初めて『インテグラーレ』の車名を冠したランチア・デルタHFインテグラーレは、通称8Vと呼ばれ、それ以前のモデルを仮に”ナロー”と呼ぶならば、ナロー・デルタの魅力はそのシンプルなスタイリングだ。目にする機会は極端に少ないが、過去、こうしてHFターボ、HF4WDという2台を取材する機会に恵まれている。ここではその様子を振り返りたい。
2017年夏に名古屋のサンアイ自動車で取材した1986年式デルタHFターボ。何と販売価格は150万円。取材時点で売約済みだったが、販売中だったら激しく心を動かされていただろう。
デルタがインテグラーレを名乗る前のモデルに関しては、未知の領域だった。8Vはカー・マガジンではお馴染みの田中秀宣カメラマンが乗っていたし、16Vはかつて自身で所有。エボルツィオーネ以降は、いろいろと試乗する機会があった。しかしそれ以前は、たまにイベントで見かける程度。だからこそ気になっていた。乗ったらどうなのかと。
ジョルジェット・ジウジアーロ御大がデザインしたランチア・デルタは元々のフォルムがシンプルで素晴らしく、実は一番好きなのは初期モデルのスタイルだったりする。だからそれに限りなく近いインテグラーレ前のモデルたちもまた、形だけで言えば好みだ。
そして過去、まだ四角目時代のスポーツモデルであるHFターボと、その延長にあり、WRCグループBマシンであるデルタS4の代わりに急きょグループAホモロゲモデルとなったHF4WDを、それぞれ取材できたのは幸運だった。何せ前者は名古屋の『サンアイ自動車』、後者は静岡の『ビアルベーロ』と、都内からはそれなりに距離があったからだ。
2019年春に静岡のビアルベーロで取材した1987年式のHF4WD。302万4000円で販売中だったが、もちろん売約済み。10年ほど同店でメンテナンスされてきたコンディションのいい個体だった。
しかし駆け付けたかいはあった。いずれも動き出しが軽く、その速さが自分のイメージする速度感に近く、とにかく体にあうのだ。街中で流した程度なので4WDのトラクションはわからなかったが、両方乗った方に聞くと、高速域での安心感は4WDが上とのこと。
インテグラーレ以降のデルタがヒットしたのは、そのベースモデルが名車とも言えるスタイリングと性能を持っていたから。いずれもそう確信できる貴重な経験となった。
*当記事は『スクランブル・アーカイブ ランチア・デルタ』より再収録したものです。こちらも含めたランチア・デルタのすべてがわかる1冊、詳しくはこちらにて!
https://www.neko.co.jp/magazine/scramble-archive-lanciadelta
2019年秋にイタリア・トリノのFCAヘリテージ・ハブを訪れた時に撮影したデルタの初期モデル。グレードはエンブレムから『LX』とわかったが、特に資料がないので年式は不明。”素”状態のデルタは珍しく、この時初めて見た。
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ジウジアーロがデザインしたシンプルな形が際立つHFターボ。外装上の特徴は、控えめなオーバーフェンダー、フロントフードのエアインテーク、エンブレムなどとなる。
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エンジンルームはインテグラーレに比べると若干スペースに余裕がある印象。パワーが少ない分は熱量も少ないはずだが、エアコンは送風+α程度で、取材時は窓を全開で走った。
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前期型とは大幅にデザインが異なる、後のインテグラーレ最終まで使用されるインパネまわり。コンディション良好で、一部には新車時のビニールまでかかっていた。
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シートは見慣れたアルカンターラ。なお車検証で確認できたデータは、全長3890×全幅1620×全高1360mm、車重1070kg(前680/後390kg)、排気量1.58リッターとなる。
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テールゲートを開けるとガレーヂ伊太利屋の正規物なのだろう、同社のロゴが入ったボックスも備わっていた。ちなみに四角目のヘッドライトはSIEM製で、15490の品番だった。
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FFということで、インテグラーレではラゲッジスペース左に置かれるスペアタイヤが、ちゃんとボード下側に収まっている。銘柄はピレリP6で、サイズは175/65R14だった。
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インテグラーレに比べるとフェンダーの膨らみも小さく、逆にデルタが持つスタイリングのよさを感じさせる。赤だとインテグラーレ感があるが、地味色で乗るのもありだろう。
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テーマが由来の2リッターターボは、165ps/29.0kg-mを計上。ギャレット製T3ターボユニットを採用している。街中では、速さよりはジワリと実用トルクを補ってくれる印象。
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HFターボ後期、そして後のインテグラーレとも共通となるインパネ回りのデザイン。ステアリングやシフトノブはこれがノーマルで時代を感じさせるが、使用感はいずれも良好。
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こちらの個体はシートの状態も良好。アルカンターラを使用したレカロ・シートと言えばやはり、HFターボにもインテグラーレにも採用したこのミッソーニ柄であろう。