【国内試乗】現行メガーヌRSの最終進化型なのか? トロフィーMT仕様に試乗して分かった

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シャシースポールのスタンダードモデル、もしくはシャシーカップのトロフィーでも、2ペダルの6速EDC仕様はすでに展開していた。だがマイナーチェンジ後のフェイズに入ったメガーヌRSに、ついにトロフィー仕様のMTモデルが今夏より登場している。正式名は「ルノー・メガーヌRSトロフィー MT」だ。

メガーヌRSの歴史は、2008年にR26.Rの8分16秒9から始まったニュルブルクリンク北コースにおけるFF最速チャレンジと、切っても切り離せない。メガーヌ3世代のRSはデビュー早々の2011年に8分7秒97を樹立し、その後もルノー・スポールのテストドライバーであるロラン・ウルゴンは2014年、第3世代メガーヌRSトロフィーRで8分の壁を破る7分54秒36を、そして第4世代となる現行メガーヌRSトロフィーRは2019年に7分40秒100を打ち立てた。ライバルたちの挑戦を退けつつ、メガーヌRSはつねに市販FFとしてニュル最速の称号を維持してきた。

フルモデルチェンジあるいはマイナーチェンジの度にニュルでのタイムアタックは行われてきたが、2年前には鈴鹿サーキットでも「ホーム&アウェイ方式」とばかり、ウルゴンの手によってトロフィーRが2分25秒454を打ち立てた。この時はリアシートも4コントロール(4輪操舵システム)も取り払われ、軽量化を突き詰めた彼好みのオーバーステア寄りの仕様だった。メガーヌR.S.の進化とは、パワートレインも無論ながら、それこそハンドリング&シャシー能力の絶え間ない進化をタイムで証明して見せることでもあった。

今回のメガーヌRSのマイナーチェンジ版はMTとはいえ「トロフィー」というその名が示す通り、カーボンホイールやカーボンセラミックブレーキディスクで武装されて日本に30台が導入された、いつぞやのトロフィーRほど過激な仕様ではない。リアシートもあれば4コントロールも付いているMT仕様だが、パワートレインはクラッチ容量の関係で、6速EDC仕様の最大トルク420Nmより少しだけ絞られた400Nmとなる。ピークパワーは300psで、6000rpmという到達域もEDC仕様と同じくだ。

外観でマイナーチェンジ版メガーヌRSの見分け方は、まずルーフ後端側のアンテナがシャークフィンであり、フロントグリル中央のルノーのロザンジュ(菱形)・ロゴがフラッシュサーフェス処理であること。他にも前後のLEDランプの意匠が変更されており、リアは凹凸がほぼツライチに埋められてウィンカーがシーケンシャル式に。そしてフロントのヘッドライト外側のLEDは、「まつ毛」ライクに光るようになった。加えて今回の試乗車は標準装備の赤い5本スポークをあしらった鋳造アロイホイールではなく、オプションで選べるOZレーシングの鍛造アロイによる10本スポークモデルを履いていた。49万5000円という高価なオプションだが、1本あたり9㎏を切る軽さと、実物のマットな質感はなかなかいい。

室内では、トロフィー専用となるアルカンタラ張りのレカロ製バケットシートがドライバーを迎えてくれる。ノーマルモデルのスポーツシートもいいが、膝裏から骨盤、上腕まで面で包み込むようなサポートは、締めつけるようなタイトさより、心強さを感じさせる。MTのシフトノブのカタチこそEDCと似ているが、フラットに仕上げられたアルミ製の上面にはHパターンが刻まれており、リバースはノブ下のロックをすくい上げて左奥に入れる毎度のルノー式パターン。ABCペダルの配置は、ABとCの間をステアリングセンターが正しく貫通しており、左足を置くキックプレート位置を含め、ドライビングポジションに無理はない。とはいえアクセルとブレーキの間は決して近くなく、ヒール&トゥをするにはルノー乗りにはおなじみ「母指球&トゥ」となる。純粋に走るための操作系については、ノーサプライズだ。

むしろコクピット周りで新機軸は、エアコンの操作系がクロームリング付きの3連ダイヤルに改められた他、MTでありながらアダプティブクルーズコントロールを含むADASが備わることだ。無論、3秒以内の再発進までこなすストップ&ゴー機能は省かれているが、高速道路やバイパス路など5-6速の速度領域での巡航にACCが使える点は、快適装備として小さくない。それを可能であるのは、1.8Lターボの2000rpm前後からの鷹揚な特性あってのことだ。ちなみに「レース」もしくは「スポーツ」モードではローンチコントロールまで、今回のMT仕様には備わった。クラッチを切って1速に入れ、アクセルペダルを思い切り踏み込むと約2500rpmでアイドリングが安定するので、3秒以内にドライバーがクラッチを上げてミートさせる必要がある。要はクルマ任せのストップ&スタートはしないが、ドライバーの意志でロケット発進はMTでもあるべき、というジャッジなのだ。

肝心の走りだが、まだ走行距離1000kmを少し超えたばかりの個体だったせいと、久々のMT操作だったせいもあってか、少しシフトゲートの感触に渋さを感じた。だがドライブモードがノーマルのままで、何の変哲もない一般道であっても、すこぶるレスポンスの鋭い1.8LターボをMTで操りながら走らせるのは、素晴らしく刺激的な体験だった。同時にそれは、ホットハッチの系譜がかくも進化したことを、まざまざ見せつける洗練ぶりでもある。十分に刺激的だが、完成度の高いクルマ特有の穏やかさすら感じさせる、そういう凄味がトロフィーMTにはある。

先述した通り、EDC仕様より20Nm ほど最大トルクは抑え気味ながら、1-2-3速がほんの少しだけ低いギア比を与えられており、加速フィールは遜色ない。むしろMTゆえのダイレクト感ゆえ、ついつい踏み込ませる。足まわりは、ノーマルよりダンパー減衰力が25%、スプリングレートが前後それぞれ23%と35%、アンチロールバーも7%と、よりハードに固められているため、街乗りの速度域ではそこそこ固さはあるものの、入力に対して唐突さがなく、カドが丸められているので、嫌な乗り心地になっていない。

もうひとつ低速域で気づいたのは、4コントロールの逆位相による後輪操舵が、前期型では明らかに操舵時にヒップの辺りが外側に回り込んでいくような感覚だったのが、ごく自然な範囲に収まっている。60~100km/hを境に、前輪側と同位相操舵に転じるのは同じだが、公道では底が知れないほど限界は高い。MTのシフト操作と、ひたすらアンダーステア知らずのハンドリングを味わいつつ、弾けるようなトラクションでコーナーを脱けていると、いつの間にかFFであることを忘れてしまうほど。この感覚に寄与するのは、スムーズなエンジン特性もそうだが、アクラポヴィッチ入ってたっけ!?と思わせるほどワイルドな排気音、アクティブバルブ付きスポーツエキゾーストの効果も大きい。

さらにワインディングで驚いたのは、コーナーの出口に設けられたゼブラ状の凹凸不整がほとんど用を為さないほど、サスの上下動が滑らかで、LSDの効きもあって駆動という点でもいなし切って、加速できてしまうこと。以前にウルゴンに取材した時、現行メガーヌR.S.は、公道でもレースモードで楽しめる、そんな風に述べていたが、合点がいった。素のシャシー能力が高いだけでなく、それをとにかく引き出しやすい。それほど足まわりがスムーズにしなやかに、路面を捉え続ける。元より4コントロールによるハンドリングの自在感があるので、ロードホールディングの質は、クラスレスでさえある。それでいてCセグ・ホットハッチとしての軽快さは失われていない。FFのスーパーマシンとして、おそらく最後のRSかもしれないメガーヌ4世代のRSトロフィーは、ちょっと手のつけられない独立峰なのだ。

ルノー・スポールは今後、アルピーヌに組み込まれるという、70年代にアルピーヌがルノー傘下になった時とは逆の展開がアナウンスされている。往々にして後々になって分かることだが、A110と心臓部を共有するホットハッチが、この完成度の高さで、しかもMTで500万円を切ることは、空前絶後の出来事なのかもしれない。

【Specification】ルノー・メガーヌRSトロフィーMT
■全長×全幅×全高=4410×1875×1465mm
■ホイールベース=2670mm
■車両重量=1460kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1798cc
■最高出力=300ps(221kW)/6000rpm
■最大トルク=400Nm(40.8kg-m)/3200rpm
■トランスミッション=7速DCT
■サスペンション=前:ストラット、後:トーションビーム
■ブレーキ=前:Vディスク、後:ディスク
■タイヤサイズ=245/35R19
■車両本体価格(税込)=4,940,000円

公式ページ https://www.renault.jp/car_lineup/megane_rs/gps/index.html#MT

フォト=柏田芳敬 Y.Kashiwada

この記事を書いた人

南陽一浩

1971年生まれ、静岡県出身、慶應義塾大学卒。ネコ・パブリッシング勤務を経てフリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・男性ファッション・旅行等の分野において、おもに日仏の男性誌や専門誌へ寄稿し、企業や美術館のリサーチやコーディネイト通訳も手がける。2014年に帰国して活動の場を東京に移し、雑誌全般とウェブ媒体に試乗記やコラム、紀行文等を寄稿中。2020年よりAJAJの新米会員。

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南陽一浩
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2021/08/20 12:00

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