パリ五輪2024の引継ぎセレモニーが、実は通常運転の範囲内だったという話【フレンチ閑々】

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東京五輪2020が閉幕して閉幕して早10日あまり。東京の閉会式のすべり具合や、パリの引継ぎセレモニーの賑わいと演出のカッコよさに度肝を抜かれた云々といった話が、あちこちで報じられていたが、その感覚にビミョーに違和感を覚えたので記してみる。日本での報じられ方だと、まるでフランス側が引継ぎセレモニーのために目いっぱい力んで準備してきたように、勘違いされている節がある。

©Flora Metayer/PARIS 2024

こう書くとイヤらしいが、あちらが演出面で優ってしまうのは始まる(終わる?)前から分かっていたことで、ああした演出の数々はフランス的には全然、通常運転というか、すべてアンダー・コントロールの範囲内だ。

©Flora Metayer/PARIS 2024

というのも、あの引継ぎセレモニーは、毎年やっている革命記念日のパレードの、まったくもってヴァリアントといえる内容だった。いつもの7月14日なら凱旋門からコンコルド広場まで整然と行進してくる兵隊に代わり、トロカデロ広場のヴィレッジにテディ・リネールらオリンピアンと観客が陣取って踊りまくり、いつもなら専用車の後席から手を振る大統領は、エッフェル塔の展望台という固定席からこれまたボンジュール状態。感染症関連のコントロール含め警護セキュリティも断然、容易だっただろう。そして毎年のルーティンではシャンゼリゼ通り沿いに飛んでくるパトゥルイユ・ドゥ・フランスが、今回はエッフェル塔を巻きつつ、セーヌ川沿いに三色旗を描いたのがクライマックス、という訳だ。

©Boby/PARIS 2024

細かいことをいえば、革命記念日では9機が水平で矢印型のワイド陣形「ビッグナイン」で進みながら3機づつ1色のスモークを吐いてトリコロールを作る。対して今回は8機で「フュゼ(前方に突き出た形で、本来はロケットの意)」という、何だかローンチ向きの景気のいいフォーメーションで垂直隊形だったことは、微妙に見逃せない。ついでに地図で見てもらえれば分かるが、毎度のシャンゼリゼ沿いと、今回のエッフェル塔巻きセーヌ川沿いの飛行コースは、方角や角度は多少違うものの、隣り合わせの近さ。リハーサルはしたと思うが、パイロットらには手慣れたオペレーションだったはずだ。

©PARIS 2024

あとBMXがグラン・パレの屋根の上を走り抜ける映像があったが、パリの街の屋根をステージのように見立て、クラシックやヒップホップのダンサー、あるいはアクションといった演者を配するのは、じつはあちらの広告ヴィジュアルではド定番のひとつ。最近では確かシャネルが、オペラ・ガルニエの上にプリンシパルを立たせていた。ガラス屋根という割れモノとBMXという動きモノのコントラストといい、むしろオーソドックスな趣だった。

©Anaelle Le Roy/PARIS 2024

さらにオーソドックスだったのは、トロカデロとエッフェル塔、そしてグラン・パレという場所の選択だ。じつはこれらは1900年のパリ五輪、もっといえばオリンピック・ゲームが開催される枠組みになった1900年の万国博覧会に遡る建造物なのだ。東京五輪2020も1964年と韻を踏むのにあれこれ頑張ってはいたが、パリには1900年の第2回そして1924年の第8回近代五輪をも、こすっていけるポテンシャルがある。ベルエポックもアールデコもござれ、ということだ。

©PARIS 2024

まぁTrocadero 1900という風に、画像を検索してもらえれば今のトロカデロに建つシャイヨー宮とは似ても似つかない建物が出てくるものの、「自分大好き」なフランス人の、手のつけられない盛り上がりはまだ序の口、ということは覚悟しておいた方がいい。パラの開閉会式が心配なところだが、結局のところ、お洒落であるとか素敵なものが、日々の実践や下支えというよりプラスアルファで高くつくもの、になってしまった東京との違いが、これから増々目についてくる、ということだ。

この記事を書いた人

南陽一浩

1971年生まれ、静岡県出身、慶應義塾大学卒。ネコ・パブリッシング勤務を経てフリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・男性ファッション・旅行等の分野において、おもに日仏の男性誌や専門誌へ寄稿し、企業や美術館のリサーチやコーディネイト通訳も手がける。2014年に帰国して活動の場を東京に移し、雑誌全般とウェブ媒体に試乗記やコラム、紀行文等を寄稿中。2020年よりAJAJの新米会員。

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