがホンダ製、PSA製の1.8Lディーゼルターボ&1.9Lディーゼルが選べた。1990年には3ドアハッチバックを追加。ホットハッチの「GTi」も誕生した。

1993年以降には、流麗な2ドアクーペと開放感あふれるカブリオレも設定。日本でも1.6Lの「216」「216カブリオレ」と、200psを発生する2L DOHC16バルブ+ターボ(Tシリーズ)エンジンを搭載した「220GTi」と「220クーペ」が販売されていた。

【ローバー800】ローバー×ホンダ初となる、ローバーオリジナルデザインの兄弟車

ファストバックスタイルにハッチゲートを備えた高級車「ローバー3500」。のちに「2300」と「2600」を追加したため、開発コードの「SD1」と称されることが多い。

BLにはいくつものブランドがあり、上からジャガー/ダイムラー、ローバー、トライアンフ……と並んでいた。ローバーの高級車はジャガーに次ぐポジションで、名車も数多く輩出していた。その中のひとつが、画期的なデザインをまとっていた「3500(SD1)」だ。しかし英国車の暗黒時代だった1976年生まれのSD1も、やはり品質問題に追われており、BLも資金難だったために、その後継モデルの開発にも暗い影を落としていた。

そこで、アクレイムの成功で築かれたホンダとローバーの関係を生かし、後継車開発も協業で進むことになった。北米市場を含めた、2L以上の高級車市場に早急に進出したかったホンダも、手持ち最大のモデルがアコードだったため、ローバーの提案は渡りに船ともいえた。高級車作りに長けたローバーと組むことも、経験の乏しかった同社には大いに有意義だったのである。こうしてホンダは「HX」、ローバーでは「XX」というコードームを持つ高級車の開発がスタートした。

水平のベルトラインと大きな窓でフレッシュな印象を与えるローバー800。排気量に合わせた820/825の2種が用意された。最上級トリムは「スターリング」と呼ばれ、800の売り上げで大きな割合を占めた。写真は825SLi。

しかしその開発は、アクレイムや初代ローバー200のようにスムーズには進まなかった。ホンダが開発するフロアパンの共用化は決定したものの、日本では高級車も2L・5ナンバーサイズを設定する必要があったため、幅広い車体などを求めたローバーとは妥協点が見つからなかったのだ。そこで両社は、密接な関係を保ちつつも、最終的には内装を含め大きく異なったクルマを設計することとした。この高級車は、それぞれ「レジェンド」「ローバー800」と名付けられ、1985年と1986年に相次いで発売を開始した。

見た目がまったく違うが、れっきとした兄弟車の初代ホンダ・レジェンド。高級車作りを英国ローバーから学んだこと、北米の「アキュラ」ブランド向けだったこともあり、当時の日本製ライバル高級車「クラウン」「セドリック/グロリア」とは大きく方向性が異なる

レジェンドには、ホンダ製の2Lもしくは2.5L SOHC24バルブV6が積まれたが、800ではローバー製の2Lユニット「Mシリーズ」も搭載していた。その後1988年になって、両車ともに2.5L V6を2.7Lに拡大。レジェンドはこの際にフロントグリルを変更し、「ウイングターボ」と称した2Lターボモデルも追加している。

同年、80にはSD1を思わせる5ドアハッチバックも設定された。さらに1992年のマイナーチェンジでは外観に大きく手を入れたほか、立体的なメッキグリルを装着。1998年まで生産され、ローバー75にバトンタッチして生涯を終えた。

5ドア版には旗艦として「ヴィテス」も設定され、エアロパーツによって空気抵抗係数0.30を達成した。低中速トルクが薄いと批評された、ホンダの2.5L V6も2.7Lに拡大され、欠点を補っていた。

1992年には、アウターパネルを一新するビッグマイナーチェンジを実施して「R17型」に発展。シャープなデザインから柔和な雰囲気に変化した。新たに装着されたローバーの伝統を反映したグリルは、他の車種にも波及して、同社のアイデンティティを形成した。5ドアも存続し、ヴィテスのV6エンジンは2Lターボに換装している。かつてのP5クーペを思わせる2ドアクーペモデルも販売されていた。

【ローバー400】ローバー200から派生したサルーン&エステート

2代目200の4ドアセダンとして1990年から販売された「ローバー400」。写真は、ローバーグリルを装着後の姿。グレードは「GSiスポーツ」。控えめなスポーティさが好ましい。

「ローバー400」について書くために、話をローバー200に戻したい。というのも、1989年に2代目の200(R8)登場の翌年にリリースされたローバー400は、実質的には200の4ドアセダンかつ上位版だったためで、2代目200と同様に、こちらもホンダ・コンチェルトと車体を共用した。その後、他のローバー各車と同じように、フロントにメッキグリルを装着。コンパクトさが魅力なステーションワゴンの「トゥアラー」も追加され、200/400シリーズのボディバリエーションに華を添えた。

日本でも販売された「トゥアラー」。いかにも英国製ワゴンという雰囲気をたたえており、今なお魅力的だ。

1995年には2代目400(HHR)が登場。先代では同一車だったが、同時にデビューした3代目200(R3)は、リッターカーの「メトロ」後継を担うべく小型化され、設計もほぼローバーとなったのに対し、400は「初代ホンダ・ドマーニ」および6代目シビックの欧州向けをベースとしていた。5ドアハッチバックと4ドアセダンが発売されたが、トゥアラーや2ドアクーペ、カブリオレなどは作られなかった。

なお1995年の発売時には、親会社BAeがローバー・グループをBMWに売却した後だったため、ホンダとの提携関係は絶たれていた。1999年には、命名方法の変更を受けて「45」に車名を変え、ヘッドライトも75のような独立した円形を採用。2005年まで生産された。

初代ドマーニ(欧州シビック)の兄弟車だった2代目400。エンジンは1.4/1.6/2Lガソリン・2Lディーゼルがローバー製、1.6Lがホンダ製を積んだ。写真の4ドアセダン以外にも、使い勝手のよい5ドアも存在した。

顔がドマーニ、サイドがシビック(EK)、リアがハッチバック……という、日本人から見るとキメラのような6代目シビックの欧州バージョン(初期型)。ウィンドウグラフィックに、2代目400との近似性が見て取れる。

なんでここに初代インテグラが?と思うかもしれないが、これもなんとローバー400の一員だ。ただし販売はオーストラリアのみだった。

【ローバー600】 濃厚にホンダの風味を残した、アコードクラスの上質なサルーン

価格に比して装備が充実していたため、日本でも人気があっ、ローバーのDセグメントサルーン「600」。ホンダの2/2.3Lエンジンは、英国ホンダのスウィンドン工場で作られていた。

最後は、1993年に誕生した「ローバー600」で締めくくりたい。それまで、Dセグメントサルーンを持っていなかったローバーが、「4代目アコード(日本ではアスコット・イノーバ)」を元にして開発したモデルだ。とはいえ外観は完全にローバーテイストでまとめられており、落ち着きと品格のあるスタイルとなっていた。基本的な内装をホンダと共用しつつ、素材の違いで高級感を大きくアップしていたのも、ホンダとローバーの兄弟車に多く見られた特徴だ。1998年まで生産され、ローバー800と統合した後継モデルの75にあとを譲った。

しかしその後のローバーは……

ホンダの技術をほぼ使わず、ローバーが開発した3代目ローバー200(R3)は、2000年に「ローバー25」に改名したが、メーカーが破綻して南京汽車にMGのブランドのみ買い取られたことで、「MG3 SW」と名前を変えて販売されていた。SUV風のルックスは、2003年に「ローバー25ストリートワイズ」として発売された姿そのもの。なおMG各車は現在も中国で生産を続けており、英国でも販売が行われている。

前述のように、1994年にBMWはローバー・グループを買収している。しかしその経営はうまくいかず、2000年には早くも英国の投資グループの「フェニックス・コンソーシアム」にたった10ポンド(約1700円!)で売却。社名も「MGローバー」とした(この際BMWは、MINIブランドは手元に残している)。しかしローバーの販売は低迷し、2005年には経営破綻。中国の南京汽車がこのうちMGブランドのみを買い取り、さらに2007年に南京汽車を上海汽車が買収したため、現在は上海汽車がMGブランドを所有する。一方のローバーブランドは、インドのタタが現在知的財産権を保有しているが、ローバー復活の兆しは見えていない。

またまた長い記事になってしまったが、次回は「マイナー英国車列伝」の最終回をお送りしたい。これまでの3回は、いずれもBMC由来のクルマを取り上げたが、次こそお待ちかね?の、もう一つの英国民族系企業「ルーツ・グループ」を記してみたいと思う。

この記事を書いた人

遠藤イヅル

1971年生まれ。商経系大学を卒業後カーデザイン専門学校に入学。メーカー系レース部門の会社へ就職し、デザイナーとして勤務する。その後一般企業のデザイナーやディレクターとして働き、独立してイラストレーター・ライターとなった。実用車、商用車を特に好み、クルマの歴史にも詳しい。

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