大排気量V8が発するドロドロとした不規則なエキゾーストノート。燃費性能や効率は二の次で、ターボやモーターなどのアシスト類も一切なし。プリミティブな内燃機関のみが動力源。「社会性のないクルマ」と欧州プレミアムのメイクスは嫌味を言うかもしれないが、それも嫉妬と気づいている。そう、これが問答無用のマッスルアメリカンだ!
シルキーシックスに攻勢をかける6.2L V8の官能
カマロSSの魅力をお伝えするのに、丁寧な説明は不要のような気がする。
V型8気筒という、今は稀有な存在となってしまったマルチシリンターユニットを搭載。そのユニットは6.2Lもの排気量を誇る。しかも動弁系はもはや全滅危惧種かと心配になるOHVエンジンであり、これが怒涛のパワーを炸裂させる。
最高出力は453psに達し、最大トルクは617Nmだというのだから、その機構と数値を聞いただけで、おおよその走り味が想像できるに違いない。そしてその想像は、おそらく的を得ている。
コクピットに収まり、イグニッションスイッチに手をかけた瞬間、その獰猛なパワーユニットは周囲に遠慮なく吠える。回転計の針が所定の位置で安定しているというのに、ドロドロとした不規則なエキゾーストノートを路面に滴り落とすのである。
M440iは、驚くほど紳士的である。搭載されるパワーユニットは直列6気筒3Lターボであり、最高出力387ps、最大トルク500Nmを炸裂させる。紳士的なスポーツクーペとしては十分に躍動的な数値だが、カマロSSが威嚇するように喉を鳴らすと、大人しく感じてしまう。
例えるならば、カマロSSはルーズなデニムにスカジャンが似合うようなヤンチャな雰囲気に満ち溢れているのに対して、M440iは、タイトなスーツに身を包んだジェントルマンの落ち着きが漂う。こうして一緒に並んでいることが不自然なほど、生息地が異なるのだ。
理性を伴って冷静にアウトバーンを突き進む姿が本来のM440iなのに対してカマロSSは、LAの裏路地で屯するストリートギャングかのような遠慮のない獰猛さなのである。
その証拠に、カマロSSにはローンチコントロールも備わる。しかもそれは、後輪のスリップ率を任意でアジャストすることが可能であり、さらにはスタンバイ時の回転数も選択できる。そればかりか、後輪だけを空転させるためのラインロックすら備わる。その必要性には、理解に苦しんでしまう機能さえも備わっているのだ。一方のM440iは、前後イーヴンの重力配分にこだわる伝統的なFRスポーツクーペでありながら、スタビリティを求めた4輪駆動である。この点もいたずらに後輪を空転させることが楽しい魅力的なカマロSSと、4輪をコントロールしながら高速移動するM440iがまったく別の生き物なことを裏付けてる。
とはいうものの、カマロSSはドタバタとした危うい走り味ではない。ステアリングアシストは決して軽くなく、力強い走り味を備えてはいるものの、スリリングな挙動に陥ることはない。ヤンチャな素振りをしながら操縦性能に破綻はない。むしろM440iの方がステアリング初期から反応が良く、カミソリのような鋭さがある。いざ限界域まで追い込んでみると、M440iは内に秘めた獰猛な性格を露わになるから不思議である。
共通項があるとすれば、それはともにスポーツ心に満たしてくれることであり、コーナーを前にすれば強い横Gを味わいたくなるモデルである。前方に直線が開ければアクセルペダルを床まで踏み込んでみたくなることもあるだろう。ステアリングを握るドライバーをそんな衝動にさせるという意味では、根底に宿る魂に違いはないはずだ。
ただ、表現方法が異なるだけだ。そしてその表現が、M440iよりもカマロSSの方がヤンチャであり、分かりやすいというだけ。そう、われわれがイメージするキャラクターが、期待通りに表現されているのだ