官民一体となったシステム標準化の動きが必須
車道に駐車しているクルマが脇から、横断歩道のないところを渡ろうとして、急に近づいてきたクルマにハッとした。
そんな経験がある人は少なくないのではないだろうか。もし、こうした状況でスマホに「クルマが接近中」というアラートが鳴ったら、歩行者の安心感は増すと思う。さらにいえば、いわゆる池袋暴走事故のような、異常な動きをするクルマが近くにいる場合、スマホにアラートが鳴れば、事前に身を構えることが可能になる。いうなれば、緊急地震速報のようなものだ。
スマートフォンを見ていると周囲への注意力が低下しがち。そんな時に画面にクルマが接近していることを知らせてくれるのがこのシステムの特徴だ。
こうした技術を、V2P(ブイツゥピー:ビークル・トゥ・ペデストリアン)と呼ぶ。クルマと歩行者の間の通信という意味で、日本語では歩車間通信と呼ばれる。クルマに関して、通信によるコネクテッド技術では、V2V(車車間通信)やV2I(路車間通信)といった分野の研究開発や段階的な実用化が進んでいる。ここにV2Pも加わる形だ。
駐車車両などがあり、見通しが悪い場所は、車両が通過した際にその地点を登録してくれる。
では、具体的にV2Pをどうやって行うのか? ホンダはソフトバンクと連携して、これまで様々な基礎研究を進めてきた。技術的には、車載の画像認識用カメラで歩道から車道に向かって移動している危険歩行者の位置座標を検知する。位置の測位は、準天頂衛星(みちびき)と、GPSなどの各種衛星測位システムの基準局との連携により、数センチ単位での高い精度での位置を特定する。
その情報を第五世代通信(5G)の基地局に設けたデータ解析機器を通じて、歩行者のスマホなど通信端末に表示、音声、振動などで知らせる仕組みだ。今回はホンダのエンジニアが運転者と歩行者を模擬したデモンストレーションを見学した。
停車中のクルマの陰から歩行者が車道に出ようとしているが、クルマが接近していることに気が付いていないように見える。そしてクルマの陰から出ようとしたほんの少し前、スマホにアラートが鳴り、横断することを瞬時に止めた。
また、もうひとつのシチュエーションとして、画像認識用カメラで歩行者を捉えていないクルマに周辺のクルマに対しても、歩行者のスマホでのアラートと同時に車内でアラートがなり、歩行者と運転者双方のリスクを軽減できることを確認することができた。
ホンダは2050年にグローバルで新車のみならず保有されている全てのホンダ二輪・四輪車で交通死亡事故者ゼロを目指す。そのために、全ての交通参加者が通信でつながる社会の構築が必要であり、今後は官民一体となったシステム標準化の動きが加速しそうだ。