それぞれに魅力的で運転しても心が弾む
シトロエンC3は2017年の発売当初から個人的に好意を抱いていたモデル。とにかくその角がない柔らかく愛らしいスタイリングに親近感が湧くし、ボディカラーも楽しげなものが多い。乗り味はいい意味で戦意を完全に消失させるほど牧歌的で、高速道路の法定速度すら速すぎると思ってしまうほどである。こういうクルマが道路に溢れたら、街の景色や雰囲気も明るくなるのではなかろうかと思ったりもする。
今年になってフェイスリフト版が日本へ上陸した。フロントフェイスやボディサイドのエアバンプなどの意匠が刷新され、シートもより肉厚なものに変更されている。でも幸いなことに乗り味に大きな変化はなく、相変わらず平和的な運転を満喫した。
試乗する際には必ず、試乗車の車検証を写メしている。自分の試乗のログとして残しておきたいのと、主に車重関連の情報を知りたいからだ。今回もいつものようにパチッとやって、写真のフォルダ内を眺めていたら驚いた。208とC3の車両重量が同値で、こういうことはたまにあるのだけれど、前軸重750kg/後軸重410kgで、前後重量配分までピタリ一緒だった。
この2台、エンジンはいずれも1.2Lの直列3気筒だが、ATは208が8速、C3は6速で、プラットフォームも208は最新のCMPだがC3はPF1を使っている。つまり中身はまったくの別物である。だから前後重量配分が同じでも、乗り味はまったく異なるわけで、前後に同等の荷重がかかっているということすらほとんどわからない。C3のほうが若干重心が高いものの、サスペンションのセッティングの妙により、重心由来の悪さはほとんど認められなかった。
ドラスティックな見た目の変更はないものの、ルノー・ルーテシアはプラットフォームを刷新したフルモデルチェンジである。CMF-Bは日産ノートなども共有するBセグメント用のプラットフォームで、サスペンションやステアリング系も見直されているようだ。個人的にもっとも興味を持ったのはそのボディサイズ。全長/全幅/ホイールベースは従来型よりも小さくなっているのである。モデルチェンジの度にどんどんボディが大きくなっていくクルマばかりが蔓延る昨今にあって、小さくしたとはなんとも賢明だ。それでいて居住空間が極端に狭くなった印象はなく、ラゲッジスペースはむしろ大きくなっている。パッケージを煮詰めた成果だろう。
乗り味も格段に向上している。従来型と比べると重厚感のようなものが付与されていて、直進安定性はすこぶるいい。操舵応答性とターンインからの過渡特性は208に似ているものの、ルーテシアのほうがばね上を上手に動かしながら旋回する。この時、後輪の接地感が想像以上に高く、お尻がしっかりと支えられている感触は安心感にも繋がって、躊躇なくステアリングを切っていける。
アウディA1を試したのはもうずいぶん前のことで、可もなく不可もなくくらいの印象だった。個性的なフレンチコンパクトの前では少々分が悪いだろうなと思っていたところとてもよく出来ていて、自分の記憶なんかちっともあてにならないと実感した。あるいは年次改良の効果かもしれないが、ドイツ車らしい引き締まった足元と正確なハンドリングと無駄のない挙動は潔くて清々しい。
試乗車の“25TFSI”は昨年追加導入された1Lの3気筒エンジンを搭載するモデル。7速DCTとのマッチングもよく、パワーは必要にして十分だった。ルーテシア以外の3台はすべて3気筒だったが独特の振動はどれも上手に抑え込まれており、気筒数の違いがもたらすNVへの影響は皆無と言っていいと思う。「3気筒=振動があってややウルサイ」はもはや過去の遺物となったようだ。
フレンチ3車が洗いざらしのリネンのシャツならば、A1はそれにアイロンを当てたシャツのようでもある。どちらのシャツも、それぞれに着心地がいいと感じる人がいるように、この4台もまたそれぞれに魅力的で、ボディカラーだけでなく運転しても心が弾む気分になった。何よりこの辺りのモデルは私たちにとって価格的にも近しい存在でなんともありがたい。A1だけ300万円を超えていてちょっと遠いけど。
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