参戦初期にのみ見られた非フラットノーズ
量産車をベースとするFIAメイクス・チャンピオンシップは、1976年から新グループ5・シルエットフォーミュラに移行した。この規定に合わせて911ターボをベースに開発されたのがポルシェ935だ。シルエットフォーミュラの車両規定は、ボディの主たる部分――すなわちキャビン部分とドア・前後フードの原形を保ってロードカーのオリジナル形態をとどめつつ、それ以外は材質も形状もほぼ自由に変更出来る、というもの。これを最大限に解釈したポルシェ・ワークスは、911のヘッドライトとその後方に続く峰の部分を変更可能なフェンダーの一部と解釈し、空力的に極めて有利なフラットノーズを生み出したのである。
しかし、ポルシェ社内でも「フラットノーズはシルエットフォーミュラの精神に反する」という意見があっため、あえて911フェイスに戻したフロントフェンダーも用意された。このあたり、レース慣れしたポルシェの周到さを感じさせる部分ではある。911フェイスの935は、1976年シーズン前半のシルバーストーンやヴァレルンガなど数戦に出走。最大のライバルBMW3.0CSLが後半戦で本領を発揮し始めると、フラットノーズに完全に移行した。
ご覧頂いている作品は、タミヤ1/24プラモデルの935をベースに、同じくタミヤの911ターボ(ロードカー)のフロントフェンダー上部およびヘッドライトを移植して、1976年ヴァレルンガ6時間レース優勝車としたもの。スポーツカー・シリーズ1作目である935は1977年のリリースで最後の再販は2010年だが、中古キット専門店やネットオークションでも比較的見つけやすい。キットはモーターライズで(再販品でもその跡がシャシーに残る)ディテールにも素朴な部分があるが、プロポーションは良好で考証も万全だ。1976年前期型なのでノーズ形状以外は第2戦ヴァレルンガ仕様と同一であり、最小限の工作で改造可能だった。
911ターボのフェンダーを移植する
まずキットのフェンダー上面をモーターツールで刳り貫く。フェンダー上部とヘッドライトのドナーとなった911ターボは2005年のリリースで、2つのキットの間には30年近い歳月が流れているが、911ターボから切り取った部分が935のボディにほぼピタリとはまる。さすがはタミヤ製品である。フェンダーのギャップにはMr.SSPパテを盛りつけて造形。パテの流動性を利用して、滑らかな曲面になるようボディを傾けながら硬化させた。バンパーのヘッドライト穴はプラ板とパテで埋めたが、オイルクーラーと左右インテークは元のままだ。
リアウィング下側はボディにモールドされていて継ぎ目が生じてしまうので、エッチングのこで切り離した。開口部前側には内側からプラ板を貼り、フード前端が乗るようにする。切り離したウィング下部はリアウィングに接着、継ぎ目にMr.SSPパテを盛って成形した。上段ウィングは別体のままにしておく。使用したキットは2000年頃の再販品だが、大半のデカールはキット付属のものを使った。フロントフードとドアのゼッケンはMacのドローソフト・インクスケープで版下を作り、レーザープリンターでクリアーデカールに印刷したもの。
930系911ベースのレース仕様における究極の1台は、改造工作の入門篇に最適の1台でもある。読者諸兄にもぜひお楽しみいただきたい。