ガンディーニらしさ際立つ1971年のショーカー
ランチア・ストラトスはまさに、「WRC制覇のために生まれた」クルマだ。「楔型」という言葉をそのまま形にしたようなシルエットは、危険とも言えるクイックな操縦性を想像させるが、実際その通り、並大抵のドライバーでは扱い切れない1台だったという。その元となったのは、1970年にベルトーネが発表したショーカー、「ストラトス・ゼロ」である。これはあのカウンタックにも連なる未来的なデザインのモデルであったが、レイアウトはミッドシップであり、市販化を視野に入れた現実的なものでもあった。
これに目をつけたランチアのワークス・ラリーチーム監督チェザーレ・フィオリオがラリー用ベース車としての可能性を読み取り、ベルトーネ、ランチア両者の思惑が一致した――というのが、ストラトス誕生の経緯と言われている。こうして生まれたランチア・ストラトスは、その思惑通りにWRCを席捲したわけだが、本格的なWRCへの投入と、市販仕様の製造開始は、それぞれともに1974年からであった。1972、1973年と、試験的にWRCへ参戦するのと並行して、プロトタイプも1971年から1973年にかけて数台が製作されている。
ここでご覧頂いているのは、1971年のトリノショーに展示された試作車、通称「プロトティーポ1」をハセガワ製1/24スケール・プラモデルのストラトスを改造して制作したものだ。このプロトティーポ1は、マルチェロ・ガンディーニのオリジナルな造形意図が最もストレートに反映されたデザインであり、彼の作品の特徴のひとつであるボディ表面のグラフィックな反復表現が見られる。ボディの基本的な形状は量産型ストラトスとほぼ同一だが、細かく見ると細部は色々と異なっている。
前後フードのアウトレットはまったく異なる形状であり、リアのサンシェードとルーフウィング、テールスポイラーも無く、リアデッキのアウトレットが剥き出しになっている。ボディパネルの構成も量産車とは異なり、前後のオーバーフェンダーは別体だ。また、量産車では前後に分割され後部がリアクォーターと一体になっているサイドシルも、プロトティーポ1では前後ホイールアーチ間が1枚に繋がっており、リアクォーターとは別体になっている。トランクリッドの横幅は量産型よりも狭い。また前後の灯火類も違っている。ホイールのデザインが異なり、超扁平タイヤであるピレリP7を履いていることもあって、足回りも量産車とは雰囲気を大きく異にする。
これらの相違点のせいで、プロトティーポ1は量産型ストラトスに特有の実戦的な競技車両っぽさが薄く、むしろストラトス・ゼロやカウンタックのような、エキゾティックなスーパーカー風味が濃厚だ。また、共通のモチーフから枝分かれした兄弟デザインであるフィアットX1/9やディーノ308GT4との血縁も、量産車よりも明確に感じられる。作例は、前述の通りハセガワのキットがベースだが、使用したのはロードカーバージョンである。以下、工作の詳細を見ていこう。
ボディ各部の形状を改修!
まず、フロントフードはルーバーを作り変えるため、輪郭に沿って切り抜く。開口部にプラ板を貼って形状を調整。この寸法に合わせてプラ板を切り出し、0.5mmプラ板の細切りを桟として等間隔に接着していく。11本の縦桟を接着して12個のスリットの出来上がり。これをボディにはめ込んで接着。周囲をマスキングテープで覆っておき、面出しヤスリで縦桟を削ってフードとツライチにした。
スカットルにある換気グリルは、孔を開けてプラパイプをハメ込み、汎用エッチング・メッシュを取り付けて再現。リアデッキ前側(サンシェードの下に当たる部分)を切り抜き、リアデッキ前部を0.5mmプラ板で自作。スリットの本数は異なるが、作り方はフロントと同じだ。ボディに接着したら、合わせ目のスキマはパテ埋めしておく。リアフェンダーはフレアの前後下部を削って除去。
リアエンド中央下部をモーターツールで削って取り除き、バックランプ取付け部を埋める。プラ板を手で曲げて曲面にし、除去した部分に接着、ポリパテで継ぎ目を成形する。ドアハンドルもモールドを除去し、四角く開口してからプッシュボタンとレバーを造形した。ドア後端上部のインテークに続くプレスラインを削り取り、インテークに続くパネルを後ろに延長して、開口部を縮小。トランクリッドの凹みは左右に3mm幅の0.5mmプラ板を接着して、横幅を縮小。
ホイールはフジミのフォードGT Mk.2のリムを旋盤で加工したものと、キットのホイールのセンター部分の組み合わせ。白い部分は全てプラ板で自作している。裏側の取り付けシャフトは2mmプラ棒。元のホイールと同じ構造にしておけば、取付けが容易だ。タイヤは写真上がキットのもので、前後同じサイズの70。下が作例に履かせたタイヤだが、前後ともピレリP7で、前はフジミの日産マーチ、後ろはフィアット・バルケッタから流用した。窓ガラスはガイアカラーのクリアブラックを内側から塗装した。
なお、実車はインテリアも量産車とはダッシュボードやシートの形状が異なるようだが、詳細な資料が入手出来なかったのと、完成すると着色ガラスのせいで中がほとんど見えないことから、キットのまま黒基調でディテールが目立たないように仕上げた。シャシーもマフラーとタイヤ・ホイール以外はキットのままであることをお断りしておく。